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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
32.手荷物料金のワンコと乗合馬車
しおりを挟む馬車という響きから、そんなに大きなものは想像してなかったのだけど、見てみれば意外に大きく、マイクロバス程の大きさの、座席も3人ずつ四列、12人乗れるようだった。後ろに、長持ちのような箱がついていて、中に座席に持ち込まない重い物を、屋根の上に軽いものを積み込むらしい。
私は、自分の背負袋だけだし、野菜や街で買ったちょっとした雑貨は妖精郷の木の倉庫に置いてあるので、手荷物はないのである。
「お嬢ちゃんは、荷物はないんだね?」
「はい。この袋だけですから」
《手荷物、あるじゃナイノ。ソコの犬っころがサ。ククク》
運賃が手荷物料金だったので、サヴィアンヌが笑いながら揶揄う。
「ずいぶんと大きな犬だねぇ。狼の血が入ってるのかい?」
『俺は狼だ!』
犬っころと言われ、むくれるシーグ。
「人を噛んだり粗相をしたりしないなら、空いた席の床に乗ってもいいけど、次の停留所までは満席だ。その後も、空いたら中に入れてあげてもいいけど、また乗ってきたら外だよ」
「もちろん、賢い子ですから大丈夫ですよ。前の街では、泊めてくださった方のお家の子供達と仲良く寝てましたから」
「そうかい。なら大丈夫だね」
車掌さんが切符を確かめながら、微笑んでくれる。
待っていた全員の切符を確認し終え、乗り込んだのを確かめると、馭者の隣に車掌さんも乗り込む。
シーグはひらりと屋根の上に乗り、周りの荷物と座れそうな場所を確認して臭いを嗅ぎ、誰かのカバンを枕に目を閉じた。らしい。(面白がったサヴィアンヌが、細かく解説してくれるのだ)
乗合馬車は、私達の世界のバスと同じで、最終停車駅まで、何ヶ所かまわるみたい。
美弥子達の訓練が終わるまでハウザーを離れるために、サヴィアンヌの案内でこの国を見てまわっている私は、特に目的地がある訳じゃないので、終着駅まで買った。
今はまだ十四歳の子供だけど『フィオちゃん本舗の妖精のはちみつ』の売上の一部をお小遣いとして貰ってきたので、長距離切符もそんなに負担ではなかった。
こちらの物価から考えれば、JRの長距離切符や高速バスより遥かに安い。
市バスと変わらない、と思う。
こんなに安くて大丈夫なのかしら?と思ったけど、この街道に限った料金なのだとか。
ここは、盗賊や魔獣がそんなに出ない地域なので、護衛士をたくさん雇う必要もなく、この馬車の車体に、強い防禦魔法がかけられていて、火矢が飛んできても延焼することなく、少々焦げる程度らしい。
しかも、毎回契約した護衛士ではなく、同じ方向へ行く職業旅人──わかりやすくラノベ風に言うと冒険者──がギルドから依頼を受けて同行するので、経費が安くて済むらしい。
専任護衛士を雇うより、冒険者の方が安上がりなのね。
「そりゃあ、専任の護衛士を雇うと、定額の給料だけでなく彼らの危険手当、生活保障、家族や住宅などの手当まで幅広く経費がかかるだろう?
そこ行くと、職業旅人なら『こんだけの額でどこそこまで同行してくれ』だけで済む」
そのため、護衛士の冒険者が決まらないと欠航することもあるらしい。
大神殿から一日歩いて、その先のハウザー砦街から出たことのなかった私には、何でも物珍しくて、つい蝶の姿をしたサヴィアンヌに話しかけてしまうのだけど。
どうやら、隣に座った商人風のおじさんには、私が、初めて一人で遠出する子供が、もの珍しげに独り言を、ペットの蝶に語っているように映ったらしい。
あれこれと、乗合馬車のシステムや、この街道の沿線街の事などを教えてくれた。目的地までの暇つぶしと気分転換も兼ねているのだろう。
窓を開けると、爽やかな風が入ってくる。
ふと見ると、フィリシアが、楽しそうに並走するように飛んでいた。
私がフィリシアを見留ると、ワタシも!と、アリアンロッドまで飛び出していき、並んで楽しそうに飛び回っていた。
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