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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
27.実はそばにいた精霊さん
しおりを挟む目を閉じて、風を感じることに意識を集中してみる。
少しづつ感覚が研ぎ澄まされていき、目を閉じてても、背後で肩を落としているオバサンの気配も、私の肩に片手をおいて寄り添うアリアンロッドも、二歩下がった位置で見守るシーグも、手に取るように感じられるようになってくると、目を閉じていても、風の流れが視えるようになる。
これが、風の精霊たちの霊気。荒々しくも優しくも、冷たくも暖かくもある。
両手を上げて、より風を感じようとすると、大小の精霊たちが集まってきた。私を軸に、くるくると周りをまわり始める。
目を開けてみると、風の精霊の層が出来ていて、少し景色が見づらくなるほど。
私がカインハウザーさまに拾われた時、こんなふうに精霊に取り囲まれて、姿が見づらくなるほどだと言っていたっけ?
見える限りの風の精霊や細かな風霊達を視認し、そのまま意識を森へと移すと、精霊たちは一斉に、森へと飛んでいく。まるで先を競うように。
「あ、アンタ、何者なんだい? あんなに、アタシにも見えるほどの、いや、見える以上に気配が集まって、一斉に森へ飛んでいったよ」
私の霊気と魔力と、私が集めた大地の精気を少しづつ受け取って、精霊たちはわれ先にと空を駈けっこするかのように森へと飛んでいったから、私の気配を帯びた精霊たちはオバサンにも見えたらしい。
ザワザワと、森中がざわめき、普通の風と違って、法則性などなく、好きに飛び回っている。
でも、そのせいか、黒い森を思い起こさせる真っ暗な森は、少しづつ、木漏れ日が差すようになって来た。
「ああ、なんてことだい。あの森が森らしく蒼く見えるなんて、何年ぶりだろうね……」
オバサンは感涙していた。大袈裟な、とは言ってはいけないんだろう。
異世界人だからなのか、素質が元々あったのか、この世界に喚ばれた時に女神の祝福を受けたのか、私は、精霊に愛される霊魂を持っていたから、精霊術士が何年もかけて学び使えるようになる事を、精霊に心の中で願う事でやってもらえる。
私は大した労力は使わないからと言って簡単に、そんな大袈裟な、と言うのは驕りなのかもしれない。謙遜のつもりでも、出来ない人達にとっては違ったふうに取られるかもしれない。
だから、私は何も言わずに、ただ、風の精霊たちに感謝した。
《このところ、その大きな妖精と、あなたが名付けた子とばかり触れ合って、ちっとも私達をみてくれないから寂しかったわ》
カインハウザーさまの畑の近く、花畑や小川のあたりでよく見かけた、ギリシャ神話の女神のような姿の精霊。
風の人も光の人も、こんなところまで、私の呼びかけに応えて来てくれたの?
《私達にはたいした距離じゃないわ。空は繋がっているもの。それに、そこの『風の』は、いつもあなたの後をついて行ってたから。そばにいたのよ? 気づかなかった?》
聞けば、大神殿を追い出された瞬間から、あの扉から転げ出された時からずっと見守って来てくれたと言う。
《本当は、アリアンロッドに混ざってあなたを助けたかったケド、ひとつになってしまったら、もう、ワタシはあなたを見守れないカラ、こうして、気紛れに風とナッテ、そばにイタイノ……》
《この子は、もう何千年も、気紛れにカラカルを飛び回る子だったの。でも、あの日、たまたま通り道が、大神殿から投げ出されたあなたの中に重なって、あなたの霊気と魔力と……本質の魂に触れて、どうしても惹かれて離れられなくなってしまったの。この子とも仲良くしてあげてくれると嬉しいわ》
女神様のような光の精霊に暴露されて、恥ずかしそうに飛び回り、それでもやはり戻って来て、私に寄り添うようにすり寄ってくる風の精霊。
風霊のように形のない元素精霊ではなく、アリアンロッドのように人の形をしていて、少女から大人へと変わる年頃の娘のような姿だった。
《少し、あなたに似ているでしょう? あなたが好きで、あなたに近づきたくて、何度もあなたの魂に触れているうちにその姿になっていったのよ?》
ええぇっ? 私、こんなに可愛らしい女性じゃないですけど?
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