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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

46.恩人への、初めての隠し事⑩

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 夢の中で、金茶の狼犬が走っている。
 私は、元気になってよかったね、仲よくしてねと一生懸命、小枝を投げたり(取ってこいは憧れ)、ブラッシングしてあげたり、駆け寄ってきて押し倒されたりを楽しむ。

 目が覚めると、私の上にうつ伏せにアリアンロッドがくっついていた。

「アリアン…… まあ、精霊は重さを感じないからいいけど…… 猫みたい?」

 飼ったことはないけど、聞いた話では、飼い主の胸や足の上に寝るのだという猫を思い出した。

「シオリ、目が覚めたの? 早いわね、まだ夜明け前よ。寝直したら?」

 衝立の向こうから、リリティスさんの声がする。

 いえ、夜明け前だから寝直せと言うのなら、リリティスさんは? なぜ起きてるの?
 ここは、私のベッドもあるけれど、カインハウザー様の寝室。こんな時間に、なぜ居るの?

 目をこすりながら上半身を起こすと、布擦れの音で判るのだろう、リリティスさんが衝立の向こうから、顔を出す。

「アリアンロッド、本当にぴったりくっついてるのね。そうやってると、仲のいい姉妹みたいよ」

 ふふふと笑うリリティスさんの、前の合わせ目からのぞく、豊かな膨らみとその谷間に目が釘付けになる。

 いいなぁ。30歳になる前の女盛りの、色気がいっぱい。私は、もう少しで15になるというのに……

 リリティスさんのナイトドレスの胸元を凝視しながら、自分の胸を撫で下ろす様子から、バレたらしい。
「あら、シオリはまだまだこれからよ。好きな人が出来たら、どんどん育つわ。きっと。今に求婚者が後を絶たないくらいにたわわに実るわよ」

 なにを根拠に……

「君達、人の寝室で明け透けな女子トークはやめてくれないか?」
 ちっとも困ってなさそうな声で、カインハウザー様の声がする。

「あら、シオリの寝室でもあるわ? 嫌なら執務室へどうぞ?」
「あっ、あのっ! お邪魔してるのは私なので、出て行くなら、私ですよね?」

 慌てて掛布をはぐり、ベッドの横に降りようとすると、リリティスさんが柔らかいお胸を私の頭に押しつけるようにして、抱きついてきた。

「ああん、シオリの健気なこと。そうよね、もう立派なレディですもの、あんなオジサンと一緒の寝室なんて嫌よねぇ?」
「そっ、そんな事はないですけど……」
 嫌ではないけれど、恥ずかしいとは思う。

「リリティス。私は、このぐらいの少女達の憧れの騎士だったんだぞ? シオリだって、何度も格好いいと言ってくれたじゃないか」
「あら、『元』でしょ? それに、シオリから見たら、立派なオジサンよねえ?」
「いえ、そんな事は…… オジサンって、30を越えた中年男性を指すのでは」
「おや、なら、リリティスはオバサンかな?」
あるじ? 私は、まだ30になってません!!」

 なにやら、主従の喧嘩が始まってしまった……

 居心地の悪さを感じながら、身仕度を整え、こっそりとカインハウザー様の寝室を抜け出す。

 リリティスさんはゆったりとした、前みごろがV字にクロスしたワンピースを着ており、寝間着なのか部屋着なのか、いつもよりラフな姿だ。
 カインハウザー様も生成りの、シャッとゆったりした下衣で、日本で言うイージーパンツにも似た感じの、やはりラフな姿だった。

 夜明け前だから、さっきまで寝てたのだろうか。

「シオリ? 寝直さないの?」
 腕時計を見ると、五時だった。ここは一日25時間なので、本当は四時なのだろう。

「なんか、昨夜ゆうべは早く寝たし、目が冴えちゃったので、このまま朝のパンの仕込みを手伝ってきます」

 私は、その場を逃げ出した。

 モヤモヤと、胸の奥がスッキリしない。
 私のせいで、2人が喧嘩を始めてしまったからだろうか。
 妙に、リリティスさんのラフで簡潔なのに色っぽいドレス姿が頭から離れない。

 こんな時間に、2人でなにを話してたのだろう、とか、いくら気心の知れた仲でも、夜中に会うなんて、とかもチラッと思ったけれど、さすがにそれは失礼な考えだと、頭から追い出そうと努力した。

 竈場に入り、眠たげにパンのタネを捏ねていた2人のキッチンメイドさんに加わり『フィオちゃんの美味しい 妖精のはちみつ』を惜しげもなく練り込んで、ツイスト状に捻っていく。

 ただ黙ってるともやもやするので、一心不乱にパン生地を仕上げていく。

 気がついたら、家人、使用人総てに配っても余るくらいの生地が出来ていた。





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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 47.犬を飼いたいの!

 
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