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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
120. 始まる聖女討伐隊(ホーリーフォース)と黒翼隊の共同作戦
しおりを挟むカインハウザー様が、山頂の大神殿から戻って来た。
ロイスさんとベーリングさんのふたりだけのお供で心配だったけど、怪我もなく、無事に帰ってきたのを見て、ホッとした。
「おかえりなさいませ」
……旦那様とつけそうになっちゃった。
関係ない世界のつもりだったけど、現代社会の風潮に毒されてるのかしら。
「ただいま。お出迎えありがとう。
シオリの蜂蜜の売り上げで買ったコメだったけど、一袋使ってしまったよ」
後で、代金補填しておくね。
そう言って微笑まれた。
「運用も経営も、お任せしたのですから、ご自由にお使いいただいていいですのに」
「それは、ダメだよ。個人の財産と、フィオちゃん本舗の公的資金は、ちゃんと分けなければね」
「な、なんですか? その『フィオちゃん本舗』って……」
「聞いてないかい? リリティスが、商工会に登録する際に、フィオリーナ・アリーチュを代表者に、食品生産業として登録したんだよ。社名だね?」
どんな名前なのよ。リリティスさんは、ネーミングセンスないのかしら。
私が眉を顰めて俯いていると、気に入らなければ後日変更すればいいと言われたけれど、特にこれと言った案はなかったので、しばらくはこのままで行く事になった。恥ずかしい。
「それと、光の精霊に話はついたのかい?」
「いいえ、まだです」
「そうか。なるべく早い方がいい。近日中に、神殿の者が何人か出入りすることになるかもしれないからね」
「えっ」
「一応、街の一部だけで、領主館には近寄らせない予定だが、用心するに越したことはない」
いつかの巡礼者が、穢れを振り撒いて歩いていた原因は、神殿近くで発生した闇落ちが次の村と街道を移動する際にあちこち染みつかせた穢れと瘴気が原因だったとか。
で、サクラさんと美弥子を借りて、衛士達と浄化をする事になったらしい。
「街道を大神殿から街を抜けて国境まで順に、すべて浄化する予定だ。彼らの休息時間もそうだが、南門から北門までの街道を浄化するのだから、街に入れない訳にも行かないだろう」
その間、私とシーグは、領主館から出ない事になりそうだった。
「実は、神官達の多くは、神技や魔術は使えても精霊を視ることは出来ない者も少なくないのだが、サクラ達と付き添いの大司教は見えているだろう。
なにより、君は保護されていた間、彼らとは面識があるだろうから、もし会いたくないのだったら、いっそのこと領地内にいない方がいいのだが……」
領地の何処にいても、私の居場所が精霊の集まるスポットになってしまう。カインハウザー様が館にいる間は、カインハウザー様に集まった精霊だと言い張れるが、浄化に立ち会っている間、精霊スポットが二ヶ所あっては、言い訳が出来ないと言うことだった。
これは、もっとこの世界の事に慣れてからのつもりだったけど、あの決意を実行する時なのかもしれない……
*******
「ダメだ。幾らなんでも、それは許可出来ない」
「そうよ、危ないかもなんてものではないわ」
「ですが、神殿に棄てられた次の日にカインハウザー様に拾われなければ、そうしているはずだったんです」
カインハウザー様の執務室。
そこの来客用のソファセットに、カインハウザー様とリリティスさんと、3人で向かい合っている。
「だが、あの時は知らなかっただろうが、今は知っているだろう? 穢れや瘴気、それらに感染した獣や、異界から侵攻して来る怪魔。君はまだ、それらに対抗する術を持っていない」
アリアンロッドが成長したら、可能性はあるらしいけど、現状、ちょっと便利に単純な魔法が使える子供でしかない。
足元で伏せの姿勢で見上げているシーグが立ち上がる。
『心配するな。俺が護るし、妖精王もいる。アリアンロッドもな。妖精王がいれば、穢れや瘴気を避けて進む事は出来るはずだ』
「それが一番の不安要素だが、未成年の少女が一人……ああ、君達が居るのは解るが、一般人から見れば、一人だろう? 女性が一人で行動するのは、よくないだろう」
「でも、衛士の人達をお借りして、ぞろぞろ歩く訳にもいかないでしょう?」
「だから、そもそも、ここを出て行くという考えを思い直してちょうだい?」
これは、前々から思っていた事だ。シーグとも仲良くなれたし。
この世界の通貨や買い物の仕方、会話形式や習慣など、ちょっと田舎から出て来た子供で通じるくらいには馴れてきたと思うし、対立していた神殿と共同作業を行うと言うカインハウザー様達の足かせにはなりたくない。
美弥子を大事にする神殿側が、排除したはずの私を匿っていたとなれば、問題になるかもしれない。
いつも首から提げている木札を外し、テーブルに置く。
「身元不詳の私の木札を発行したとなれば、公文書偽造の罪になるでしょうから、お返しします」
「それこそダメだ。木札を持たぬ国民など居ない。絶対に手放してはならない」
立ち上がって、木札を握らせてくれる。
「頼むから、これは肌身離さず持っていなさい」
「カインハウザー様」
「なにがあっても、だ。大神官だとて、親を亡くした君を攫ってきたのだ、わたしが君の身元を捏造しても、それについては言及してこない。いつかここを出て行くとしても、絶対に手放すな。いいね?」
返した方がいいとは思うけれど、それ以上、強くは言えなかった。
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