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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

34.魔女と氷の貴公子

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 お城には、多くの魔術の得意な人が働いているという。

 聞いてみて解ったのだけど、一般人でも使える人もいる、いわゆる生活魔法と言われる魔法──竈に火を入れる、洗濯物に勢いよく熱めの蒸気をあてる、掃除に水や風を使うなどの単純な、消費魔力も少ない魔術。
 実は、魔道戦士達が使う火の矢フレアアロー氷の槍アイスランスなどと同じ系統の魔術の、初歩的な制御が簡単なものらしい。

「だから、誰でも本当は魔術は使えるのよ」
「ただ、攻撃性や他人に対して大きく働きかけられる強さで使えるかどうかだけなの」

 お城で働く人たちは、有事に備えて、魔力の強い、たくさん使える人が多いのだとか。

「もしかして、本当にカインハウザー様は特殊だったのね⋯⋯」
 カインハウザー様は、魔力が少なくて魔術は使えないと言ってたし。
 サヴィアンヌに向かって小声で言っただけだったのに、聞き覚えのある単語は聞き逃さなかったのか、三人の目が面白いものを見つけた子供のようになる。

「あら、あなた、ハウザー卿のファンなの?」
「え、あ、はい。だって、サラサラの太陽みたいな金髪と緑がかったブルーグレイの瞳が素敵だし、きらきら笑顔がとても温かくて、優しくて頼りになる⋯⋯」
「は? どこのハウザー卿?」

 三人の女官さん達は、全員が不思議そうな顔をして私を見る。

「え? だって、元騎士で、将軍様のカインハウザー様ですよね?」
「元騎士で、黒衣の鬼将軍のハウザー卿は、確かに金髪で冷たいアイスブルーの瞳だけど」
「はい、そういえば、鬼将軍と呼ぶ人もいると聞きましたが、カインハウザー様の能力と厳しさに対するやっかみだってリリティスさんが⋯⋯」
「あら、鬼補佐官・魔女リリティスもお知り合い?」
「お、鬼補佐官? 魔女? その呼び名は聞いたことなかったです」
「まあ、自分で鬼とか魔女とかって自己紹介する人はあまりいないわよね」
「笑わない冷血の鬼将軍って言われてたんだけど⋯⋯」
「やっぱり、別人なのかしら。私の知ってるカインハウザー様と違うみたい」
「ハウザー城砦都市の領主ヴァル・カインハウザーなら間違いなく、私達の知ってる氷の貴公子と同一人物よ」
「氷の貴公子⋯⋯」

 なんだか、知らないカインハウザー様の情報が増えていくんですけど。

「お偉い上位貴族ほど手が届かない訳でもなく、見た目はまあまあいい方だから、そこそこお城の女官やメイド達には人気はあったわよね」
「でも、誰にもなびかないし、上位貴族にもおもねらないし、サー・リリティスとは話しても、女官にはちっとも愛想よくないし」
「そこでついた二つ名が氷の貴公子」

 確かに、利権争いばかりで愚かで身勝手な貴族とか、部下の手柄の横取りでのし上がっても自身は何もできない無能軍人とか、辛辣なことも言ってたこともあったけど⋯⋯

「本人が有能なだけに、そんな感情が透けて見えていても厭味ないというか」
「孤高のっていうの? 若い娘達には憧れの騎士よねぇ?」
「あなた達は違うんですか?」
「あ、バレッタね。私は、見てる分にはいいかな~くらい? 観賞用ね」
「ギルビッタよ。見た目はいいんだけど、明るくて優しい人がいいわ」
「ロレッタです。彼氏として友達に見せて自慢するにはいいかもしれないけど、旦那として一緒に暮らすには、キツいかな」
「あんなによく笑って、優しい人なのに」

 三人の言うことが、嘘か人違いのようにしか感じられない。

『外面と言うか、職場とプライベートで分けてるのかもな?』

 シーグの言う事は、一理あるのかもしれない。

「あなたは、ハウザー卿と、どこで知り合ったの?」
「私の養父母が、領主館で住み込みで働いてるんです」

 私の身分は、ハウザー城砦都市の領主館で働く家令夫妻の養女で、館でメイドの手伝いをしながら暮らしている成人前の少女フィオリーナ・アリーチュという事になってるから、おかしな話ではないはず。

「そう、お城では誰も味方じゃないって感じだったけど。事実、一部の上位貴族には疎まれてたし。でも、自領の子供にはちゃんと笑いかけられる人間性も持ってたのね」
「まあ、当たり前っちゃ、当たり前?」
「いや、一度その笑顔とやらを見てみたいかも」
「確かにぃ。超・激レアよねぇ」
「街の人たちや自警団の人達とは、よくにこやかに歓談されてますよ? 領民にも愛されてるし」
「ハウザー城砦都市の自警団の中でも衛士達は、元々、黒翼隊の部下だものね。馴染みもあって、やはり信頼してるんじゃない?」
「ハウザー卿が辞職なさる時に、黒翼隊の面々も追従して退役されてしまって、随分若い娘達が泣いたものよ」
「ロイスさんやキーシンさんなんか、モテそうですよね」
「彼らとも面識あるの?」
「はい。領主館で、打ち合わせやなんかされる時もありましたから」

 私の護衛についていたことがあるのは内緒。

「私は、ナイゲル氏が明るくて優しそうで、筋骨隆々じゃないところもよかったな」

 あら、ナイゲルさんのファンがいましたよ。

「ベーリング様がカッコよかったわねぇ。貴族ではないもののいいお家の出で、ノーブル感もあるし紳士的で素敵よねぇ」
「わかります。礼儀正しくて、育ちがいいのが感じられますよね」

 お馬に乗せてもらった時、ちょっとドキドキしちゃったし。

『二人乗りして、デレッとしてただろ。もう、あいつの馬には乗るなよ』
「そ、そんな事ないよう」
『ロイスの後ろに乗った時とは違ったぞ?』

 見てたの? そんなにデレッとなんてしてないと思うけど。
 ドキドキして、素敵な大人の男性だなとは思ったけど。
 シーグがジロッと見るので、とりあえず頷いておいた。



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