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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
49.犬を飼いたいの!③
しおりを挟む「切り落とし肉だけど調理前だから、刺激物は入ってないはずよ。食べてね」
フンフンフン…… 涎を垂らしそうな勢いで鼻を押しつけてくる。
お皿にお肉を載せて、差し出すと、前と同じように、前肢で上手くお皿を抑えながら、顔を横にして残さず食べる。
「私の焼いたパンも食べる? たっぷり蜂蜜も入ってて、この蜂蜜は病人も元気になるくらいの栄養があるのよ?」
勿論、病気を治す訳ではないが、免疫力を上げたり、治癒するための体力を保つのに効果が高いのだろう。収穫するたびに祝福してくれた妖精さん達に感謝しなくちゃ。
やはり、一度はフンフン匂いを嗅いで、私が持ったままなのに、はぐはぐ食べ始めた。
──か、可愛い~♡
私よりも大きい狼犬が、私の手から、パンを食べてる!! なんて、可愛いの。
このまま、懐いてくれるかしら。食べ物で釣るみたいでアレだけど、懐いてくれるんなら、食べ物も毎日どうにかして持ってくるわ。
食べ終わって、伸びをする背中をそっと撫でる。
狼犬がちらとこちらを見る。
「傷の具合を診せてくれるかしら? お薬、塗り直した方がいいでしょう?」
やはり、言葉は解るのだ。ゆっくり伏せの姿勢になり、顎をエルバレオの根にのせて、ゆったりとする。
昨日巻いたエプロンの、襷の結び目を解き、傷口を見せてもらう。
玻璃梼薬樹の効果は、本当に凄かった。ザックリ切れていた傷口が盛り上がって、もうくっつきかけていた。
勿論、サヴィアの祝福も相乗効果になっているのだろう。でなければ信じられないような、治癒能力だった。
「サヴィアの祝福って、本当に凄いのね……」
《どう? 目の当たりにしたら、少しはワタシの凄さが解ったかしら?》
アリアンが畑で活躍している間も、しゃが芋の花の中で休んでいたサヴィアが、いつの間にか私の肩に座っている。
「ええ。玻璃梼薬樹の葉の効能が、何倍にもなってるのね!?」
《感謝してちょうだい》
「もちろんだわ!! サヴィアって凄いのね」
得意満面で反っくり返るサヴィア。
「昨日と同じよ。すぐ済むから、我慢してね?」
水霊が寄って来て、狼犬の傷口を軽く洗ってくれる。
エルバレオの葉を数枚、揉んで汁が滲み出したら傷口に当てて、エプロンを巻き直す。
「早くよくなってね。傷が治ったらブラッシングさせてくれる? 元気になったら、一緒に散歩したり遊んだりも出来るかしら?」
狼犬の頭を何度も撫で下ろす。嫌がらないのが嬉しい。
「イヌ科って、喉を撫でられるのが好きだったかしら?」
《よしなさいよ、咬まれたらどうするの?》
サヴィアが口元を歪めて諫めてくるけど、そこで咬むようなら、とうに襲われてると思うの。
「こんなに穏やかで」
《怪我して元気ないだけデショ? 栄養ぜんぜ~ん足りてなかったみたいだし》
「私の持ってきたものも食べてくれたわ」
《空腹だからデショ》
「ブラッシングも少しはさせてもらえたわ」
《抵抗するほど元気ないだけデショ》
「撫でても嫌がらなかったわ」
《犬の習性よお》
「もお、サヴィアってば、まだ怒ってるの?」
怒る、という言葉に、狼犬が反応して、こちらを見る。やっぱり言葉、ちゃんと解ってるんだわ。ただの犬じゃない。
《当たり前でしょ、ワタシの畑をトイレにして、ワタシの作物を無視したのよ!?》
サヴィアの怒りに、狼犬は居心地悪そうに身をすくめ、目を反らす。その飼い犬っぽい仕草がこれまた可愛い。
これだけ言葉を理解しているって事は、以前リリティスさんの言ってた、獣の姿をした魔族なのかもしれない。
だとしたら、私に飼われてはくれないだろう。
でも、お友だちにはなれるかもしれないわ。
「ねえ、言葉、解ってるのよね? あなたは、狼犬でいいの? 犬型の魔族だったりする?」
《えっ!? 魔族って、世界の外からやってくる、闇や負の凝りを、穢れや瘴気に変える悪いヤツ?》
サヴィアが身を硬くして、私の髪に隠れる。
「大丈夫よ、サヴィア。悪い魔物なら、闇落ちを斃したりしないでしょ?」
それもそうかと、力を抜くサヴィア。
「魔族だったら喋れるの?」
チロッとこちらを見る狼犬。
「男の子なのかしら? 女の子じゃないわよね、首まわり太くて立派な鬣だもの」
狼犬の鬣の辺りを撫でながら、訊ねてみた。
「お名前はあるの?」
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
50.犬を飼いたいの!④
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