異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

67.妖精王とピクニックに妖精郷へ③

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 蜂蜜の独特の甘い香り、温かくて柔らかい……?

 目が覚めたら妙にスッキリしていて、なるほど、リリティスがなかなか起きなかったはずだ。
 ここまで疲れや不調が解消されるまで、深く眠って起きられないとは……

 何時間経ったのだろう。
 まだ明るいようだが、妖精郷と言っていたし、時間の流れが違うとも言ってたしな。

 腹を温めていたもの。

 湯たんぽでもなく(柔らかい)、軍馬や犬でもない(獣ではない)、野営で身を寄せ合う仲間でもない。

 蜜酒を飲んだからか、いつも蜂蜜を使って菓子やパンを焼いているからか、蜂蜜の香りと、何に喩えればいいのかわからない甘い香り。
 黒に近い濃い栗色の柔らかい髪、とても近々成人するとは思えないほど小柄で、華奢な体つき。だが、骨張っているわけでもなく、リリティス程メリハリある訳でもない。しかし、温かくて柔らかくて、触れていると心地よい。

 決して不埒な考えを持つわけではないが、……これは、どうしたことか。

 眠気を誘う人の温もりに、程よい収まり具合。
 世の、親子や恋人達が、家族、パートナー、ペット達と共寝をするのは、このためなのか……

 妖精達の陽気な輪舞ロンドが醸し出す妖気に当てられ、すっかり寝入ってしまい、気がつけば、まさかのシオリをクッション代わりに抱き込んで、眠っていたという訳か……

 リリティスはどこだ?

 まわりを見るが、同じように蜜酒をあおって寝込んでいる小人や妖精達。
 サヴィアンヌもリリティスも居ないようだ。

 改めて自分で抱き込んでいるシオリを見るが、まだ彼女は眠っているようだ。
 起こせないか。どうしたもんかな。

 だが、子供を抱えて眠るのがこんなに温かくて心地よいとは。
 リリティスも昨夜はよく眠れた事だろう。


 ✽✽✽✽✽


《あら、セルティックが目覚めたみたいヨ?》
「私に比べたら、早かったわね?」
《蜜酒の効果と、シオリの効果カシラね》

 虹色の蝶の翅を背に生やした妙齢の美女の姿のサヴィアンヌが、クククと喉の奥で笑う。

「なあに?」
《セルティック、困惑してるワネ。目が覚めたら、シオリを抱き枕にしてるンだもの、自覚症状なしの自分の行動に、二度寝しちゃってるシオリを起こしていいのかに、対応できなくてオロオロ》
「それは。……残念だわ、見てみたかったわね」
《ソウネ。見にいきましょうカ》

 サヴィアンヌがニッコリ微笑み、片腕を振ると、森の中で話していたはずが、瞬きの間に、シオリを抱き締めてキョロキョロしている我があるじの、滅多に見られない姿が目の前にあった。

「リリティス、どこに行っていたんだ? シオリはまだこのままにしておいた方がいいのか?」
 視線だけこちらへ寄越し、声も潜め、ゆっくりなその動きは、身動ぐことでシオリを起こさないように気遣っているのがわかる。

「せっかく妖精郷に来たのだから、サヴィアンヌにこの辺を案内してもらってたのよ。
 ……シオリは、温かいでしょう?」
「ああ。多くの人が、パートナーや家族、ペットなど誰かと共寝する気持ちが解るような気がするよ」

 優しい眼で、シオリを見るあるじ
 背後から抱えこんでいる左手はそのままに、シオリの枕になってる右腕も可能な限り動かさないように、指先だけで髪をかき分け撫でる。
 領地の者、部下、館の者。それぞれの関係性に合わせて訳隔てなく和やかに接する態度を取るが、その分『特別』を持たなかった主が、たまたま拾った子供を気遣い、可愛がる姿。

 ──母にも見ていただきたかった

 誰も『特別』じゃない主が、己を変え、恋愛かどうかはともかく、優先させる存在を得たのだ。
 心配していたから、この今の姿を見ていただきたかった。



「シオリには迷惑だろうが、これは悪くない感覚だな……」

 目元をこすりながら身を震わせるシオリを、眼を細めて見る主。
 恐らくは無意識にしているのだろうが、鼻先をシオリの頭にすり寄せ、温かく柔らかなものを堪能している。

 解る。私も昨夜は、シオリと共寝して、とても心地よかったのだ。これからは時々そうしようと思うほどに。

 ふ、とイタズラ心が湧き上がる。


「主。教えてあげましょうか?」
「……何を?」
「私も昨夜実感したのですが……
 その、腕の中の温かくて柔らかいものが、なんなのか。触れていると心地よくて癒される感じはなんなのか。
 なんだか手放したくなくなると言うか、せっかくこうして腕の中に閉じ込めているのに解放するのが惜しい気がしたり。
 気恥ずかしいような、でもずっと触れていたいようなもじもじする感じ……
 胸が。……心が。柔く温かくなっていく感覚。

 それは『愛しい』と言うのですよ」


 『愛しい』

 愛しいとは、なにも恋人にしか使わない言葉ではない。親兄弟や子供などの近親者、親しい友人、愛らしい子供や小動物でもいいし、なんなら趣味でコレクションする小物とか、その対象は生き物でなくてすらいい。
 大切に想い、欲してやまないもの。

 眉を顰め、何か考える様子の主。が、やがて思い当たる節でもあるのか、私のクサい単語の連発に照れたのか、笑いを堪えるような、困ったような、泣くような息苦しいような、複雑な表情を一瞬だけ見せる。すぐに隙のないいつもの主に戻るが……


「うにゅ…… リリティスさん? ……おかえりなさい」
 ぼんやりとこちらをみて挨拶をくれるシオリ。だんだん、自分の状況を思い出して、顔がみるみる赤くなっていく。
 シオリが動揺を大きくしていくにつれ、逆にいつもの、今ではどちらが本当なのか解らなくなってる「」の仮面をかぶるあるじ

 頰をと言わず、耳も首も赤く染め、ジタバタするシオリを笑顔で構い、冗談を交えて中々放そうとしない主。 
 冗談ごかしだが、本当に名残惜しいのだろう。
 そして、潜在意識ではそれを認めたくはないのだろう……

 子供でもなんでも、己の『特別』を見つけ、初めての『愛しい』を知った主。
 彼女が来てから、どんどん人間味を増していく主を、嬉しく思うし、安心したし、喜ばしいことだと頭では解ってるし、本音でもある。
 だが、そんな気持ちとは別に、戸惑いと苦々しいものを感じる自分もいることを感じてもいた……



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