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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
65.経済聖堂
しおりを挟む「見えて来ましたわ」
私と姉妹に見えると言われたルーチェさんが、帽子を風に飛ばされないよう抑えながら、窓の外を指す。
自動車ほど高速で移動できない(ゆったり漕ぐ自転車くらい?)乗合馬車で二日。
この国は思ったほど広くないのかもしれない。
大まかな景観、形はイタリアとかの観光案内で見かける○○大聖堂とか○○礼拝堂とか呼ばれるものに似てるかな?
石造りの大きな建物で、近づくと中東のモスクのように、青と緑とオレンジのタイルを貼り合わせて綺麗に幾何学模様を作り出している。
魔術があるこの世界では、工業技術が発達しなくても高温を保つことができるからか、ガラス工芸の技術はあった。
色ガラスがあれば、タイル模様と同じで、ステンドグラスもあるらしい。
手作業なので枠が多少歪だったり、色具合が均等ではなかったりするけれど、その分、味はあるし、同じものは二つと存在しない。写真撮影の技術もないので、形状記録の保存は手描きらしい。画家はそこそこ需要があるみたい。
中に入ると、教会の礼拝堂のように、真ん中の通路に絨毯が敷かれ、左右に長椅子が並べられている。
奥へ進むと、ステンドグラスの光を移しこんだ台座に、何か置かれていた。
本?
細かい毛が密に揃ったビロードのような布に、分厚い辞書のような本が置かれている。昭和の頃のアルバムにあるような分厚い表紙に、金の箔押しの模様が施され、
「古典文字なので読めないですが、経済の発展と国の有り様について、神様のありがたい教えが書かれているそうですわ」
と言うルーチェさんの言葉で、周りの人達は読めないのだと判る。
私は、召喚された時に神官たちの刷り込みで覚え込まされた知識のおかげで、文字が目に入ると、自動的に脳内で意味のわかる言葉に置き換えられている。
美弥子達を喚びつけて、聖女や巫女として魔術を教えこむ時に、古文書を読ませるのに苦労しないために、先に文字だけは基礎知識として刷り込んでくれたのだろうが、どうせなら一般人向けの共用簡易文字も刷り込んでおいて欲しかった。
おかげで、領主館の図書室の、古典は読めるのに一般人向けの普通図書が読めない、成人間近だというのに手紙やメモも読み書きできない怪しい人物になってしまったじゃないの。
人並みに読み書きできるようになるのに、どれだけ勉強したと……!!
て、今はまわりのみんなには関係のない話だった。
私は、神妙な顔をして頷く。
涙を溜めて拝む人や、膝をついて両手を組み、祈る人もいる。
精霊や妖精が身近にいる世界だから、神様もより鮮明に存在感があって信仰も深いものなのだろう。
神気とやらはわからないけど、この本全体から、強い力を感じるのは確かだ。
《まあ、確かにメトロ神の神気は宿ってるシ、ありがたいお言葉も載ってるんだろうケド、これ自体を拝む事に意味はあるのかしらネ?》
本のそばまで行って、覗き込むサヴィアンヌ。
ここでは、気配を隠しているのか、いる事を知っているルーチェさん家族と私しか、サヴィアンヌを視ている人はいないみたい。
「なんて仰っているのか、聴こえないってもどかしいわ」
残念そうに小声で悔しがるルーチェさん。フィリシアは、ここの風の通らない空間を嫌がって外で待っているので、通訳がないのだ。
アリアンロッドはついてきて、私の腰に縋りついている。
≪アリアン、ここ・好きくない。早く行こ?≫
神気が満たされた聖堂なら、精霊達は好きなのかと思ってたけど、フィリシア同様、アリアンロッドも落ち着かないようだった。この子も風の精霊が混じってるからかな?
《シオリはちゃんと蜂蜜も売ってるし、萬屋にも登録したし、ココは拝まなくてもいいんじゃナイ? 観光程度デ。行こ?》
サヴィアンヌまで、出たそう。
確かに、加護をくださったというアルファ様はともかく、メトロ様は、たとえお会いしても、お仕事がうまくいきますように、みんなの生活が心豊かにいられますようにって祈るくらいかしら?
軽くお祈りをしたあとは、ステンドグラスや燭台の工芸性を楽しみながら、ゆっくりと聖堂内をまわって、外に出た。
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