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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

97.嫁ッコは、農家の嫁か領主の嫁か

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 今日も、ロイスさんとキーシンさんのおりと、更に若い狩猟の得意な衛士がふたりついてくる。

「レイディ、私が、きましょう」
「大丈夫です。私の仕事ですから」

 私は、荷車の小さい物を鍛冶屋の主人に譲ってもらい、紐で引きながら歩いている。
 荷台の端に、のお弁当と、農具を載せて、カラで牽いているので、まだそんなに重くない。

 今日は、先日出来なかったシャガ芋の収穫を終わらせて、伸びすぎたメディ菜も、収穫してから領主館で食べきれない分は、街の八百屋に譲るつもりでいる。
 同じ畑に、同じ作物を作ると連作障害の可能性もあるので、違う作物の種も用意してある。

「レイディは勤勉ですね。こうして毎日畑に出て」
「そんな事ないです」

 お屋敷では、サヴィアンヌの蜜漬け食用花と、カインハウザー様達のお菓子を作る以外の仕事は、なぜか、やんわりと断られるのだ。
 やる事がなくて、仕方なしにカインハウザー様の畑の世話を買ってでているに過ぎない。

 現状、私は、ただの無職ニートでしかない。

《なんにもしなくても食べられるんだから、いいんじゃナイノ?》

 人間とは違う価値観の妖精王は気楽なものだ。

「そう言う訳にはいかないわ。いつまでも、領主館の養い子でいられる訳じゃないのよ。私の誕生日まではまだあるけれど、2ヶ月後の収穫祭では、今年十五歳になる子供達の成人式があって、それぞれ自立しなくちゃいけないんだから」

 なのに、まだ私の仕事は決まってないのだ。
 一応、カインハウザー様のデザートを担当するお役目は貰ってるけど、それだけで、賄いと住む場所を貰えるなんて、どこの金持ちのお抱えパティシエールなのって言いたくなる感じで、全然足りてるとは思えない。

《本当にセルティックのお嫁にナレバ?》
「サヴィアンヌ、気楽に勝手なこと言わないで」

 そんな事出来る訳ないでしょ。

 畑に着くと、まずは土が乾いて軽くなっているうちに、シャガ芋を掘り出していく。
 途中まで籠に入れていて、重くなる前に荷車に載せようとして、すでに動かないことにハッとする。

「レイディ、我らが載せますから」
「そうそう、力仕事は任せてください」

 若い衛士隊員は、それなりに鍛えた体つきをしていて、私では少ししか動かなかったシャガ芋を詰めた籠を、軽々と持ち上げて載せてくれた。

 半分しか入ってない籠に、別の半分を移し替え、相当な重さになっていそうなのに、鼻唄でも歌い出しそうな感じで、載せていく。
 男の人って、凄いんだな……

「運ぶのも載せるのも我らに任せて、レイディは収穫に専念してください」

 衛士達の間では、すっかりレイディが定着し、もう、ロイスさんとナイゲルさんくらいしか、フィオちゃんと呼んでくれなくなっている。
 ドルトスさんとヒラスさんは『嬢ちゃん』
 まるっきり、子供扱いだ。


「嫁ッコ! 次の作物を植えると聞いたぞぃ」
「手伝いに来てやったぞぃ。一日一回は嫁ッコの顔を見んと、なんぞ寂しいわぃの」
「嬢ちゃん、凄い、手下がいっぱいだな? 俺らの手伝いは要らなかったかもなぁ?」

 ノル爺さんやヒラスさん達が、田んぼの方から手伝いに来てくれた。

「そんな事ないです、専門家の方々の応援は、とても心強いです」
「何を植えるんじゃ?」
「これからの時期はかなり暑くなるから、野菜は種類を選ぶぞ?」

「これを植えようと思ってます」

 手に何粒か乗っている、小さな種。もちろん、種としてはかなり大きい。

「日向かい草?」
「ここらではそう言うんですか? 私の育った町では、ヒマワリと言います」
「太陽の運行を追うからな。名前の出所は同じだ」

 そう、リスや大型インコの餌なんかにある、黄色い大きな花の種、縞々の縦長のあれである。

「何にするんだ? 花屋でも始めるのか?」
「ヒマワリ専門の花屋ですか? 違いますよ。食用です」
「喰う? 花をか? ベタベタして硬くて喰えねえと思うがなぁ。種をリスや家畜の餌にすんのか?」

 私の手元をのぞいてくるヒラスさん。

「種の殻を剥いて、パンに練り込んだり、搾って油を採るんです」
「カボチャの種みたいなもんか。ん? そっちの小さな袋は? 何が入ってんだ?」
「ゴマです」

 もう、少し種蒔きには遅いんだけど、ゴマは、乾燥に強く、日照りでも収穫量は下がりにくいと言うから。夏に向いてるかなって。

「なるほどのぉ」
「やっぱり、嫁ッコ、領主様より、儂の孫の嫁にこんか? 農家の嫁に向いとると思うがの」
「ふふふ。お爺ちゃん達と、親戚になるのもいいかな。誰ももらい手がなかったら、考えようかな?」

 お爺ちゃんズと、ずっとこうして畑仕事しながら地道に生きていくのもいいかもしんない。

「ヒラスもエエかと思うたが、嫁ッコには、オジサン過ぎるだろうしの、儂らの孫なら、成人してまだ2~3年じゃ、歳も領主様より近いぞい」
「だっ! ダメですよ、趣味で花の栽培や畑仕事はともかく、カインハウザー様が先約です!」

 それまで黙って、荷台に収穫したシャガ芋を載せていた若い衛士が、慌てて参戦してきた。
 引き合いに出されたヒラスさんは? と言うと、知らん顔をしてた。ズルい……







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