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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
117. 領主からの巫女への贈り物
しおりを挟む「これはこれは、カインハウザー様、よくぞお越しくださいました」
法衣から見るに、奉仕侍祭から輔祭に上がったばかりの下級神官のようだ。
数人の女性が迎えに出て、奥の司祭室へ促す。
馬車の後方荷台から麻袋を降ろそうとすると、神官戦士のひとりが進み出て、代わりに運んでくれると申し出てくれる。
シオリほど濃くは無いが、この辺りには珍しい褐色の髪をした、まだ若い青年は、菫色の瞳を微笑みに、麻袋を担いでわたし達の後ろを歩く。
《セルティック》
《セルティック、この人》
ん? 精霊が、妙に彼に興味を示すな?
周りを見ても、神官達も、神官戦士達も、精霊が見えていないようだ。
「彼がどうした?」
《神官や大臣と喧嘩してもこの人は許してあげて》
《この人はいい人だよ》
《この人、魂がいい匂い》
彼も、精霊に好かれる体質なのだろうか? そうは見えないが。
正面玄関から司祭室までの通路ですら、穢れに近い冥い感情の凝りが幾つか溜まっている。
──ここは、本当に、神殿なのか?
わたしの不安は、ベーリングも感じていて、四大精霊に加護を受け、より感知能力の高いロイスは、気分が悪そうだった。
「いつの間にこんな事に?」
「わからんが、かなり前なのだろう。ここの精霊の機嫌はいつも悪いと言っていたし、サヴィアンヌもここを抜け出したいと言っていたではないか」
視えるからか、わたしも気分が悪くなりそうだった。
司祭室へ入ると、自称大神官と大賢者が大きく重そうな古い書物の前でなにやら話し込んでいた。
「これはこれは、ハウザー砦の領主殿」
「ようこそ、お越しくださいましたな」
本を閉じて執務机の向こうに隠し、ふたりで笑顔を張りつけて我々を出迎える。
態々隠さずとも、わたしは、精霊の報告で知っているのだが。
「領主様~、いらっしゃぁい♡」
どこか冥い閉ざされた空間に似つかわしくない明るい声で、巫女サクラが駆け込んできた。
「さくら、落ち着きなさいってば。みっともない」
今日もサポートが大変そうなアヤメも続いて入ってくる。
「約束しただろう? 人に任せずわたしが礼に来ると」
「勿論、信じて待ってましたぁ」
シオリも、話し言葉と口の動きに違和感があったが、サクラはまるきり合わない。『ウォ』と発音していても、口の形は『あ』だったり『シ』だったり毎回違う。
「我々を苦しめる瘴気を浄化してくれたサクラに、わたしから贈り物だよ」
テーブルに置かれた麻袋を押し出す。
「これ? なんですかぁ?」
「女性への贈り物なのに、ラッピングもしてなくてすまないね」
閉じ口を少し開けて、匙で中身を掬って見せる。
「え? うそ! もしかして、お米!?」
「え? お米?」
黙って座っていたアヤメも身を乗り出してくる。
思った通り、食いつきがいい。
シオリもそうだった。
あの日、花畑へ行く途中、3人は明らかにタンボに注目していた。
シオリと似た食生活だったのか、あるいは、彼女達はみな同じところから召喚されたのか……
未だ、シオリは、大神殿に『保護された』以前の事は話してくれないので、わたしの予測だが。
「これ、本当に、お米? 全部貰っていいの?」
「勿論。先日わたしのタンボを見て、気になってたようだからね。もしかしたら、お好きなんじゃないかと思って。今ここにはいないようだけど、ミヤコも、パンに飽きたと言っていただろう?」
「美弥ちゃんは、朝、霊力の使いすぎで、今寝てるの。ちゃんと、領主様がお米を持ってきてくれたってお伝えしておきますね」
朝、霊力の使いすぎ?
《練習してたんだって》
《さくら、精霊と契約してから訓練じゅんちょー》
《美弥子、まだ契約出来ない、霊力消費ヘタ》
例によって、知りたがりで披露したがりの精霊達は挙って報告に来る。が、神殿側の人間には聴こえていないようだった。
《ここ嫌~い》
《アイツら嫌~い。波長合わさないも~ンだ》
《セルティックとボク達の内緒話ダヨ》
「領主様、精霊の声は聴こえないんですか?」
「どうしてそう思うのかな?」
サクラは、首を傾げながら訊ねる。
「だって、精霊達は一生懸命、領主様に話しかけてるのに、お返事してあげてないから……」
「さすがは巫女様、精霊の声が聴こえるんですぢゃな。さて、彼らはなんと申しておられるのか……」
大神官が、サクラに訊いても、彼女は、わたしの頭上に集まる精霊達と大神官とを交互に見ながら、「え……と、そのぉ」などと、言葉を濁して言い辛そうにしている。
《まあコイツ、こちらから波長をずらさなくても、元々合わないケドネ。盲ダヨ》
我々の等身大に近い人型の風の精霊が、大賢者の頭に座り込み、左右の手で大神官と大賢者の頭をペしぺしとはたく。叩かれた当人達は、まったく感じていないようだった。
その様子に、粟食ったように慌てるサクラ。
「どうかしたんですかぃの?」
感じていない大賢者は、不思議そうにサクラを見ていて、わたしの背後で、ロイスが笑いを堪えていた。
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