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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

54.妖精王と狼犬③

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 最初に手渡され、大神殿の地下の泉で禊ぎをした時に、消えるように行方不明になった妖精の羽衣。実は、妖精の女王さまの変化したものだった。
 消滅したとか見失ったのではなく、私に憑依する事で姿を消したのだという。
 窓もない壁で囲った閉鎖的な空間で、息が詰まるとか、羽衣のふりして、欲望で清らかさを喪った人を守護するのがバカバカしくなって、飽きたのもあるらしい。

 カインハウザー様の許可も得て、リリティスさんのひとり暮らしに使われていた小屋を、女王さまやアリアンロッドと共に、整えに来た。

 と言っても、家具は揃っているし、日本のワンルームマンションなどに比べたら、格段に居住性はよく、竈の火種や空調などの環境も精霊が多く滞在していて、彼らと交信できるようになった今では、むしろ現代日本よりいい。

 では、何しに来たのかと言うと、ここで生活を始める時のテリトリーを決めるためと、女王さまと話をしにきたのだ。

「ここに、ジリスや小鳥などが遊びに来たら、彼らが嫌がらなければ、女王さまは枕になさってくださいね」
《もちろん、そうさせてもらうワ。ねえ、あの怪我した狼も一緒に暮らすんデショ? アイツが常駐するようになったら、アイツのシッポはワタシのベッド、背は枕ヨ。冬でもアッタカネ》
 どこがいいカシラ? と、蝶になって、部屋中を飛び回る。野生の小動物が、人間の住む小屋に遊びに来るのだろうか? 訊けなかった。
 もし、シーグが家族になってくれたら、大きなかごしつらえて、毛布やクッションを敷いてベッドにするか、私のベッドの足元に丸まるんじゃないかしら?

《ジャ、そのクッションに花の香りのポプリなんかを仕込んで……》
「狼の嗅覚にはキツくないのかしら」
《どうかしらネ? 好き嫌いはあるカモ》
「シーグの好みと、女王さまの好みが合えばいいですね」
《……自分で言っといて何だケド、イチイチ女王さまって言うのも多少ウザいワネ》

 確かに言っといて何ではある。けど、少し同意はする。女王さまが妖精の王の姿である時はいいけれど、蝶や羽衣などに変化している時も、人前で女王さまと呼ぶのは少々痛々しい。

《仕方ないワネ。いいワ。シオリとセルティックだけは、ワタシの高貴なる名を呼ぶことを許すワネ》
 さすが、女王さまともなれば、私達が名付けしなくても、元々持っているお名前があるのね。
「おや、光栄だね? 女王陛下」

 私の衣類や雑多な小物などを入れた木製の長持を抱えた執事さん二人と、リリティスさんを伴ったカインハウザー様が、ノックの後、扉を開けて入ってくる。
 シーグの事を話してたの、聴かれてないよね?

「なんとお呼びすれば?」
《ワタシの名前は、フローラ・フローリィ・フローレンス=偉大なる女王グロリアナフィヴ・サヴィアンヌ》
 Flora《植物》の三段活用かしら?

《……でも、ま、長くて大変だろうカラ、サヴィアンヌでいいワヨ》
「サヴィア……ンヌ?」

《そうヨ、セルティックの畑で、毎日勤勉に作物を祝福してるのハ、ワタシの子孫みたいなものネ》
 なんと! サヴィアのご先祖さま?

《正確には、人間の言う子孫とは意味がちょっと違うけどネ》
「さっき、結婚を繰り返して大きくなったって」
《そうヨ。人間みたいに、夫婦になって交尾する訳じゃないワヨ》
 こっ……

《ワタシ達の結婚は、信頼できる、価値観の合う者同士で伴侶となって、一つになるのヨ》
 それと交尾は違うの? と思ったら。

「文字通り、一つに融合するのか……」
 カインハウザー様が独り言ちる。
《そうヨ。だから、ワタシは、色んなチカラを持った何種類ものたくさんの妖精と伴侶になって、大きくなったの》
 花の親心の妖精も、花の精も、薬草の精も、家事の小人ブラウニー、細かい作業の好きなノームやドワーフ、カラクリとイタズラの好きなグレムリンやレプラコーン、気紛れでちょっとした魔法も使えるピクシー、スプリガンから果ては森を守る、獣相を持った妖精戦士に至るまで、あらゆる種族が交じっているらしい。

《中でも、精霊に近い、元素の加護を持つ大きな妖精なんかは人気者でネ、ワタシはそりゃあモテたのヨ~》
 光の妖気を持ち、動物や植物の力も持ち合わせている妖精の中で、機織りが得意な子が、マナと妖気と霊気と加護を織り込んで、光や風、水などの元素そのものを繊維に変えて織るのが妖精の羽衣で、それ自体が一種の妖精でもあるくらいの力を持っていると、自慢げに話すサヴィアンヌ。

「だから、冷たさや水濡れから保護したり、魔獣を寄せ付けなかったりするのか……」
《あの、神殿の奴らは、大昔にワタシの同胞と契約をして、機織りをさせていてね。アイツらが約束を違えて反故にしない限り、織り続けてるのかもしれないワネ》

 大神殿と言うだけあって、一応総本山ではあるが、機織り媛のいる妖精郷は、隣の国にあるという。国境は隔てても、宗教に隔たりはない。

「一口に総本山とは言っても、あそこで祀られているのは、世界の管理神アルファではなくて、生命と死の安寧を司る男神クロノだがな」
 神様にも色々いて、最も位の高いのはこの世界を管理しているという女神アルファなのだと、カインハウザー様は教えてくれた。

 他にも、生命と死の安寧を司る男神クロノ、大地の恵みを司る地母神テラス、文化や芸術などを司る女神アクロ、工業や農業などの生産を司るテクノ、経済や発展を司るメトロ、他にも、信仰の対象はいるけれど、それらの神々をも管理しているのが女神アルファであるという。

 巫女が異界よりの魔族や悪意を追い払う為に、力を貸し与えるのはその管理神アルファであり、祝福を受けたがために精霊の加護があるのだとも聞かされた。



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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 55.妖精王と狼犬④


 
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