135 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
97.嫁ッコは、農家の嫁か領主の嫁か
しおりを挟む今日も、ロイスさんとキーシンさんのお守りと、更に若い狩猟の得意な衛士がふたりついてくる。
「レイディ、私が、牽きましょう」
「大丈夫です。私の仕事ですから」
私は、荷車の小さい物を鍛冶屋の主人に譲ってもらい、紐で引きながら歩いている。
荷台の端に、六人分のお弁当と、農具を載せて、空で牽いているので、まだそんなに重くない。
今日は、先日出来なかったシャガ芋の収穫を終わらせて、伸びすぎたメディ菜も、収穫してから領主館で食べきれない分は、街の八百屋に譲るつもりでいる。
同じ畑に、同じ作物を作ると連作障害の可能性もあるので、違う作物の種も用意してある。
「レイディは勤勉ですね。こうして毎日畑に出て」
「そんな事ないです」
お屋敷では、サヴィアンヌの蜜漬け食用花と、カインハウザー様達のお菓子を作る以外の仕事は、なぜか、やんわりと断られるのだ。
やる事がなくて、仕方なしにカインハウザー様の畑の世話を買ってでているに過ぎない。
現状、私は、ただの無職でしかない。
《なんにもしなくても食べられるんだから、いいんじゃナイノ?》
人間とは違う価値観の妖精王は気楽なものだ。
「そう言う訳にはいかないわ。いつまでも、領主館の養い子でいられる訳じゃないのよ。私の誕生日まではまだあるけれど、2ヶ月後の収穫祭では、今年十五歳になる子供達の成人式があって、それぞれ自立しなくちゃいけないんだから」
なのに、まだ私の仕事は決まってないのだ。
一応、カインハウザー様のデザートを担当するお役目は貰ってるけど、それだけで、賄いと住む場所を貰えるなんて、どこの金持ちのお抱えパティシエールなのって言いたくなる感じで、全然足りてるとは思えない。
《本当にセルティックのお嫁にナレバ?》
「サヴィアンヌ、気楽に勝手なこと言わないで」
そんな事出来る訳ないでしょ。
畑に着くと、まずは土が乾いて軽くなっているうちに、シャガ芋を掘り出していく。
途中まで籠に入れていて、重くなる前に荷車に載せようとして、すでに動かないことにハッとする。
「レイディ、我らが載せますから」
「そうそう、力仕事は任せてください」
若い衛士隊員は、それなりに鍛えた体つきをしていて、私では少ししか動かなかったシャガ芋を詰めた籠を、軽々と持ち上げて載せてくれた。
半分しか入ってない籠に、別の半分を移し替え、相当な重さになっていそうなのに、鼻唄でも歌い出しそうな感じで、載せていく。
男の人って、凄いんだな……
「運ぶのも載せるのも我らに任せて、レイディは収穫に専念してください」
衛士達の間では、すっかりレイディが定着し、もう、ロイスさんとナイゲルさんくらいしか、フィオちゃんと呼んでくれなくなっている。
ドルトスさんとヒラスさんは『嬢ちゃん』
まるっきり、子供扱いだ。
「嫁ッコ! 次の作物を植えると聞いたぞぃ」
「手伝いに来てやったぞぃ。一日一回は嫁ッコの顔を見んと、なんぞ寂しいわぃの」
「嬢ちゃん、凄い、手下がいっぱいだな? 俺らの手伝いは要らなかったかもなぁ?」
ノル爺さんやヒラスさん達が、田んぼの方から手伝いに来てくれた。
「そんな事ないです、専門家の方々の応援は、とても心強いです」
「何を植えるんじゃ?」
「これからの時期はかなり暑くなるから、野菜は種類を選ぶぞ?」
「これを植えようと思ってます」
手に何粒か乗っている、小さな種。もちろん、種としてはかなり大きい。
「日向かい草?」
「ここらではそう言うんですか? 私の育った町では、ヒマワリと言います」
「太陽の運行を追うからな。名前の出所は同じだ」
そう、リスや大型インコの餌なんかにある、黄色い大きな花の種、縞々の縦長のあれである。
「何にするんだ? 花屋でも始めるのか?」
「ヒマワリ専門の花屋ですか? 違いますよ。食用です」
「喰う? 花をか? ベタベタして硬くて喰えねえと思うがなぁ。種をリスや家畜の餌にすんのか?」
私の手元をのぞいてくるヒラスさん。
「種の殻を剥いて、パンに練り込んだり、搾って油を採るんです」
「カボチャの種みたいなもんか。ん? そっちの小さな袋は? 何が入ってんだ?」
「ゴマです」
