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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

78.森の王は妖精王?

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「なあに? ワタシの凄さが解ったら、幾らでも崇めていいノヨ」

 蜂蜜シロップに漬けた花蕾をほっそりした指で摘まみ、パクッと、一口で含み、もしもしと咀嚼するサヴィアンヌ。

「ヒラスさんには、森や林に近い場所で、今後はひとりで行動するなと言われてしまいました。サヴィアンヌやアリアンロッドも居るのに」
「まあ、女王陛下がいれば、襲う目的で寄ってくる事はないだろうが、出遭った後に、驚かせたり何か突発的なことで興奮させたら、パニック状態で腕を振り上げる事がないとは言えないだろうからね」

 お互いのために、距離を置くことは悪いことでは無いだろう。何人かで行動していれば、向こうも避けるだろうから。

 カインハウザー様もそう仰って、やはりひとりで砦門の外に出ないようにと、改めて念をおされてしまった。
 益々、シーグに会いにくくなるな。

「わたしやリリティスもなるべく行くが、ヒラスや衛士の都合がつかない時は、わたしの畑は構わないから、ノル達に任せなさい」
「……はい」

 きっと、不服そうな表情をしているのだろう、リリティスさんもカインハウザー様も、苦笑される。

「それよりも、これはなんという菓子だい? 滑らかな喉ごしと爽やかな甘味が、実に旨いね」

 銀の匙で掬っているのは、杏仁豆腐。

 と言っても、この世界に杏仁霜を売ってる店も、寒天やゼラチンを売ってる店もない。
 アーモンドによく似た木の実をすりつぶして粉にしたものや、寒天に似た効果を出すゼラチン質の別物を用いての、山羊乳プリンというのが正確なところだろうけれど……

「私達は『杏仁豆腐』と呼んでいます。もちろん、この街には同じ素材がなかったので、代用品を使ったアレンジ品ですけれど」
「菓子といっても、甘ったるい物ばかりではないんだな。
 シオリの作る菓子は、甘さの抑えたものが多い。米を使った、ダンゴやセンベイなどは辛しょっぱいというか、甘さはなかったね」
「お気に召していただけたなら、よかったです」

 和食や和菓子は、この国……この世界では珍しいだろうし、喜ばれるならもっと色々やってみよう。
 素材が旨くマッチするとは限らないけど。


 * * * * * *


「サヴィアンヌって、私が思うよりも凄い存在だったんだね」

 与えられた小屋に戻り、ベッドに入って、枕元に小妖精ピクシーの姿になって座っているサヴィアンヌと、眠くなるまでちょっとお喋り。
 こういうの、憧れてた。

《ソォヨ。たかだか数十年かそこらの寿命の短い人間だもの、女神アルファに召されるまでくらい一緒にいてあげるカラ、ありがたく思いナサイ》 
「本当!?」
《な、ナニヨ、妖精郷の女王たるワタシは、そんなつまんない嘘なんかつかないワヨ》
 随分、食いつくように反応するワネ……

 サヴィアンヌに引かれちゃったけど、でも、仕方ないよね。

 シーグにもお願いした事だけれど、私は、家族が欲しい。

 人の気持ちは変わるものだ。
 母だけを見ていた父は、母を失って自らも生を棄てたけど。
 近所のとある家庭や同級生の両親、お向かいのお姉さんの彼氏。それらの人達は、ドラマのように、心変わりをしたり、生活のすれ違いや価値観の違いから、離婚したり別れたり浮気したり。

 精霊は嘘をつかないし裏切らないけど、意思の疎通は難しい。個性を持った上級精霊ならともかく。

 (シーグは喋れたけど)ペットも、裏切らないけれど、会話したり、協力し合って生活を助け合う事は難しいし、寿命の差から、必ずヽヽ、私を置いて逝く。

 でも、サヴィアンヌは、寿命のない、千年を生きる森の精気の化身だという。私を置いては逝かないし、こうして会話も出来る。
 お料理だとかお洗濯だとか、そういった手伝いの共同生活は出来ないけれど、私はそこは困ってないし、長く生きてる分、色々と精神面で頼りになる。
 価値観は、多少人間とは違うけれど、本人がそれを解ってての、一歩引いた所からの客観的なアドバイスをくれるし、そこに個人的感情が入らない分、却って信用できる。

《精々、ワタシの興味を引き続けて、楽しませてチョウダイ。退屈はイヤよ。妖精郷の外に出てきたのは、刺激が欲しいからヨ》
 アンタといたら、色々と面白そうダワよネ。

 サヴィアンヌが、窮屈でつまらない神殿から逃げおおせた後も、私に憑いててくれる理由。
 それは、刺激が欲しいからだという。
 異世界から来た私は、考え方や行動パターンが他とどこか違って、わくわくするのだそうだ。

「……ご期待に添えるよう、ガンバリマス」

 蝋燭が勿体ないので、ベッドに入ってお話をしていたのだけれど、窓から入る月明かりと、光の精霊達で充分、ものは見える。

《夜風は冷たいカラ、風邪を引くといけないワ》
 サヴィアンヌに言われるままに窓を閉めると、殆ど真っ暗だ。
 領主館のようにガラスを使った窓ではなく、戸板を縦に開け閉めするものなので、雨戸を閉めたようになる。

 おやすみなさい

 サヴィアンヌとほぼ同時にそう挨拶して、目を閉じた。


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