169 / 294
Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
8.よくないモノ──祓えない闇
しおりを挟む「良くないもの?」
シーグが、狼ならではの軽い足取りで私を追い越した。
『この先の斜面に、多分、瘴気か穢れの凝りを纏った生き物の死骸がある……と思う』
「そんな。瘴気だったら、大変!」
私の数歩先を歩くコールスロウズさんを見ると、難しい顔をしていた。肩の小鳥さん(木霊さん)も、身を低くしてコールスロウズさんにすり寄る。
「一応気をつけて、確認だけしておきましょうかの。まだ育ちきってない穢れなら、可能ならオークス(木霊)と儂で祓いますが、瘴気なら、村人や流しの猟師達に、この先へは行かないよう通達しなければなりませんのでな」
軽い穢れ程度なら弾くことも出来る妖精の羽衣を首に巻いた、精霊の加護の強いシーグが、どんどん先へ確認に行く。
ポキッ バキボキ……
なんか、嫌な音が聴こえる。
『シオ、あれはダメだ。片方は〔死に返り〕、もう片方はそれに喰われながら穢れが濃くなっていく死人だ』
鼻面に皺を寄せて唸るシーグ。こう言う表情は、まさに狼っぽい。
「死に返り? と食べられている穢れを纏った死体があるの?」
『そう。〔死に返り〕は文字通り一度死んで蘇ったもの。魂のない身体に悪霊が憑いている場合と、自分の死に納得できなくて彷徨う動く死体や、瘴気に侵されて生きながら呪われた死体になっている場合とがあるが、あれは、自我はないと思う。ただ、癒やせない喉の飢えを潤したくて、死体を貪ってる』
眉間をしわ寄せ、説明してくれるシーグ。
《かなりよくないワネ。闇落ちになった小動物が、瘴気に侵されて体調を崩して死んだ人間を食べテル。闇落ちからもまわりからも瘴気を取り込ンデ、新たな闇落ちになりかかっテル》
「小動物の闇落ちも感染力が侮れませんが、人間の闇落ちは、増殖量が危険ですぞ」
コールスロウズさんの言うには、野生動物や魔獣が闇落ちになった場合、その運動能力からこちらの攻撃が当たりにくいけれど、触れられなければいいので、光の精霊で瘴気を祓えば、あとは魔術で攻撃したり、精霊の火で燃やしてしまえばいいらしい。
「大抵の人は巫女でなければ出来んと思うとるようですが、実際には、昔から、光の精霊と契約した者なら、精霊に愛されておれば祓えますので、後は精霊の槍を持てる者が滅せばいいのですじゃ」
ただ、その光の精霊と契約出来る者が、滅多におらんのですがの。
《シオ⋯⋯フィオリーナは、アリアンをもっと大精霊に育てるか、光の精霊と契約すれば祓えるようになるワヨ、タブン》
「本当に?」
《ただ、光の精霊は気難し屋で、滅多に人間と契約しないワネ。自然や世界に対して人間の勝手さが嫌いみたいヨ》
「獣と違い、人間の闇落ちは、生前の知恵の一部を使えますので、道具──武器を振り回したり魔術で対抗してきたりと、賢しく動き回りますからのぉ、なかなか厄介なのじゃよ」
しかも、人間は感情や思念が強く、瘴気の膨れ上がりようは、動物とは比較にならないほどだという。
「それじゃ、近づくのは危険だからって、放置も出来ない……?」
去年、巫女が亡くなってから、瘴気や穢れに感染した生き物を浄化出来なくなったために、立ち入り禁止の土地は増えているという。
カインハウザー様達の話でも聞いていたけれど、どれくらい危険なのかは、当時はよく解ってなかった。
「幸い、と言っていいのか判りませぬが、この国は、巫女がいないために浄化が出来ませぬが、世界の外から来る悪意や魔属の侵攻は殆ど聞きません」
確かに。そっちの話は、召喚された時に、大神官達の説明で聞いただけで、外では聞いた事がない。
《ワタシの守護してるカラカル地方で、世界の外からの異物の気配は、殆どないワネ》
殆ど? 蝶の姿でひらひらするサヴィアンヌを覗うと、コールスロウズさん達には聴こえないように、私の頭の中に直接答えてくれた。
《その、僅かな異分子が、アンタ達召喚者ヨ》
なるほど。守護してる土地の隅々まで知っている妖精王サヴィアンヌの、識らない存在値を持った人間が、私達、召喚された人間なのだという。
《ミヤコは澄んだ霊気を持ってて、霊魂も魔力もいい匂いダケド、ワタシの好みじゃないノヨネ~。
シオリ。アンタは、霊魂も魔力も、声も思考も、甘くてとてもいい匂いヨ。つい、舐めたくなるワ》
ククク
サヴィアンヌが三日月のような目をして笑った。
2
お気に入りに追加
2,706
あなたにおすすめの小説
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
小説家になろう様でも投稿しています。
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)
家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!
咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。
家族はチート級に強いのに…
私は魔力ゼロ!?
今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?
優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます!
もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語
乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています
真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。
なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。
更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!
変態が大変だ! いや大変な変態だ!
お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~!
身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。
操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる