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心を守ってくれた優しい人
🚫12 廊下でもお父さん抱っこ
しおりを挟むお母さまや侍女の人達みたいな、足首まで隠れる、釣り鐘型やプリンセスラインのような本格的な夜会ドレスではなく、脹ら脛までの丈のワンピースでよかった。
あんなの着せられた日には、裾を踏んづけて転ぶ未来しか見えない。それもきっと、王さまの目の前で。
フリルは殆どなくて、タックを多めに取ったりプリーツも多めに入っていて、コルセットなんかもしなくていいし、全体的にゆっりしたデザイン。ベロア生地が肌触りもよくて、お嬢様になった気分。
お母さまいわく、帝国の貴婦人達のような、コルセットだパニエだって鎧のような衣装は、健康によくないとのこと。
なんにせよ、着やすい服でよかった。
******
石造りのお屋敷の部屋の中は暖炉(やたぶん魔法)で暖かかったけど、廊下に出たら底冷えのする寒さだった。
夏休みにこちらに召喚されて約ひと月半ほど。まだ秋だよね?
それとも日本の季節と関係ないかな。
──時間軸は平行に、リアルタイムで召喚されたから、時間差や暦のズレはないよ
──今、日本でもちゃんと、10月の上旬かな?
そうなんだ。
──この辺りは高原地帯で、標高は高いし、夜霧が降りる頃だからね
──これから、明け方はグッと冷えるよ
「メラ、ウィン、エア、ルク、その他の精霊達も。萌々香が冷えないように気をつかってやってくれ」
──あ~い
評議国にいた時のマクロンさんは、精霊の声は聴けなかったのに、今は、自分の守護精霊でなくても会話してる。
「評議国にいた時は、身バレしないように、名前も変えて、記憶や魔力の大半を封印していたんだ」
「記憶も?」
「そう。誓約付きの魔法で身元を確認されたら偽れないからね。この国の身内や過去の経歴などを忘れてイサナの遠縁のひとりとして入国したんだ」
竜王国は、この辺りでは帝国に次ぐ大きい国で、星竜を慕って集まる精霊の多さと魔法技術の発達、経済の発展と豊かな大地で、国力はむしろ帝国より大きいのだと、落ち人救済監理局での勉強で学んだ。
その大国の重要人物だとバレたら、あの国でどう扱われるか解らないという警戒は、理解できる。
「だから、名も家名のマクロンだけで、生まれつきの基礎的な生体魔法と、便宜上降霊しておいた緑樹の精霊だけで薬剤調合魔法士をやって、あの国を見ていた」
「国を見るの?」
「そう。それが、私の本来の存在意義だから」
間近で見るマクロンさんの横顔は、シュッとした、若かりし頃の竹野内豊から濃さとか若々しい健康的な熱量を差し引いたような、見てるだけで謎に恥ずかしくなってくるくらい整っているけれど、人の形をした別次元の生き物のように感じる。
勿論、そんな事誰にも言えないけど。
間近。そう、その長い廊下も、自分の足で歩かせてもらえず、お父さん抱っこなのだ。
マクロンさんにとって私は、もうすぐ17歳だと口では言っていても、感覚的には10歳児なのかもしれないな。
次話
🚫13 漢字で呼びたい
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