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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
41.精霊の加護を持つということ
しおりを挟む今まで、電話もないし、郵便局を見たこともなかったから、魔術を習うまでカインハウザー様と連絡が取れないかと思ってたけど、どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう⋯⋯
フィリシアが風の精霊なのもそうだけど、そもそも、アリアンロッドが毎晩カインハウザー様に会いに行ってるんだから、伝言を頼むとか、お手紙を預けるとか、出来たんじゃないのかしら?
「フィオリーナちゃん? どうしたの?」
でも、どう頼めばいいのかしら? 手紙やメールみたいに宛先を入力するわけじゃないし。
とりあえず、試してみるかしら?
「アリアン、フィリシア?」
呼びかけると、パッと、某サマンサのように姿を見せるふたり。
《なあに?》
《なんか、楽しい事? それとも難しい事?》
「今まで、言の葉って魔術をリリティスさんが使ってるのは一度見た事あったんだけど、使った事なくて。あなた達、カインハウザー様に、メッセージを届けたりって出来る?」
《出来るよ~! セル、お話いっぱいスル!》
《なんだ、そんな事。簡単よ。シオリの台詞をそのままセルティックに届ければいいんでしょう? そこらの風霊に出来てワタシに出来ない訳ないじゃない。手紙だって届けられるわよ》
やっぱり、そりゃあそうよね。しかもカインハウザー様なら、面識があるんだもの、宛先を伝える方法なんか考えなくてもよかったんだわ。
「フィリシア、カインハウザー様を知ってるの?」
《シオリが私に気づいてくれなかっただけでずっと側にいたんだもの、交友関係はすべて把握済みよ》
「それに関しては、悪いとは思ってます。でも、私、最初の頃は精霊や妖精を視る方法がわからなかったんだもの」
《あら、視えるようになってからも、私を個体として認識してなかったでしょ?》
「よく見る綺麗な風の精霊さんだとは思ってたよぅ」
フィリシアは、拗ねるように言ったものの、恨んでるとか怒ってる風ではない。多少傷ついてるかもしれないけど。ううん、私の色や匂いを気に入って守護してくれてたのなら、私がそれに気づかずスルーしてたら哀しいよね。
「ちょ、ちょっとごめんね、フィオリーナちゃん? あなた、妖精の保護者だけじゃなくて、そんな大きな精霊とも付き合いがあるの?」
《この子は、ワタシの恋人よ》
びっくりするようなことを言うけど、妖精の“結婚”や精霊の言う“愛しい”は、人間の情愛とは意味合いが違うのよね⋯⋯うん
「彼女が私を守護しててくれた事を教えてもらったのも、名前で呼ぶ事を許してもらったのも、昨日なんですけど、ずっと何ヶ月も側に居てくれてたらしいんです」
「凄いじゃないの。そんな大きな風の精霊がついてたら、何かあっても攻撃も防御も完璧、滅多な事で怪我したりしないし、今彼女が言ったとおり言の葉を覚えたり契約獣を作らなくても、通信手段にもなるし、なんなら、宮廷風魔術師として就任する事も出来るんじゃない?」
「風霊を使った魔術じゃなくて彼女を使役した精霊術も使えるんなら、この国の二人目の精霊術師になれるわよ」
私は、迂闊にも、思いついたすぐにアリアンロッド達を呼んで確認した事を後悔した。
ノドルのコールスロウズさんやマガナの街の野菜売りのオバサンのように、庶民寄りで、事情を察してくれる人たちではなく、王宮の魔術を使う宮廷女官の前で、精霊と交流してるところを見せてしまったのだ。
「あ、の⋯⋯」
「やだ、なんて表情してるのよ。何も、上位貴族に囲われろとか、神殿の奥で軟禁されろなんて言ってないでしょ?」
「あれは、気持ちのいいもんじゃないからね」
「もし、そんな声がかかったら、話も聞かないで断って、この精霊たちを使ってでも逃げるのよ」
あれ? 王宮側なのに、そんな事言っていいの?
「ああ、私達のね、幼馴染が、精霊の加護の強い子がいて、光や闇は扱えないからか巫女にはなれなかったんだけど、精霊術を使わなくても守ってもらえたのよ。今のあなたみたいに」
「とても気の優しい、精霊に愛されるのがよくわかるおとなしい子だったんだけど、東の領地で大侯爵と称される上位貴族に囲われてね」
「心も外見もきれいな子だったし。最初は、領地に祝福の風を毎日吹かせてくれれば、ご家族も食べていくのに困らないだけの援助をするし、毎日、祝福をしたあとはお菓子を食べさせてくれるって」
「私達も一緒に行って、毎日ケーキやタルトをいただいたわ」
「でもね、彼女の祝福が強いとわかると、国や神殿にとられないように、彼女が逃げないように、無理やり愛人にされてしまったのよ」
「私達が、王妃様に、毎日使われる彼女を助けて欲しいって、自由にしてあげて欲しいって、お願いしたのがいけなかったんだわ」
「神殿や王宮から使いが行って、侯爵も焦ったのね」
「侯爵領だけ異様に精霊が多く集まって加護が強い事に、神殿も探りを入れてたみたいなの」
「だからこそ、自由にしてあげたかったんだけど、その事が裏目に出てしまったのよ」
「今じゃ、会うことも出来なくなってしまってねぇ」
「ご家族もそこそこの暮らしをさせてもらっててご健在だし、領地が自然豊かだから、身体は元気でいるのだと思うけど」
「心まで元気かどうかは、会わせてもらえない事がどうにも不安なのよねぇ」
三人はため息をついたあと、真剣な目をして私の手を摑んだ。
「だから、そういう話が出たら、条件も何も聞かずに、全力で逃げるのよ!」
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