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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

61.詩桜里のいい人

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「ふふふ。心当たりがあるみたいね? ねえ? なの? その秘密の恋文のお相手」
「違いますっ。ただの、お世話になってる人です」
「あら、魔力や霊気の波長を合わせられないと読めない、二重の鍵がかかる手紙なのに? しかも、便箋や封蝋をご自身の髪や瞳の色に合わせるなんて、意味深なものなのに?」

 ただ魔素に感応させても表面が光るだけで、魔力や霊気の波長も合わせないと、文字として読めないのだという。

「そんな、そこまでの事は書いてなかったと思うけど⋯⋯」
《シーグに対する意地悪的なイタズラだったりシテ?》
「カインハウザー様がそんな手の混んだこと、態々わざわざされるかしら? それに、この内容なら、シークに秘密って事でもないわ」
《だからこその意地悪なイタズラなんじゃないの?》

 よくわからないけど、サヴィアンヌいわく、たいした内容でもないのにワザと秘密にするからこそ、気になるであろうシーグへのイタズラになるのだという。
《本当に重要な秘密を堂々と隠したら、それこそ、洒落にならなくなるデショ? オス同士の嫉妬は怖いワヨ~》

「まあ、フィオリーナさんのお相手は、氷の貴公子と名高いハウザー卿なの? 素晴らしいわ」
「いえ、あの、今の話聞いてました? ただのお世話になってる人で、っていうか、職場の雇い主で、シーグをからかう冗談ネタにこういう手段を使ったって」
「ああ、そうでしたわ。フィオリーナさんのお相手はシーグさんでしたわね」
「そうそう」
「でも、そういうイタズラをされるなんて、フィオリーナさんに、全くの気がない訳ではないんじゃないかしら?」
「ええっ、そんなことある訳⋯⋯」

 何かロマンス的なものを期待したらしいルーチェさんは、カインハウザー様が、シーグに、態々わざわざヤキモチを焼かせるようなイタズラを仕掛けるのは、私に思うところがあって、シーグを焦らせようとしているのではないかという。
 本当に、そういう意味じゃないのだけど、内容を読んで聞かせるわけにもいかないし⋯⋯

「それに、今、会いたいと仰っていたでしょう? 離れた地にいる想い人の事かと」

 これくらいの年頃の女の子って、恋愛脳なのかしら。
 私も15歳になるけれど、そういった事はあまりないなあ。
 誰かが仲良さそうでも、あら?もしかして? とか、もう~焦れったいな、くっついちゃえ とかって、思った事ない。

 まさか、15歳前にしてすでに枯れてる?

 ううん、私にはシーグがいるわ。私の自信がなくて後ろ向きなところを優しく諭して後押ししてくれるし、お互いにずっとそばにいると誓いあったもの。
 お互い必要とし合う、つがいだもの。

《ワタシはどっちでもイイと思うケド》
「え、サヴィアンヌひどい。どうでもいいなんて」
《違うワヨ。。シオリのつがいはシーグでもセルティックでも、どちらでもいいと思うってコト》
≪セルがイイ! シオ、セル、アリアンのママとパパ!!≫
「いや、それ、違うって何回も⋯⋯」
「まあ、アリアンロッド大精霊様、詳しく聞かせてくださいな、やはり、フィオリーナさんとハウザー卿の間には、絆がありますの?」
≪シオがママで、セルがパパ。だから、アリアン生まれた!≫

 ちょっとー、誤解を生むようなこと言わないで!!
 しかも、アリアンロッド、あなたが合成人工精霊なのは秘密なのよ~!!

「ごめんなさい、このままじゃいつまでも朝ご飯が食べられないわ。そういう話は後で⋯⋯」

 強引に話を切り、寝間着代わりのカインハウザー様の室内着から、旅装の、ネルのシャツと厚地の綿のゆったりパンツをはいて、更に豚革のベストとスカートをはく。
 この世界では、パンツスタイルの女性はあまり見ないので、スカートを上からはいてみたのだ。

 地下に降り、昨日作ったバターや残った酪乳、などを持ち出し、パン種を形成して、竈に入れる。
「ふっくらと焼きあがるようにお願いね?」

 竈の中に棲む火霊にお願いして、昨夜の山猪の残りをバターで炒めた野菜と煮込んで、仕上げに酪乳を入れてクリームシチュー風に仕上げる。体が温まるだろう。
 残った野菜を、アリアンロッドに頼んで、熱い霧で蒸し焼きにしてもらう。温野菜サラダの出来上がり。

「凄いわ。魔法みたい。パンの焼き上がりと煮込みスープとサラダが同時にできあがるなんて」

 ルーチェさんが感激の声を上げると、マークリテさんとお母様も着替えて出ていらした。
 遅れて、シーグとお兄さん、最後にお父様が席に着かれる。

「お父様、今朝もフィオリーナさんがとても手際よくお作りになられたのよ」
「美味しそうな匂いだね?」

 食事が始まると、ルーチェさんが切り出した。

「お父様、かねてよりお願いしていた件、よろしいでしょうか?」
「うむ。私も、カリクも休みを取れた事だし、いいだろう」
「収穫祭のお休みを取られるのですか?」
「私も来年は成人ですし、カリクお兄さまも30歳におなりなので、節目とも言えますから、国内の神殿を何ヶ所か巡礼しようと思いますの」
「いいですね」
「で、ね? 相談なんですけど、フィオリーナさん、先程、帰りたいけどもう少しこの辺りを見たいとも仰られてましたでしょう?」
「ええ」
「どうかしら? よければ、私達と、東の経済や発展の神の経済教会メトロポリタンと北東の地母神の豊穣神殿テラスポリス、北の生と死の安寧の男神の静謐神殿クロノポリスをまわって、ハウザーへお戻りになりませんか?」



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