もう、少し種蒔きには遅いんだけど、ゴマは、乾燥に強く、日照りでも収穫量は下がりにくいと言うから。夏に向いてるかなって。
「なるほどのぉ」
「やっぱり、嫁ッコ、領主様より、儂の孫の嫁にこんか? 農家の嫁に向いとると思うがの」
「ふふふ。お爺ちゃん達と、親戚になるのもいいかな。誰ももらい手がなかったら、考えようかな?」
お爺ちゃんズと、ずっとこうして畑仕事しながら地道に生きていくのもいいかもしんない。
「ヒラスもエエかと思うたが、嫁ッコには、オジサン過ぎるだろうしの、儂らの孫なら、成人してまだ2~3年じゃ、歳も領主様より近いぞい」
「だっ! ダメですよ、趣味で花の栽培や畑仕事はともかく、カインハウザー様が先約です!」
それまで黙って、荷台に収穫したシャガ芋を載せていた若い衛士が、慌てて参戦してきた。
引き合いに出されたヒラスさんは? と言うと、知らん顔をしてた。ズルい……
4
お気に入りに追加
2,706
あなたにおすすめの小説
わたくし、お飾り聖女じゃありません!
友坂 悠
ファンタジー
「この私、レムレス・ド・アルメルセデスの名において、アナスターシア・スタンフォード侯爵令嬢との間に結ばれた婚約を破棄することをここに宣言する!」
その声は、よりにもよってこの年に一度の神事、国家の祭祀のうちでもこの国で最も重要とされる聖緑祭の会場で、諸外国からの特使、大勢の来賓客が見守る中、長官不在の聖女宮を預かるレムレス・ド・アルメルセデス王太子によって発せられた。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
その聖都アルメリアの中央に位置する聖女宮広場には、荘厳な祭壇と神楽舞台が設置され。
その祭壇の目の前に立つ王太子に向かって、わたくしは真意を正すように詰め寄った。
「理由を。せめて理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「君が下級貴族の令嬢に対していじめ、嫌がらせを行なっていたという悪行は、全て露見しているのだ!」
「何かのお間違いでは? わたくしには全く身に覚えがございませんが……」
いったい全体どういうことでしょう?
殿下の仰っていることが、わたくしにはまったく理解ができなくて。
♢♢♢
この世界を『剣と魔法のヴァルキュリア』のシナリオ通りに進行させようとしたカナリヤ。
そのせいで、わたくしが『悪役令嬢』として断罪されようとしていた、ですって?
それに、わたくしの事を『お飾り聖女』と呼んで蔑んだレムレス王太子。
いいです。百歩譲って婚約破棄されたことは許しましょう。
でもです。
お飾り聖女呼ばわりだけは、許せません!
絶対に許容できません!
聖女を解任されたわたくしは、殿下に一言文句を言って帰ろうと、幼馴染で初恋の人、第二王子のナリス様と共にレムレス様のお部屋に向かうのでした。
でも。
事態はもっと深刻で。
え? 禁忌の魔法陣?
世界を滅ぼすあの危険な魔法陣ですか!?
※アナスターシアはお飾り妻のシルフィーナの娘です。あちらで頂いた感想の中に、シルフィーナの秘密、魔法陣の話、そういたものを気にされていた方が居たのですが、あの話では書ききれなかった部分をこちらで書いたため、けっこうファンタジー寄りなお話になりました。
※楽しんでいただけると嬉しいです。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています
真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。
なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。
更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!
変態が大変だ! いや大変な変態だ!
お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~!
身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。
操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる