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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

84.引き渡し交渉

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 私の初めてのひとり旅──シーグもいるけど、カインハウザー様達からすればものを話す狼犬で、サヴィアンヌやアリアンロッドもいるけれど人の保護者とは違う状況──は、たった14日ほどの、見聞旅というよりかは国内小旅行程度だったけれど、未成年と言うことが、この国の事をあまりよく解ってない事が、心配させたようである。

 あと数日でここでの成人、15歳になるというのに。

 そして、背後から殺気にも似た不機嫌な気配がする。

 狼の姿のままのシーグである。彼にとってのつがいである私を、カインハウザー様が抱え上げているのが容認できないのだろう。
 そんな、心配するような関係じゃないのに。

 これは早々に、彼は本当は、獣の姿も持っているけれど実は人間で、本当につがいとして生涯を共にする伴侶なんですって、公表したほうがいいのかもしれない。

 それよりも、とにかく今は早く下ろしてもらいたいのだけど、きっかけが摑めない。
 本当に心配してくれたのだろう、私が生きて脈打つあたたかみをかみしめているらしいカインハウザー様に、声をかけづらい。

 だけど、シーグが不機嫌になる程度には、周りから見ても、後見人と保護児童の感動の再会というよりも、「」と甘い空気を堪能している若き領主様に見えている可能性が⋯⋯

「ここを通してくれないか!?」
「僧兵といえど、武装した集団を、領主の許可もなく通すことは出来ぬ」

 ハルカスさんの通る声が、城門の向こうから聴こえてくる。

「害意はない。なんなら、武具はここで置いてもいい。ただ、こちらへ逃走した、巨大な狼に乗った少女を探している」
「何の咎のある罪人を追っているのかは知らぬが、枢機卿以上の上位聖職者の委任状をお持ちか?」
「ぬ⋯⋯ 罪人ではない。大きな精霊の加護を持った少女ゆえ、多くの民を救った報奨を与え、可能なら才能を伸ばすべく神殿にて預かり⋯⋯」
「はて? まるで罪人を追うかのような気迫であったが⋯⋯ 委任状もなく、神殿の領域でもない地に踏み込んで、人を拐かすおつもりか?」
「罪人でもなく、報奨を与えるべき者がとはおかしな話。いたいけな少女が、逃げ出すようなところなのかね? クロノ神殿とは」

 うーん、ハルカスさん、取り付く島もない。ドルトスさんも辛辣。

「と、とにかく、ここへの田園地で見失ったのだ。森や街道へは逃げていないので、ここを通ったはずなのだ」
「逃げる、ねぇ?」
「む、いや、その、畑の間を行く農民や家畜の妨が⋯⋯避け損ないを気遣わねばならず、農民がその場に蹲っ うずくま たり散らかった作物などが邪魔⋯⋯避けて通らねばならず、見失ったが、街道の方へ戻ったり森の方へは行っていないのは確かで⋯⋯」

 僧兵さん、本音が隠せてませんよ?

 同じ事を思ったのだろうカインハウザー様が、私の肩でクックックっと笑うのがくすぐったくて、変な声で私も笑い出しそうだった。

「あれは、ドルトス達に任せて、行こうか」

 あれ呼ばわりされた僧兵さんは、さすがにここで強引に武力で押し通ろうとは思わないみたいで、交渉は難航していた。
 まずあの二人に、ここを通す気がない上に、彼らもちゃんと筋を通しきれていない。

 捜索したければ委任状を持ってこい。急いでいる。
 罪人ではないなら協力できない。保護すべき人物だ。
 見ていないが、保護される気はなさそうだ。この国にとっても重要人物となる可能性があるから保護させろ。
 重要人物なら尚の事、大司教なり大神官なりの委任状を持ってこい。咄嗟の出来事で急いでて後から持って来る。

「話にならないな。俺は、などは知らんが、たとえこの街の住人であっても、逃げ込んだだけの通りすがりだとしても、正規の手順も踏まず、僧兵の姿をしてはいるが身の証を立てず、子供を引き渡せの一点張りでは、こちらとしては領主に話を通すことも出来ん。出直してこい」
 そう言って、ドルトスさんは小扉からこちらへ戻って来てしまった。

「衛士隊総大将の判断が否とされた以上、我々はあなた方に協力する訳には参りません。お引き取りください」
 ハルカスさんが、きっぱりお断りする。

「あの大将は、元々我々には非協力的であったでしょう? そこをなんとか、ご協力願えませんか?」

 ドルトスさん、前々から、僧兵達に対して愛想がないと知れ渡ってるのね。そう言えば、初めてこの街に来た時、神殿に与する住人は居ないとか言ってたっけ。

「あまり、無理を言うようなら、私が父や兄と相談して、国王と大神官に申し立てすることになりますがよろしいでしょうか?」

 おお? キーシンさん、さすが貴族子息。使えるものは親の威光も使うの? そういうタイプには見えなかったけれど。

「ああいう、使われている立場の、上の者の命令に真面目に従うやつには、上司より上の者から言わせた方がきくんだよ」

 なるほど。それはそうかもしれない。

「しかし。やっと14日ぶりに帰って来たかと思えば、初っ端から派手に追われてたり、狼に乗って跳んで来たり。かと思えば人前で堂々とセル坊とラブシーン繰り広げてたり。相変わらずで何よりだ。クククッ。後ろでオオカミ君が凄え目で睨んでるぜ?」



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