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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
42.初めてのお手紙
しおりを挟む外出も許されず友人に会うことも出来ない、屋敷の奥に囲われて毎日領地を祝福するだけの生活を強いられている友人を持つバレッタさん達は、私の精霊の守護の事も、他人に話す気はないという。
ただ魔法や精霊術が発展しているというだけの世界なら、そこまでの事はなかったのかもしれない。
或いは、巫女がもっといる国なら平気だったのかもしれない。
でも、この国の巫女はひとりしか居なかったし、去年亡くなってから新しい巫女は不在のまま、国のあちこちが瘴気に侵され朽ちていく。
瘴気のもととなる穢れを祓い土地を祝福する事のできる精霊を従えた存在は、この世界では誰もが喉から手が出るほど強く望むものなのだろう。
本当はその侯爵様だって、最初はただ領地を守りたかっただけなのかもしれない。思ったより効果が強く、また、王宮や神殿からのスカウトが来た事で、彼女を取られまいと焦った結果、強引に愛人にしてしまったのかもしれない。
彼女の価値が上がって、手放せなくて、囲い込んでしまったのかもしれない。
それでも、彼女が望んでない事なら、やってはいけない事のはず。
「フィオリーナちゃんは、ハウザー卿が居るんだから、何かあったら助けを求めるのよ」
「精霊に愛されていて、上位貴族に蔑まされていたハウザー卿なら、きっと助けてくださるわ」
「黒翼隊の面々も、精霊の加護を持った人たちが多かったし、理解がある方のはずよ」
ええ、それはもう、この世界に放り出された時からずっとお世話になってます。詳しくは言えないけど。
「だから、有事に備えて、もっと絆を深めておかなきゃね」
「そこの大きな精霊は、あなたの言葉をそのまま伝えてくれると言ってたでしょう? 声も口調もそのまま、あなたの口から出た言葉をそっくり全部持っていってくれるはずよ」
「彼女をハウザー卿だと思って話しかけたらいいの」
風の精霊だけに、音声──空気の振動波をそのまま再現できるということなのかな。
でも、綺麗なお姉さんのフィリシアをカインハウザー様だと思うのも難しければ、面と向かって話すことも恥ずかしい。
結果、私のとった行動は。
「恥ずかしがってないで、素直に話しかければいいのに」
「ハウザー卿だけが頼りなんです、とか、お慕いしてますとかねぇ」
「いや、恋文書いてるんじゃないですから」
「殿方に書くお手紙だもの、少しは艶めいたフレーズも入れた方が⋯⋯」
「だから、恋文じゃなくて、近況報告ですから」
「あらあ、そそられる言葉を差し込んでおいた方が、印象もよくなるし、ひとり旅が心細くて頼りにしてくれてるんだなって絆されてくださるかもよぉ?」
そういうタイプじゃないと思うけど。カインハウザー様も私も。
今は、マガナから乗合馬車で、ファーマーズを過ぎて街道交差駅のクルズに居て、このまま乗合馬車で終着駅まで行くつもりであること。
途中から乗ってきた、三人の宮廷女官のお姉さん達に親切にしてもらった事などを書く。
「うふふ、ハウザー卿への手紙に、私の名前が載るなんて光栄だわ」
「きっと、私達の事なんか知らないでしょうけどね」
「案外、知ってらしたとか、リサーチされて覚えてもらっちゃったりぃ?」
ああ、確かに、身許確認くらいはされるかもしれませんね。とは言いませんが。
≪ええ~ヤダヤダ、アリアン、行くぅ≫
《ワタシが! 頼まれたのよ? アンタは今までも毎晩、セルティックと会ってるでしょ! ここはワタシよ》
どちらかお使いに行くかでモメてる。う~ん、精霊ってこんなに個性豊かなのかしら?
「たぶん、彼女達が特殊な精霊だと思うわ」
「私も、こんなに人間みたいな感情を見せる精霊は見たことないもの」
バレッタさんやロレッタさんの目が、面白い物を見るようだったので、本当に珍しいのかも。
精霊が見えないギルビッタさんは、食後のお茶を優雅に口にした。
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