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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
60.空色の手紙
しおりを挟むなんだかんだで、陽が落ちると寒くなるし、暗くなると眠る人の多いこの世界。
電気なんてないし、灯りをつけるには獣脂を燃やしたり魚膏を燃やしたりしなくてはならない。
蝋燭は高級品で、庶民は早寝早起きが普通である。
このルーチェさんのご家族は、タウンハウス街に住んでいて、貴族ではないらしいのだが、そこそこの暮らしをしている。
昨夜も、ルーチェさんが眠るまで、小さな灯りは燈されていた。
つまり、ここの方は、さほど早起きではないということ。
私はルーチェさんを起こさないようにそっとベッドを抜け出し、窓際に椅子を移動させて座り、ウエストポーチから、ライトブルーのシンプルなデザインの封筒を出して、封蝋を確認し、端から丁寧に開封する。
❆❆❆❆❆❆❆
親愛なるフィオリーナ嬢へ
わたしも、君に倣って、作法を気にせずいつもの会話のように記すよ。その方が堅苦しくなくていいだろう?
初めての手紙だからね。
元気でいてくれて、嬉しいよ。
送り出した時は、わたしもついて行きたいくらいに心配したからね。
西へ向かっていたから、まずはキハへ行くと思っていたので、まさかすぐ近くのノドルに5日もいて、マガナから南下しているとは思わなかったよ。
ノドルは気に入ったのかい? 近いから、またいつでも行くといいだろう。
小さな村、中規模の街、大きな商業都市、乗合馬車での国内移動は、いろんな場所を観られて、この国を知るのにいいだろう。楽しんでおいで。
その馬車の街道は、終点まで乗ると、王都に着く。心配なら、ココネ山の麓の街道交差駅で、別の路線に乗り換えるといい。
ただ、南西へ行く3番街路はあまりおすすめしない。
瘴気に閉ざされた街や、闇落ちが出た廃棄都市もあるからね。
アリアンロッドと女王陛下がついているから滅多な事にはならないとは思うが、気をつけなさい。
風の精霊──君がこの街に来た時から君のそばを離れなかった子に、名前をあげたんだね。とても喜んでいた。おそらく、君が思う以上に。その名前は大切にしてあげるんだ。君の力になるだろう。
来週は、収穫祭。君のタンボもノル爺さん達が収穫し、天日干しとやらをしてある。最初のシンマイは君と食べるから、とっておくよ。
収穫祭が済めば、君の誕生日だね。成人おめでとう。戻ったらすぐに祝の席を設けるよ。
リリティスやメリッサ、館のみんなも、ロイス達衛士隊も待っている。
一回り成長した君に会える日を楽しみにしているよ。
ハウザー城砦 領主館にて A・セルティック・カインハウザー
❆❆❆❆❆❆❆
田んぼ! 稲のお世話は、中途半端にお爺ちゃんズに任せてしまった。黄金色の田んぼ⋯⋯は刈り取られたみたいだけど、天日干ししてると言うから、どんなか早く見たい。
カサリ
二枚の便箋と、もう一枚、無地の便箋が重ねられていた。
無地を入れるのは、本文が一枚だった場合なのでは? この世界では違う、とか?
《魔素に感応させるのヨ》
「えっ、あ、おはよう。⋯⋯びっくりした。サヴィアンヌ起きてたの?」
《通常なら元素精霊でもいいけど、多分これは、シオリとセルティックの両方の影響を受けているアリアンロッドが適任だと思うワ。アリアンロッドの放つ魔力に感応して文字が浮かび上がる、特殊文字だと思うカラ、やって見たラ?》
手のひらサイズの女王様姿のサヴィアンヌに言われて、アリアンロッドを喚ぶと、
≪シオ! アリアン居るよ!≫
すぐに顔を見せる。フィリシアもなんだなんだと寄ってきた。
《あら? 同胞の匂いね。水霊と光の精霊⋯⋯アリアンロッドも混じってる?》
《ああ、ヤッパリ? ねェ、アリアンロッド、ちょっとこの紙に、霧でも風でも光でもいいから、軽く当ててミテ?》
≪イイヨー≫
《紙だカラ、破れないようニそっとネ?》
アリアンロッドの生み出した霧が、便箋の表面を撫でると、青いインクの文字が浮き出てきた。
❆❆❆❆❆❆❆
今、これを読めていると言うことは、女王陛下が気づいたのかな?
この文は、あまり他人には見せないほうがいいかもしれないね。
君の手紙にあった、三人の宮女だが、
バレッタ・サラウィード
ギルビッタ・スレイン
ロレッタ・ミラノサローネ
だろう。現在王妃付きの侍女をしているらしい。
幼馴染に、風の愛し子がいて、上位貴族や神殿にあまりいい印象がない背景から、君に危害を加える可能性は低いと思うが、彼女達の周りで君に気づくものがいないかはよく気をつけなさい。
彼女達に悪意がなくても、彼女達とうち解けて気が緩んで愛し子の片鱗を見せたら、君を見つけた利用したい者に監禁されたりすることがあるかもしれない。
君の旅の無事をいつでも祈っているよ。
クロノポリスまでの街道と我が領地の浄化は完了したよ。
今日この後、国境までを浄化したらひとまず終了だ。
旅のキリがついたら、戻っておいで。
❆❆❆❆❆❆❆
美弥子達の大浄化が終わる? もう、戻ってもいいの?
まだ、たった8日なのに、長い間あってない気がする。
──会いたい。
カインハウザー様、リリティスさん。
メリッサさんやセルヴァンスさん。お館のみんな。
サヴィアや、置いてきてしまった三鈴達。
衛士隊のみんな、お爺ちゃんズ、鍛冶屋のオジサン、粉屋のお兄さん、ヒラスさんやドルトスさん。
私、いつの間にか、この世界の子になってる。思い出すのは、元いた日本の町ではなく、ハウザー砦街のことばかり。
「帰りたい。みんなに会いたい。でも、もう少し、この国を見てみたい気もする」
「いい人?」
「え? あ、え? あの、ごめんなさい、起こしちゃったかしら」
私の後ろからルーチェさんが声をかける。
慌てて手紙を折りたたむけど、ルーチェさんは笑った。
「心配しなくても見えなかったわ。精霊に感染させないと読めない特殊文書ね? 王城で働いていたって言う人かしら? 上位官僚が機密文書を扱う時に使う手よ。でもね、一般人でも使う人がいて、それはね、恋人に秘密の二人だけの恋文をしたためるときに使われるの」
「こっ!? これは、違⋯⋯」
「金色の封蝋と空色のレターセット。お相手の髪や瞳が、金や淡いブルーなのではなくて?」
顔が沸騰する感じが久し振りに来た! 本当に、久し振りだ。
確かに、金色の太陽の髪と、緑がかった淡い青銀の瞳。
──カインハウザー様の色だ
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