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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
9.木霊のオークスとコールスロウズ老の合わせ技
しおりを挟む《アンタはとってもいい匂いヨ。舐めたくなるワ》
「な、舐めるの?」
蝶の姿のままひらひら飛びながら、ケケケと笑うサヴィアンヌ。
精霊に比べて、かなり人間臭い感情を持っているけれど、やはり、人間とはだいぶ違うみたい。
《ワタシ達妖精は、霊気や魔力が綺麗で、甘い匂いのする人間は、好きナノヨ。それは精霊も同じ。
妖精達は好き嫌いも強いけど、精霊達は、澄んでてキレイならみんなスキみたい。
長年存在して理の叡智を備えた大精霊や、感情を持った聖霊と混じってしまった精霊達は、加護を与える能力や守護する相手を選ぶけれどネ》
妖精には好き嫌いがあって、元素精霊は好き嫌いがなくて、大精霊は気難しい……って事かな?
コールスロウズさんは、肩の小鳥の姿をした木霊さんと共に、霊気を錬りながら、足音をなるべく立てないようにゆっくりと進んでいく。
私にも遠目に見える距離まで近づくと、コールスロウズさんは片手を背後の私達に伸ばして、静止するよう合図する。
リスのようなふさふさの尻尾の小動物が、猟師だろうか折れた弓を持ったまま亡くなった人のお腹を囓っていた。バキボキ言うのは、肋骨を囓っているらしい。さすが齧歯目?
「まだ、闇落ちになってすぐのようですな。纏う穢れや瘴気も少なく身も小さいですし、このオークスと祓ってみまする。木霊は光の精霊ではないので祓いきれないかとは思いますが、弱体化させることは可能でしょう」
≪光の精霊・アリアン、出来る?≫
私の腰にしがみつく形でついて来ていたアリアンロッドが、円らな瞳で見上げる。
「私達は慣れてないから、まずは、コールスロウズさんのやり方を見てみましょう?」
≪ワカタ! 見守る≫
アリアンロッドは私の腰から離れ、ふわふわと漂いながら、コールスロウズさんの隣に並ぶ。浮いてるので、道が細い斜面でも問題ない。
目を、闇落ちの小動物から離さず、集中していたコールスロウズさん。木霊さんの霊気とコールスロウズさんの魔力が混ざり合い、淡い若草色の霧のような緑気が集まり、それを勢いのいい霧吹きのように、闇落ちの小動物に吹きかける。
ッギー!! ギィ
本当の霧と違って、魔力で纏いつくので、頭や身を擦っても拭えず、だんだん闇落ちの小動物に吸着していく。
その間も、少しづつ魔力・霊力が消費されて、纏いつく量が減っていく。けれど、その何分の一かと同じ量の穢れも消えていき、瘴気は身の内に押し込められていく。
「お爺ちゃん、無理はしないで」
メイベルさんが、不安げに見守る中、闇落ちの小動物に吸着していく魔霧の霊気と、コールスロウズさんの魔力が、どんどん消費されていく。
コールスロウズさんの額に、珠のような汗がふつふつと噴き出してきた。
「儂に出来るのはここまでのようですな……」
残念そうに、肩の力を抜いているけれど、件の闇落ちの小動物は、それまで食していた死体と同じように、山肌に押しつけられるように伸びて、動けなくなっていた。
「光の精霊の巫女さまならもっと簡単に、瘴気を浄化して、穢れを祓いまするが、儂ではあれが精一杯ですわ」
「そして、光の精霊の巫女様には、守護を誓った聖騎士団がお仕えしてて、巫女様の精霊力と自身の武力を遺憾なく発揮して滅せるのですけれど、精霊を武器にする能力のある騎士団は、最近では王都から離れないと聞いてます」
メイベルさんが辛そうに、去年までの、闇落ちの退治の仕方を教えてくれる。
《あそこまで小さくなってるんなら、アリアンでもイケるんじゃナイ?》
「「妖精王様?」」
サラッとなんでもない事のように言い放つサヴィアンヌの言葉に、コールスロウズさんとメイベルさんが、勢いよく振り返る。
≪アリアン、光投げる?≫
新米<合成>大精霊のアリアンロッドが、小首を傾げると、そんな事が出来るのかと、ふたりは目を丸くした。
≪……あ、でも、セル・居ない時、アリアン、光の攻撃したりしない約束……≫
幼児が叱られるのを恐れるように、俯く姿勢で声が小さくなっていくアリアンロッド。
《緊急事態だし、ワタシが、霊力・魔力の使用量の調節したげるワヨ》
≪でも、闇のクロクロ、襲ってない。襲っても、守護だけで、斃さなくていい、セル・言った≫
《そんなコト言ったって、結界張って防御して待ってたって、ここにセルティック達が駆けつけてくる訳じゃないデショ。せっかく弱体化したノヨ? あのままほっといたら、数日でまた襲うようになるかもしれないじゃないの》
サヴィアンヌの言う事ももっともだと思うし、カインハウザー様と約束したアリアンロッドが、手を出せないのも解る。
私の感情を核に持つとは言え、基本は精霊なのだ。約束は、契約となって縛られるだろう。
《セルティックと、シオリを助けて役に立つ大きな精霊になるって約束したんデショ! ここが、役立つ所じゃないノ? アレを滅してご覧なさいヨ》
虹色の、蝶の翅を持つピクシーの姿をしたサヴィアンヌが、チェシャ猫のように微笑んだ。
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