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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
96.顔を隠して街を歩く詩桜里
しおりを挟むとにかく、街を歩きづらい事この上ない。
私は、この秋で15歳になる。
この国では、15歳が成人と見なされる歳らしい。
そして、恐れ多くも、私は、このハウザー砦街の領主様、カインハウザー様の嫁候補だと、街の人達に思われているのだ。
なぜ、そんな事になっているかと言うと、先日、街中に、巡礼者に染みついた瘴気のタネ、穢れが落ちて、街に犠牲が出る可能性が出た。
現状、穢れを祓い、瘴気を浄化する巫女が一人もいないこの国で、瘴気が発生したら、それはその土地の死を意味する。
私には、どんな風なのか目には見えないけれど、この世界へ渡って来た時に、女神の祝福を貰ったらしく、多くの精霊や妖精に好かれる体質となった。
そして、私の仲のいい妖精達が、闇落ちと呼ばれる、ゾンビにしか見えない、決して斃す事の出来ない動く死体に襲われた時、どうしても妖精達を助けたい私は、止めるカインハウザー様を振り払って、叫んだ結果、私に手を差し伸べてくれる精霊達が集まって、合成精霊が生まれた。
その子は巻き毛の少女の姿をしていて、アリアンロッドと名づけ、私とカインハウザー様に懐いている。
彼女は、光と風の精霊、原始的な水霊で出来ていて、その性質から、育てば、巫女の闇祓いと似た事が出来るようになると言う。
私を守護してくれている妖精王サヴィアンヌの提案で、カインハウザー様のサポートを受けながら、アリアンロッドを使って、鍛冶屋の前に蟠った穢れを、彼女の生み出す光の霊気の弾で撃ち払うという事をやったのだ。
その時の、カインハウザー様のサポートが、思い出すのも恥ずかしい。
背後から抱き締めるように寄り添って、精神集中する私の手を、大きな手で包み込んで、耳元で囁くのだ。
事情を知らない街の人達は、ただのラブラブカップルのように見えていたらしく、今、街の噂の殆どが、この秋の収穫祭に、私の成人の祝いと共に、カインハウザー様との結婚披露宴が行われると言うものだった。
ここでは、身分の高い者ほど、十五歳で成人したら、親の決めた婚約者と結婚する事も少なくないらしい。
その習慣が、私達の寄り添う姿を見たことに信憑性を出すのだという。
私は、日本人としても平均的な十四歳で、それでも目鼻立ちがやや幼く見えるほうかもしれない。
地球での西洋や北欧の人達の見た目に近い、この国の人達の中にあっては、十歳前後に見えるらしいから、それはおかしいのではないかと思うけど、街の人達に慕われる若い領主様が独り身なので、心配する気持ちも後押しするのかもしれない。
でも、私は、自分がカインハウザー様とそうなるとはこれぽっちも思ってないし、また、カインハウザー様の隣には、リリティスさんが相応しいと思っている。
透ける輝きの金髪と少し緑が差したブルーグレイの瞳が綺麗なカインハウザー様。
波打つ髪も濃く黄金の輝きと、青が差す碧と蒼の瞳が知的で、カインハウザー様の秘書官としても有能、魔術も幾つか扱え、出来る女性として、私は、密かに憧れている。
とにかく、街の人達の期待は、私にはあり得ないことだった。
* * * * * * *
サヴィアンヌが擬態した妖精の羽衣を頭から被り、日よけのフリして顔を隠して街の門に向かう。
「小さな領主夫人、今日は畑にお向かいになられますか?」
「その呼び方も、敬語も、止めてください」
「なぜです?」
「おかしいでしょう?」
「どこがですか」
街の人達はともかく、この人達は本気なのかもしれない。
畑の瘴気や闇落ちを、アリアンロッドが弱体化させて縫い留めてる事を知っているし、何人かは、目の当たりにしている。
私が、私とアリアンロッドが、巫女のいないこの国の救世主になり得る可能性に期待しているのだ。
また、女神信仰の篤いこの国では、女神の祝福を持った者は敬われたり、精霊に好かれる体質を利用されたり、とにかく、重要視される。
カインハウザー様が、まだ若い青年なのに、領主として慕われているのは、経済運用や農工業の活用などの領地統括の手腕も然る事ながら、精霊に愛され、騎士としても素晴らしい活躍をなされる方だからだ。
精霊が見えなかった頃はピンと来なかったけど、今ならわかる。
カインハウザー様に寄り添う精霊達は、恋する乙女のようにつき従い、時には戦乙女の精霊のように守護し、その望みを叶えるべく力を貸す。
精霊術は使えないと、魔力が多くないと仰っていたけれど、精霊が進んで手を貸すのだから、魔術を使う必要もない。
私も、魔力を使って魔術を行わなくても、妖精や精霊達が仲良くしてくれるし手伝ってくれるから、家事が素早く出来る。
ブラウニーがやってくれるので、家電のないこの世界でも、電動泡立て器を使うことなく玉子も角が立つし、ジューサーがなくても、果汁でジュースもスープも作れる。
巫女ではないと、穢れた存在だと、大神殿から放り出されたのにね……
ここからは見えないけれど、山頂付近に立つ、私を棄てた神殿が建っている辺りを仰ぎ見た。
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