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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

31.乗合馬車の停留駅

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 たくさんのお野菜は、サヴィアンヌの森の、貯蔵庫になっている古木にしまわれ、この先の必要時に少しづつ出してくれるらしい。

《通常空間と切り離されてるカラ、時間経過は不干渉、いつでも新鮮ヨ》

 そのうち、サヴィアンヌの手助けなしで、自分で出し入れできるようになりたいな。



 結局、街では殆ど買い物はしないまま、オバサンの息子さん達の畑から直接、街道の乗り合い馬車停留所まで来た。

 ちょっとした一軒家ほどの小屋があり、中にはたくさんの椅子と、幾つかのテーブルがあった。

 窓の前にカウンターが設けられ、ここで、馬車の乗車券を購入して乗るらしい。
 建物の外からでも中からでも購入できるように、こんな形になっているのだろう。
 昭和からの古いタバコ屋さんみたい。私が住んでいた町には、古い商店街と、文房具屋やタバコ屋、豆腐屋などの個人商店がいくつかあった。

 ──あ、懐かしくなって来た

 そういえば、ちゃんと聞いてないけど(聞く前に放り出されたんだけど)
 こちらの世界に事前の説明や相談もなく強引に拐われるように召喚されて、有無を言わさず巫女や聖女をさせられるのは、良くはないけど取り敢えずよしとして。
 それが終わった後、私達は、元の世界に還してもらえるのだろうか。

 いつか帰れるとして、それはいつ?
 どれくらい聖女や巫女をこなせば、還してもらえるの?
 どこまで役に立てば、これで終わりってなるの?

 お婆さんになる頃、力が衰えたら、お役御免で還されても困るんだけど、一年二年で帰れるとは思えない。
 二十代や中年になる頃、帰れたとして、向こうで何年も経って、それまでどうしていたのかの説明はどうするんだろう。

 異世界に行って、世界を救ってましたなんて言ったら、現代日本では精神状態を疑われそうだし。
 召喚された時点に直接還されて、一瞬消えた四人は大人になってましたなんてのも困る。

 あの子達は帰りたいのだろうけど、私は?

 たまに懐かしいノスタルジックな気持ちにはなるけれど、今となってはそんなに帰りたいとは思っていない自分がいる。

 両親もいない、祖父母とも疎遠、美弥子に疎まれながら成人するまで同居して、就職したら独り暮らし。

 そんな生活に、本当に、戻れるのかしら。

 カインハウザー様やリリティスさん、ここでの親代わりになってくれたセルヴァンス・メリッサ夫妻や、ハウザー砦の国境警備隊の衛士達や街のみんなも。
 もう、あちらの世界の人達よりずっと、お世話になって、それなりに絆を深めていっている。
 それに、シーグや、いろんな事態が重なって私が生み出してしまったアリアンロッドや名付けてしまったフィリシア。

 この子達を置いて還ることが、本当に出来るのかしら。私は⋯⋯

『シオリ?』

 シーグがイヌ科特有の湿った鼻先を私の手にトンと軽く押し付けて、覗き込むようにうかがってくる。

 サヴィアンヌが、馬車代金を一人分にしようと、シーグに狼の姿に戻る事を命じ、彼は渋々だったけど、従った。
 
 交渉の結果、屋根の上か、後ろの荷台の蓋の上でもいられるなら、手荷物料金でいいと言ってもらえた。
 大人料金、子供料金よりも少なくて済んだけど、屋根や荷台の蓋の上なんて、本当に大丈夫なのかしら。



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