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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
108.なかなか来ないシーグ
しおりを挟む門から少し離れた木陰に居るはずのシーグがまだ来ていない。
私より先に出たし、人目につかないように林の中を移動していたにしても、シーグの足なら、とっくに門の外に居ると思っていたのに。
それに加えて、私は街門で順番待ちをした分余計に時間を食っている。検問されずに、城壁を飛び越えるシーグは、どう考えても先にいなければおかしい。
──何かあったのかな
先程、二隊の衛士に、穢れ騒ぎがあったと聞いたばかりだ。不安がよぎる。
サヴィアンヌは、シーグの胸ポケットに収まって一緒に行っている。
アリアンロッドとシーグはセットで居ない方がいいだろうし、私かカインハウザー様とくっつきたがるので、同じく私と離れたがらないフィリシアと共にここに居る。
《見て来ようか? 妖精王とシーグの気配なら追えるわよ》
あまりシオリから離れたくないけど⋯⋯
そう言いながら、フィリシアが門の向こうへ姿を消す。
私の感情を核に生まれたアリアンロッドと違い、召喚した使役精霊でもないフィリシアは、向こうからの好意での守護と、名付けでの絆を結んだだけなので、その姿は可視化も透過する事も出来る。
人に見られず行動するにはうってつけとも言える。
しばらく──10分ほど待っていると、先にフィリシアが、次いでサヴィアンヌが、やがて狼の耳と尾を出したシーグが壁を飛び越えて来た。着地後、直ぐにお耳もお尻尾も収納?する。
「悪い、待たせた」
「何があったの?」
「またあの女だ。黄色い頭の、光の精霊を連れた巫女。⋯⋯あの精霊は、フィリシアより大きくて年寄りで、面倒くさい」
「光の精霊? 美弥子が光の精霊を連れてたの?」
《ビビったワヨ。いきなり、大声で呼びつけるんだモノ。グスタフの精霊より年寄りで強大ダシ、光の精霊だから逆らえなくてネ》
美弥子は、聖女として力をつけるべく、神殿で魔術を勉強するうちに、この国の建国の精霊より長く存在する、力の強い精霊と契約したらしい。
サヴィアンヌやフィリシアの守護と違い、契約で力を貸し与える、いわば美弥子の武器にも盾にもなる『手段』として憑いているらしい。
《あんなのを手足としてるんナラ、ミヤコが偉そうにしてるのも少しはわかるワネ。おっかないおっかない⋯⋯》
「怖いの? この国より長生きでこの地を取りまとめる妖精王のサヴィアンヌが?」
《アレに逆らって怒らせた結果、光の純粋霊気で攻撃されタラ、ワタシもフィリシアも、消滅して女神の掌に還るワネ》
そ、そんなに強いの!? 『聖女』を名乗るだけはあるわね。
「で、でも、考えようによっては、『聖女』様の美弥子が、国一番の光の精霊を連れているのは、明るいことなんじゃないの? 瘴気や闇落ちを滅するのに、心強いでしょう?」
《まァね? 一つ二つの闇落ちを滅するだけナラ、サクラのチビっ子でも充分だケド、魔獣の狂行進を纏めて瘴気祓いしタリ、街一つ冥界に堕ちたのをまるごとの瘴気祓いした上デ、街中に溢れた闇落ちを全部一気に浄化するんナラ、あれくらいの大精霊が余裕あっていいワヨネ》
私やアリアンロッドじゃ、とても無理よ、そんなの。
《まあ、あまりこちらに構わないようにお願いして、話つけてきたから、ミヤコが強く望まない限り、チョッカイは出してこないでしょ》
「フィリシア!! ありがとう。助かるわ! 頼りになる!!」
美弥子が望まない限りと言うことなら、ほぼ絡んでくる事ないわよね。よかった!
《それはどうカシラネ? ⋯⋯ダッテ、ネェ?》
サヴィアンヌが意味有りげに、フィリシアとシーグに順に視線を送る。
ふたりはそれぞれ、サヴィアンヌから視線をそらす。
え? どういう事? 何かあるの?
《ま、まあ、今は、そんな不確定要素に気を取られても仕方ないわ。ミヤコがシオリと距離を置きたがってるのは間違いないんだから、気を取り直して、羊の見学に行きましょう?》
フィリシアに促されて、当初の予定通り、ハビスさんの羊の牧場と加工場見学へ向かった。
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