115 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
78.森の王は妖精王?
しおりを挟む「なあに? ワタシの凄さが解ったら、幾らでも崇めていいノヨ」
蜂蜜シロップに漬けた花蕾をほっそりした指で摘まみ、パクッと、一口で含み、もしもしと咀嚼するサヴィアンヌ。
「ヒラスさんには、森や林に近い場所で、今後はひとりで行動するなと言われてしまいました。サヴィアンヌやアリアンロッドも居るのに」
「まあ、女王陛下がいれば、襲う目的で寄ってくる事はないだろうが、出遭った後に、驚かせたり何か突発的なことで興奮させたら、パニック状態で腕を振り上げる事がないとは言えないだろうからね」
お互いのために、距離を置くことは悪いことでは無いだろう。何人かで行動していれば、向こうも避けるだろうから。
カインハウザー様もそう仰って、やはりひとりで砦門の外に出ないようにと、改めて念をおされてしまった。
益々、シーグに会いにくくなるな。
「わたしやリリティスもなるべく行くが、ヒラスや衛士の都合がつかない時は、わたしの畑は構わないから、ノル達に任せなさい」
「……はい」
きっと、不服そうな表情をしているのだろう、リリティスさんもカインハウザー様も、苦笑される。
「それよりも、これはなんという菓子だい? 滑らかな喉ごしと爽やかな甘味が、実に旨いね」
銀の匙で掬っているのは、杏仁豆腐。
と言っても、この世界に杏仁霜を売ってる店も、寒天やゼラチンを売ってる店もない。
アーモンドによく似た木の実をすりつぶして粉にしたものや、寒天に似た効果を出すゼラチン質の別物を用いての、山羊乳プリンというのが正確なところだろうけれど……
「私達は『杏仁豆腐』と呼んでいます。もちろん、この街には同じ素材がなかったので、代用品を使ったアレンジ品ですけれど」
「菓子といっても、甘ったるい物ばかりではないんだな。
シオリの作る菓子は、甘さの抑えたものが多い。米を使った、ダンゴやセンベイなどは辛しょっぱいというか、甘さはなかったね」
「お気に召していただけたなら、よかったです」
和食や和菓子は、この国……この世界では珍しいだろうし、喜ばれるならもっと色々やってみよう。
素材が旨くマッチするとは限らないけど。
* * * * * *
「サヴィアンヌって、私が思うよりも凄い存在だったんだね」
与えられた小屋に戻り、ベッドに入って、枕元に小妖精の姿になって座っているサヴィアンヌと、眠くなるまでちょっとお喋り。
こういうの、憧れてた。
《ソォヨ。たかだか数十年かそこらの寿命の短い人間だもの、女神に召されるまでくらい一緒にいてあげるカラ、ありがたく思いナサイ》
「本当!?」
《な、ナニヨ、妖精郷の女王たるワタシは、そんなつまんない嘘なんかつかないワヨ》
随分、食いつくように反応するワネ……
サヴィアンヌに引かれちゃったけど、でも、仕方ないよね。
シーグにもお願いした事だけれど、私は、家族が欲しい。
人の気持ちは変わるものだ。
母だけを見ていた父は、母を失って自らも生を棄てたけど。
近所のとある家庭や同級生の両親、お向かいのお姉さんの彼氏。それらの人達は、ドラマのように、心変わりをしたり、生活のすれ違いや価値観の違いから、離婚したり別れたり浮気したり。
精霊は嘘をつかないし裏切らないけど、意思の疎通は難しい。個性を持った上級精霊ならともかく。
(シーグは喋れたけど)ペットも、裏切らないけれど、会話したり、協力し合って生活を助け合う事は難しいし、寿命の差から、必ず、私を置いて逝く。
でも、サヴィアンヌは、寿命のない、千年を生きる森の精気の化身だという。私を置いては逝かないし、こうして会話も出来る。
お料理だとかお洗濯だとか、そういった手伝いの共同生活は出来ないけれど、私はそこは困ってないし、長く生きてる分、色々と精神面で頼りになる。
価値観は、多少人間とは違うけれど、本人がそれを解ってての、一歩引いた所からの客観的なアドバイスをくれるし、そこに個人的感情が入らない分、却って信用できる。
《精々、ワタシの興味を引き続けて、楽しませてチョウダイ。退屈はイヤよ。妖精郷の外に出てきたのは、刺激が欲しいからヨ》
アンタといたら、色々と面白そうダワよネ。
サヴィアンヌが、窮屈でつまらない神殿から逃げおおせた後も、私に憑いててくれる理由。
それは、刺激が欲しいからだという。
異世界から来た私は、考え方や行動パターンが他とどこか違って、わくわくするのだそうだ。
「……ご期待に添えるよう、ガンバリマス」
蝋燭が勿体ないので、ベッドに入ってお話をしていたのだけれど、窓から入る月明かりと、光の精霊達で充分、ものは見える。
《夜風は冷たいカラ、風邪を引くといけないワ》
サヴィアンヌに言われるままに窓を閉めると、殆ど真っ暗だ。
領主館のようにガラスを使った窓ではなく、戸板を縦に開け閉めするものなので、雨戸を閉めたようになる。
おやすみなさい
サヴィアンヌとほぼ同時にそう挨拶して、目を閉じた。
3
お気に入りに追加
2,706
あなたにおすすめの小説
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
小説家になろう様でも投稿しています。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!
コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。
何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。
本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。
何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉
何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼
※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。
#更新は不定期になりそう
#一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……)
#感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?)
#頑張るので、暖かく見守ってください笑
#誤字脱字があれば指摘お願いします!
#いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃)
#チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。
乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています
真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。
なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。
更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!
変態が大変だ! いや大変な変態だ!
お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~!
しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~!
身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。
操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。
精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが
天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。
だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。
その後、自分の異常な体質に気づき...!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる