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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

13.巫女と騎士と、光霊の精霊術士と

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 結局、私達は、コールスロウズさんの家に、もうあと三日、お世話になった。

 その間、毎日山に行き、精霊や自然との対話のイメージを摑むコツを教えてもらったり、彼らがどのようにして、精霊達と交流しているのかを見せていただいた。

 なにより勉強になったのは、王都の女神正教会や各神殿の神官達、カインハウザー様から聞かされていた、巫女と聖騎士の役割とは少し見方の違った、昔からの自然信仰の人々の習慣を活かした、世界の営みの事を教わったのが大きかった。

 カインハウザー様も、大神官や大賢者のお爺さん達も、みな一様に言っていたのが、

① 女神の選別と祝福を受けた巫女が女神の奇蹟の力を代行して

② 蔓延はびこった瘴気を浄化しなければ、世界はいずれ魔界へと変わり

③ 魔怪となってしまった「闇落ち」と呼ばれる斃せない魔物は、巫女が奇蹟の力でけがれを祓い、巫女のシルヴィス騎士ナイツが武器に光の精霊力の憑依付与エンチャントを受けなければ滅せない

という事だったはずだけれど。彼らの話はちょっと違う。

 もちろん、コールスロウズさん達も、瘴気や闇落ちを浄化出来る訳ではないし、穢れ溜まりを祓える訳でもない。

 でも、寿命を全うした樫の木の木霊こだまを身の内に宿した特殊な体質を活かし、本来樹の持つ、浄化能力と薬効能力を転用して、祓い切れないが弱体化させる事は出来るという。

 彼らの話の中で一番有力な内容だと思ったのは、巫女と聖騎士がセットで浄化の巡礼を廻ると言うのはここ数百年の話で、元々は、各地に暮らす光の精霊と契約した精霊術士エレメンタラーが行っていたというのだ。

 ハウザー城砦都市の北の国境の向こうの国には、引退したけれど力の強い大精霊の巫女と、現役の巫女がふたりいて、どの方も浄化能力が強いと言う。

「フィオリーナさんは大精霊さまをお連れしているし、大精霊さまは光の性質をお持ちなので、光霊を使役出来たら聖騎士を持たずとも、先日のようにお一人で浄化出来るんじゃないでしょうか?」

 私より年上なのに、メイベルさんはすっかり丁寧な言葉遣いになってしまった。

「そう……でしょうか」
 光の精霊と契約して浄化するのは、美弥子やさくらさんの役割だと思っているけれど。
 アリアンロッドが成長し、私がもっと魔力操作やマナの吸収力の、精度・速度をあげられるようになれば、私でももっと役に立てるのだろうか。

 私が、巫女と同じ、或いはそれ以上の役割をこなせるようになったら、カインハウザー様は喜んでくださる?

 それは、そうだろう。穢れ・瘴気を浄化出来なければ、国が滅ぶと言っていた。事実、間近に闇落ちと広がる瘴気を見て、その恐ろしさを体感した。
 それでもまだ、魔法が空想上の概念である現代社会で暮らしていた私には、やり直しの利かない、ゾンビゲームや映画を観ている程度の実感しかない。

『俺も、精霊の加護があるから、多少なら感染せずに斃せるからな。ヒトの騎士とは違うが、シオリの守護者ガーディアンて言ってもいいよな』

 高い魔力を持っていても魔術は苦手なシーグは、一般的な人間よりもたくさん内包している魔力の殆どを、身体能力強化と害悪からの身の保護に使っているという。

結界サンクチュアリとか障壁バリアとか遮蔽楯シールドとかっていう能力スキルネ。人間は魔術を施術しないと使えないケド。アンタ、魔力だけは魔族なみヨネ》
『魔力を多く持っていて、魔力に比例して生まれつきの身体能力に差が出るという意味では、魔属ではあるよな』
「シーグって、魔獣なの?」

 反射的に訊いてしまったけど、考えてみたら失礼な質問だった。
 以前から、先祖は神の末裔を誇っていた人狼だひとおおかみ って言ってたはず。魔属って言うからつい、魔力操作系能力スキルのある狼犬って考えが、先に立っちゃった。

『……ここでの分類は知らないが、俺達は、文明社会を構築できる知性を持つ生命体で、魔力に依存して生命力を維持している種族なら、亜人も人も、獣族でもみんな一括りで魔属性と見なしていたし。
 会話が成り立つかどうか以下の知性しかなく、道具や文明を持たない動物を獣、その中でも魔力で特殊能力を持つ獣を魔獣と呼んでいた』

 だから、俺は獣でも魔獣でもなく、魔属の大神族(人狼) ひとおおかみ だよ。

 うん、ごめんなさい。もう間違わない。

 謝ったけれど、元々の文化の違う世界から来た私の認識力に、いちいち腹は立てないと笑って許された。
 サヴィアンヌには、今後は、会話できたら魔属性知的生命体、意思の疎通は出来ても会話が成り立たなければ魔獣だと思えば?と言われ、判断つかなかったら言及はせず、後からサヴィアンヌに答え合わせしてから判断する事になった。

《まあ、魔法のない世界から来たんじゃ、ピンと来なくても仕方ないワヨネ》

 お世話になったコールスロウズさん達とも今夜でお別れ。
 明日は、山道を迂回しながら、南の街へ向かう事になっている。
 メイベルさんのベッドに仲良く入る。今夜もシーグは、子供達のお部屋で、子供に纏わり付かれてごろ寝である。モテモテね。

 夜中に、意識が落ちる瞬間、アリアンロッドの気配が遠ざかっていくのを感知した。
 今夜も、大好きなカインハウザー様に会いに行くのかしら……



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