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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
11.浄化の炎と燃えない木札
しおりを挟む「フィオリーナさん、顔色がよくないわ」
「ゆっくりと戻りましょうかの」
メイベルさんが私をのぞき込み、コールスロウズさんは、骨だけになってしまった猟師らしき人の弓矢となぜか燃えずに残った木札を回収して、村に帰ることにした。
「遺品らを家族のもとに返してやらねばなりませんし、村長に報告もせねばの」
私がじっと木札を見ていると、
「この割り符は、木が乾燥して割れたり傷ついて確認できなくなったりしないように、水霊の術がかけられてるのよ」
メイベルさんが教えてくれた。
「そんな事が出来るんですか?」
「どの木札もって訳ではないかもしれないけど、住んでる土地の外に出る可能性のある人は、そういう処理をしておかないと、川に落ちても、雨に降られても汗が染みても読めなくなったら困るし、こうして野に倒れた場合、遺体が穢れに感染しないよう、浄火する事が多いので、燃えにくくしてあるのよ」
家族は、なくなった方の最期の姿をみる事は出来ないのは辛そうだけれど、日本と違ってしっかりとした腐敗処理もないし、瘴気や悪霊などの実害があるから、置いとけないのね……
来た道をゆっくり戻る。
アリアンロッドに魔力を吸われるが止んだら胸の苦しいのはなくなったけれど、全体的な倦怠感は続いていた。
『フィオリーナ、ツラかったら俺の背に乗るか? 爺さんの家まで乗せてってやるぞ』
シーグは、狼の姿でも大きい。一七〇㎝以上ある青年がそのまま四つん這いになって、筋肉と被毛が全身に増えて更に大きくなる。
『フィオひとり乗せても、こんなそれなりに整備された山道を歩くのくらい、たいしたことないから遠慮するな?』
番いを大切にするのは当たり前だし、俺は頼れる夫になるんだからな。
鼻をピスピスさせて、シーグがキラキラの眼で、早く背に乗れと促してくる。
シーグに悪い気もしたけれど、このまま貧血のような不調を起こせば、コールスロウズさん達に迷惑がかかるので、ここは、素直にシーグに甘える事にした。
「ゴメンね、シーグ。甘えようかな」
『おう。しっかり摑まってろ、と言いたいところだけど、ツラいんだろ? 寝るように乗って楽にしとくんだ。不安なら、鬣を摑んでてもいいぞ』
ゆっくりと、シーグの背に密着して、俯せに寝そべるようにしがみつき、首の下に腕をまわす。
人にもなれる人狼だからだろうか、思ったより獣臭くなかった。お陽さまに干したお布団のような、温かい匂いだ。
《匂いは、フェロモンの一種でもあるワヨネ》
ギクッ サヴィアンヌは、人の心の中が読めるのだろうか。
《わかりやすい表情だったワヨ。いい匂い~、獣臭くナイ、とか思ってたデショ》
ケケケ サヴィアンヌは笑いながら、小妖精の姿から蝶になって、シーグの頭に留まる。
《サアー、村までレッツゴー》
サヴィアンヌの号令に従った訳でもないだろうけど、コールスロウズさんとメイベルさんも、まわりを気にしながら、来た道を帰りだした。
途中、分かれ道には、荷物から出した細い端切れのようなリボンを、木の枝に結んでいく。
「この、浅黄色のリボンは、瘴気や穢れ溜まりなどの危険を報せる標なんです」
この先、旅を続けるなら必要な知識だった。
忘れないように、また、見落とさないようにしないと。
元々山に慣れたふたりと、柔軟で高い運動能力のシーグの行進は、来しなより早く村へ帰ることが出来た。
普通は、登山より下山の方が、足腰に負担がかかるものなんだけど、鍛えられた人達は違うなぁ。
村に戻ると、ちょうど中心地の商店に多くの人が集まってて、村長さん親子も居たので、報告はすぐに出来た。
「そちらは?」
「南東の国境近くの城砦都市からいらした、旅の巡礼の娘さんじゃよ」
「フィオリーナ・アリーチュと申します」
村の中心に着いたとき、シーグの背から降りたけれど、シーグにしがみついて運ばれていたのは、少なくない人に見られていた。
「まるで森の守り神のような立派な狼ですな」
『神みたいないいもんじゃないけどな』
「おお、話されるのか。知性を持つ個人として、歓迎致しますぞ」
村長さんは、目を細めて笑い皺を深くし、私の木札を確認してから、シーグにも挨拶をしてくれた。
「村長、今日は早めに戻ったのは、山に問題があったからなんじゃが……」
コールスロウズさんは、和やかに応対してくれていた村長さんに、猟師らしき人の遺品と木札を手渡した。
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