上 下
86 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

49.犬を飼いたいの!③

しおりを挟む

「切り落とし肉だけど調理前だから、刺激物香辛料は入ってないはずよ。食べてね」
 フンフンフン…… 涎を垂らしそうな勢いで鼻を押しつけてくる。

 お皿にお肉を載せて、差し出すと、前と同じように、前肢で上手くお皿を抑えながら、顔を横にして残さず食べる。

「私の焼いたパンも食べる? たっぷり蜂蜜も入ってて、この蜂蜜は病人も元気になるくらいの栄養があるのよ?」
 勿論、病気を治す訳ではないが、免疫力を上げたり、治癒するための体力を保つのに効果が高いのだろう。収穫するたびに祝福してくれた妖精さん達に感謝しなくちゃ。

 やはり、一度はフンフン匂いを嗅いで、私が持ったままなのに、はぐはぐ食べ始めた。

 ──か、可愛い~♡

 私よりも大きい狼犬が、私の手から、パンを食べてる!! なんて、可愛いの。
 このまま、懐いてくれるかしら。食べ物で釣るみたいでアレだけど、懐いてくれるんなら、食べ物も毎日どうにかして持ってくるわ。

 食べ終わって、伸びをする背中をそっと撫でる。
 狼犬がちらとこちらを見る。

「傷の具合を診せてくれるかしら? お薬、塗り直した方がいいでしょう?」

 やはり、言葉は解るのだ。ゆっくり伏せの姿勢になり、顎をエルバレオの根にのせて、ゆったりとする。

 昨日巻いたエプロンの、襷の結び目を解き、傷口を見せてもらう。

 玻璃梼薬樹エルバレオの効果は、本当に凄かった。ザックリ切れていた傷口が盛り上がって、もうくっつきかけていた。
 勿論、サヴィアの祝福も相乗効果になっているのだろう。でなければ信じられないような、治癒能力だった。

「サヴィアの祝福って、本当に凄いのね……」
《どう? 目の当たりにしたら、少しはワタシの凄さが解ったかしら?》

 アリアンが畑で活躍している間も、しゃが芋の花の中で休んでいたサヴィアが、いつの間にか私の肩に座っている。

「ええ。玻璃はり梼薬樹とうやくじゅの葉の効能が、何倍にもなってるのね!?」
《感謝してちょうだい》
「もちろんだわ!! サヴィアって凄いのね」

 得意満面で反っくり返るサヴィア。

「昨日と同じよ。すぐ済むから、我慢してね?」
 水霊が寄って来て、狼犬の傷口を軽く洗ってくれる。
 エルバレオの葉を数枚、揉んで汁が滲み出したら傷口に当てて、エプロンを巻き直す。

「早くよくなってね。傷が治ったらブラッシングさせてくれる? 元気になったら、一緒に散歩したり遊んだりも出来るかしら?」
 狼犬の頭を何度も撫で下ろす。嫌がらないのが嬉しい。
「イヌ科って、喉を撫でられるのが好きだったかしら?」
《よしなさいよ、咬まれたらどうするの?》
 サヴィアが口元を歪めて諫めてくるけど、そこで咬むようなら、とうに襲われてると思うの。

「こんなに穏やかで」
《怪我して元気ないだけデショ? 栄養ぜんぜ~ん足りてなかったみたいだし》
「私の持ってきたものも食べてくれたわ」
《空腹だからデショ》
「ブラッシングも少しはさせてもらえたわ」
《抵抗するほど元気ないだけデショ》
「撫でても嫌がらなかったわ」
《犬の習性よお》
「もお、サヴィアってば、まだ怒ってるの?」
 怒る、という言葉に、狼犬が反応して、こちらを見る。やっぱり言葉、ちゃんと解ってるんだわ。ただの犬じゃない。

《当たり前でしょ、ワタシの畑をトイレにして、ワタシの作物を無視したのよ!?》
 サヴィアの怒りに、狼犬は居心地悪そうに身をすくめ、目を反らす。その飼い犬っぽい仕草がこれまた可愛い。

 これだけ言葉を理解しているって事は、以前リリティスさんの言ってた、獣の姿をした魔族なのかもしれない。
 だとしたら、私に飼われてはくれないだろう。
 でも、お友だちにはなれるかもしれないわ。

「ねえ、言葉、解ってるのよね? あなたは、狼犬でいいの? 犬型の魔族だったりする?」
《えっ!? 魔族って、世界の外からやってくる、闇や負のこごりを、穢れや瘴気に変える悪いヤツ?》
 サヴィアが身を硬くして、私の髪に隠れる。
「大丈夫よ、サヴィア。悪い魔物なら、闇落ちをたおしたりしないでしょ?」
 それもそうかと、力を抜くサヴィア。

「魔族だったら喋れるの?」
 チロッとこちらを見る狼犬。
「男の子なのかしら? 女の子じゃないわよね、首まわり太くて立派な鬣だ たてがみ もの」
 狼犬の鬣の辺りを撫でながら、訊ねてみた。

「お名前はあるの?」




🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯

次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 50.犬を飼いたいの!④


 
しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~

黒色の猫
ファンタジー
 両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。 冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。 最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。 それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった… そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。 小説家になろう様でも投稿しています。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
 宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

処理中です...