223 / 294
Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
61.詩桜里のいい人
しおりを挟む「ふふふ。心当たりがあるみたいね? ねえ? いい人なの? その秘密の恋文のお相手」
「違いますっ。ただの、お世話になってる人です」
「あら、魔力や霊気の波長を合わせられないと読めない、二重の鍵がかかる手紙なのに? しかも、便箋や封蝋をご自身の髪や瞳の色に合わせるなんて、意味深なものなのに?」
ただ魔素に感応させても表面が光るだけで、魔力や霊気の波長も合わせないと、文字として読めないのだという。
「そんな、そこまでの事は書いてなかったと思うけど⋯⋯」
《シーグに対する意地悪的なイタズラだったりシテ?》
「カインハウザー様がそんな手の混んだこと、態々されるかしら? それに、この内容なら、シークに秘密って事でもないわ」
《だからこその意地悪なイタズラなんじゃないの?》
よくわからないけど、サヴィアンヌいわく、たいした内容でもないのにワザと秘密にするからこそ、気になるであろうシーグへのイタズラになるのだという。
《本当に重要な秘密を堂々と隠したら、それこそ、洒落にならなくなるデショ? オス同士の嫉妬は怖いワヨ~》
「まあ、フィオリーナさんのお相手は、氷の貴公子と名高いハウザー卿なの? 素晴らしいわ」
「いえ、あの、今の話聞いてました? ただのお世話になってる人で、っていうか、職場の雇い主で、シーグをからかう冗談ネタにこういう手段を使ったって」
「ああ、そうでしたわ。フィオリーナさんのお相手はシーグさんでしたわね」
「そうそう」
「でも、そういうイタズラをされるなんて、フィオリーナさんに、全くの気がない訳ではないんじゃないかしら?」
「ええっ、そんなことある訳⋯⋯」
何かロマンス的なものを期待したらしいルーチェさんは、カインハウザー様が、シーグに、態々ヤキモチを焼かせるようなイタズラを仕掛けるのは、私に思うところがあって、シーグを焦らせようとしているのではないかという。
本当に、そういう意味じゃないのだけど、内容を読んで聞かせるわけにもいかないし⋯⋯
「それに、今、会いたいと仰っていたでしょう? 離れた地にいる想い人の事かと」
これくらいの年頃の女の子って、恋愛脳なのかしら。
私も15歳になるけれど、そういった事はあまりないなあ。
誰かが仲良さそうでも、あら?もしかして? とか、もう~焦れったいな、くっついちゃえ とかって、思った事ない。
まさか、15歳前にしてすでに枯れてる?
ううん、私にはシーグがいるわ。私の自信がなくて後ろ向きなところを優しく諭して後押ししてくれるし、お互いにずっとそばにいると誓いあったもの。
お互い必要とし合う、番いだもの。
《ワタシはどっちでもイイと思うケド》
「え、サヴィアンヌひどい。どうでもいいなんて」
《違うワヨ。どっちでも。シオリの番いはシーグでもセルティックでも、どちらでもいいと思うってコト》
≪セルがイイ! シオ、セル、アリアンのママとパパ!!≫
「いや、それ、違うって何回も⋯⋯」
「まあ、アリアンロッド大精霊様、詳しく聞かせてくださいな、やはり、フィオリーナさんとハウザー卿の間には、絆がありますの?」
≪シオがママで、セルがパパ。だから、アリアン生まれた!≫
ちょっとー、誤解を生むようなこと言わないで!!
しかも、アリアンロッド、あなたが合成人工精霊なのは秘密なのよ~!!
「ごめんなさい、このままじゃいつまでも朝ご飯が食べられないわ。そういう話は後で⋯⋯」
強引に話を切り、寝間着代わりのカインハウザー様の室内着から、旅装の、ネルのシャツと厚地の綿のゆったりパンツをはいて、更に豚革のベストとスカートをはく。
この世界では、パンツスタイルの女性はあまり見ないので、スカートを上からはいてみたのだ。
地下に降り、昨日作ったバターや残った酪乳、などを持ち出し、パン種を形成して、竈に入れる。
「ふっくらと焼きあがるようにお願いね?」
竈の中に棲む火霊にお願いして、昨夜の山猪の残りをバターで炒めた野菜と煮込んで、仕上げに酪乳を入れてクリームシチュー風に仕上げる。体が温まるだろう。
残った野菜を、アリアンロッドに頼んで、熱い霧で蒸し焼きにしてもらう。温野菜サラダの出来上がり。
「凄いわ。魔法みたい。パンの焼き上がりと煮込みスープとサラダが同時にできあがるなんて」
ルーチェさんが感激の声を上げると、マークリテさんとお母様も着替えて出ていらした。
遅れて、シーグとお兄さん、最後にお父様が席に着かれる。
「お父様、今朝もフィオリーナさんがとても手際よくお作りになられたのよ」
「美味しそうな匂いだね?」
食事が始まると、ルーチェさんが切り出した。
「お父様、かねてよりお願いしていた件、よろしいでしょうか?」
「うむ。私も、カリクも休みを取れた事だし、いいだろう」
「収穫祭のお休みを取られるのですか?」
「私も来年は成人ですし、カリクお兄さまも30歳におなりなので、節目とも言えますから、国内の神殿を何ヶ所か巡礼しようと思いますの」
「いいですね」
「で、ね? 相談なんですけど、フィオリーナさん、先程、帰りたいけどもう少しこの辺りを見たいとも仰られてましたでしょう?」
「ええ」
「どうかしら? よければ、私達と、東の経済や発展の神の経済教会と北東の地母神の豊穣神殿、北の生と死の安寧の男神の静謐神殿をまわって、ハウザーへお戻りになりませんか?」
2
お気に入りに追加
2,706
あなたにおすすめの小説
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる
小倉みち
ファンタジー
公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。
自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。
ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。
彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。
信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。
「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」
持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。
みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
小説家になろう様でも投稿しています。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!
咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。
家族はチート級に強いのに…
私は魔力ゼロ!?
今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?
優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます!
もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる