上 下
184 / 294
Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

22.オトコの立場

しおりを挟む

 シーグに手を引かれ、露天商が道の両側に並ぶ区画へ入る。

 露天商と言っても、私が昔見た、小学校の校門から塀をまわっていくとたまに居る、茣蓙ゴザの上に玩具の指輪やペンダントを並べたものや、羽根の色を染めたヒヨコを売っている怪しい商人とは違って、木の展示台に物をきちんと並べ、撥水布の天幕を張った、簡易店舗である。

 引き合いに出して言うのになんだけど、最近は、ああいう露天商見なくなったな。
 母の身体を気遣って買った事はないし、買いもしないのに居座ると商売の迷惑になるからあまり長居は出来なかったけど、色とりどりのヒヨコやオモチャ、ミドリガメをあきずにずっと見るのは楽しみだった。

 いつもなら図書室にこもるのだけど、露天商が来た時は、みんなが騒ぐので判る。

 同様に、飼ったらどうなるのかも。

 カラーリングされたヒヨコは、みな白色レグホン(鶏)のオスになって、毎朝けたたましく鳴き声をあげ、近所迷惑になるとか。
(※日本のヒヨコ選別職人は優秀で、滅多なことでは間違わず、世界でも引く手数多あまたの人気高給取りなんだとか)
 ヒヨコの時はピヨピヨと可愛いのに、成長すると両手に一抱えほどもある大きな鶏になる。オスなのでタマゴもうまないし、気が強くてあまり愛らしくは懐かなくて、結局は持て余すのだとか。

 今は可愛い五百円玉くらいの綺麗な緑色の亀だけど、あっという間に10㎝以上になって、大人になると黒々しいとか、実はミシシッピ赤耳亀と言って外来種だとか、日本のイシガメやクサガメと違って冬眠はしなくて、飼いきれなくなった子供がお寺の池に捨てるので交雑して(異種間交配) しまう上、冬眠せずにどんどん大きくなる彼らの方が強くて繁殖力があって、日本固有種の絶滅危惧の問題を起こしてるとか。

 みんなが教えてくれるので、飼ったことはないけど買わなくても想像で楽しんでいた。

「楽しそうだな? シオリ」
「うん。楽しい。こうやって、誰かと店先をひやかすの、憧れだったの」

 下校時間まで図書室にいて、暗くなる前にスーパーに寄って、日用消耗品の買い足しや食材の調達をして、帰宅後家族のために夕食を作る。

 子供らしい遊びや楽しいことはついぞした事がなかった。

「そうか。俺とが初めてか」

 シーグは嬉しそうに照れ笑いをする。

「お嬢ちゃん達、初々しいねぇ。どうだい、なんか買ってきなよ」
「彼氏ぃ、いいもん買って、彼女にオトコをみせな」

 商売人と言うものは、異世界でも、そうは変わらないのかも知れない。
 商魂たくましいオジサン達が、シーグにあれこれ勧める。

「あ……ああ、ソウダナ」(なぜかカタコトに)

 いつもは堂々として元気なシーグも、圧され気味だ。

《違うワヨ。それもあるかもダケド、シオリにナンにも買ってあげられないのがツラいんでショ。漢を見せろまで言われちゃぁネェ》

 クククと笑うサヴィアンヌ。

 そうか。ずっと狼として、森で暮らしてたのだもの。服の用意もなかったし、きっと、おカネだって持ってないわよね。

「シーグ、これ……」

 周りの人には見えないように、お金を少し手渡す。

「旅に必要な物を買って。まずは、荷物を纏める袋かしら」

 私達には、サヴィアンヌがいる。大きな荷物は、妖精郷に造った倉庫にしまえばいい。
 でも。サヴィアンヌに訊いてみた。

「ねぇ、サヴィアンヌ」
《ん?》
「この世界では、収納とかアイテムボックスとかマジックポケットとかインベントリとか、そういう、物をしまえる魔法って、けっこうみんな使ってるもの?」

 私が倉庫に物をしまったり、手荷物が少なく旅をしているのは、まわりから見て、普通なのか特殊なのか……

《ワタシだからこそノ、特別ネ。ハウザーでそういう能力持ってる人、見た事ないデショ?》

 もしかしたら、そういう魔法を持っていても、隠しているのかもしれないけど、見たり聞いたりした事はない。

 本だと、空間魔法とか特殊技能スキルとかでよく見かけたけれど、現実世界(異世界だけど)では、ない能力なのだろう。
 同様に、空を飛んでる人もいないし、瞬間移動や空間を曲げてワープみたいなのも聞かない。

「じゃあ、やはり内緒の方がいいのね」

 目をつけられたり、掠われたりしたら困るものね。

《……もう遅いんじゃナイ?》
「目をつけられるな、という点なら、今更だな」

 なぜ? と聞くまでもなかった。

「お嬢さん、凄いね。そんなに精霊や妖精を連れてるのかい?」

 勿論、サヴィアンヌが、等身大、とかって意味ではない。妖力が『大きい』だ。

 元々妖精は、精霊眼を持っていなくても、魔力の多い人、勘のいい人なら見る事が出来る。触れる人もいる。

 アリアンロッドは、私が核になる霊気を提供し、名づけて個性を固定した精霊なので、精霊術士エレメンタラーの使役精霊と同じように、他人にも見える。

 精霊術士の少ないこの国で、サヴィアンヌやアリアンロッドを連れていることは、それだけで目立つのだった。




  ❈❈❈❈❈❈❈


更新が途切れ途切れで申し訳ありません

生きてます

いつもファンタジーと恋愛の境界の曖昧な作品ばかりで、どちらにカテゴリしたらいいのか迷うのですが、

ファンタジー大賞に新作をエントリーしました

『幸運のスニャイムと遊び人Lv.1』です

マジックアイテムだけで冒険を続け、自力ではなにも出来ないので経験値が入らず、ずっと遊び人Lv.1のままの少女が主人公です

よければご一読くださり、お気に召しましたら、応援メッセージなどお願いいたします


しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~

黒色の猫
ファンタジー
 両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。 冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。 最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。 それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった… そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。 小説家になろう様でも投稿しています。

家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!

咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。 家族はチート級に強いのに… 私は魔力ゼロ!?  今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?  優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます! もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
 宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...