174 / 294
Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
13.巫女と騎士と、光霊の精霊術士と
しおりを挟む結局、私達は、コールスロウズさんの家に、もうあと三日、お世話になった。
その間、毎日山に行き、精霊や自然との対話のイメージを摑むコツを教えてもらったり、彼らがどのようにして、精霊達と交流しているのかを見せていただいた。
なにより勉強になったのは、王都の女神正教会や各神殿の神官達、カインハウザー様から聞かされていた、巫女と聖騎士の役割とは少し見方の違った、昔からの自然信仰の人々の習慣を活かした、世界の営みの事を教わったのが大きかった。
カインハウザー様も、大神官や大賢者のお爺さん達も、みな一様に言っていたのが、
① 女神の選別と祝福を受けた巫女が女神の奇蹟の力を代行して
② 蔓延った瘴気を浄化しなければ、世界はいずれ魔界へと変わり
③ 魔怪となってしまった「闇落ち」と呼ばれる斃せない魔物は、巫女が奇蹟の力で穢れを祓い、巫女の騎士が武器に光の精霊力の憑依付与を受けなければ滅せない
という事だったはずだけれど。彼らの話はちょっと違う。
もちろん、コールスロウズさん達も、瘴気や闇落ちを浄化出来る訳ではないし、穢れ溜まりを祓える訳でもない。
でも、寿命を全うした樫の木の木霊を身の内に宿した特殊な体質を活かし、本来樹の持つ、浄化能力と薬効能力を転用して、祓い切れないが弱体化させる事は出来るという。
彼らの話の中で一番有力な内容だと思ったのは、巫女と聖騎士がセットで浄化の巡礼を廻ると言うのはここ数百年の話で、元々は、各地に暮らす光の精霊と契約した精霊術士が行っていたというのだ。
ハウザー城砦都市の北の国境の向こうの国には、引退したけれど力の強い大精霊の巫女と、現役の巫女がふたりいて、どの方も浄化能力が強いと言う。
「フィオリーナさんは大精霊さまをお連れしているし、大精霊さまは光の性質をお持ちなので、光霊を使役出来たら聖騎士を持たずとも、先日のようにお一人で浄化出来るんじゃないでしょうか?」
私より年上なのに、メイベルさんはすっかり丁寧な言葉遣いになってしまった。
「そう……でしょうか」
光の精霊と契約して浄化するのは、美弥子やさくらさんの役割だと思っているけれど。
アリアンロッドが成長し、私がもっと魔力操作やマナの吸収力の、精度・速度をあげられるようになれば、私でももっと役に立てるのだろうか。
私が、巫女と同じ、或いはそれ以上の役割をこなせるようになったら、カインハウザー様は喜んでくださる?
それは、そうだろう。穢れ・瘴気を浄化出来なければ、国が滅ぶと言っていた。事実、間近に闇落ちと広がる瘴気を見て、その恐ろしさを体感した。
それでもまだ、魔法が空想上の概念である現代社会で暮らしていた私には、やり直しの利かない、ゾンビゲームや映画を観ている程度の実感しかない。
『俺も、精霊の加護があるから、多少なら感染せずに斃せるからな。ヒトの騎士とは違うが、シオリの守護者て言ってもいいよな』
高い魔力を持っていても魔術は苦手なシーグは、一般的な人間よりもたくさん内包している魔力の殆どを、身体能力強化と害悪からの身の保護に使っているという。
《結界とか障壁とか遮蔽楯とかっていう能力ネ。人間は魔術を施術しないと使えないケド。アンタ、魔力だけは魔族なみヨネ》
『魔力を多く持っていて、魔力に比例して生まれつきの身体能力に差が出るという意味では、魔属ではあるよな』
「シーグって、魔獣なの?」
反射的に訊いてしまったけど、考えてみたら失礼な質問だった。
以前から、先祖は神の末裔を誇っていた人狼だって言ってたはず。魔属って言うからつい、魔力操作系能力のある狼犬って考えが、先に立っちゃった。
『……ここでの分類は知らないが、俺達は、文明社会を構築できる知性を持つ生命体で、魔力に依存して生命力を維持している種族なら、亜人も人も、獣族でもみんな一括りで魔属性と見なしていたし。
会話が成り立つかどうか以下の知性しかなく、道具や文明を持たない動物を獣、その中でも魔力で特殊能力を持つ獣を魔獣と呼んでいた』
だから、俺は獣でも魔獣でもなく、魔属の大神族(人狼)だよ。
うん、ごめんなさい。もう間違わない。
謝ったけれど、元々の文化の違う世界から来た私の認識力に、いちいち腹は立てないと笑って許された。
サヴィアンヌには、今後は、会話できたら魔属性知的生命体、意思の疎通は出来ても会話が成り立たなければ魔獣だと思えば?と言われ、判断つかなかったら言及はせず、後からサヴィアンヌに答え合わせしてから判断する事になった。
《まあ、魔法のない世界から来たんじゃ、ピンと来なくても仕方ないワヨネ》
お世話になったコールスロウズさん達とも今夜でお別れ。
明日は、山道を迂回しながら、南の街へ向かう事になっている。
メイベルさんのベッドに仲良く入る。今夜もシーグは、子供達のお部屋で、子供に纏わり付かれてごろ寝である。モテモテね。
夜中に、意識が落ちる瞬間、アリアンロッドの気配が遠ざかっていくのを感知した。
今夜も、大好きなカインハウザー様に会いに行くのかしら……
2
お気に入りに追加
2,706
あなたにおすすめの小説
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる
小倉みち
ファンタジー
公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。
自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。
ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。
彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。
信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。
「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」
持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。
みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
小説家になろう様でも投稿しています。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!
咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。
家族はチート級に強いのに…
私は魔力ゼロ!?
今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?
優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます!
もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる