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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
37.恩人への、初めての隠し事①
しおりを挟む今朝は早く起きて、さくさく自分で着替える。
ドロワーズっぽい、腰に巻いてウェストと腿をリボンで留めるだけの下着は、いつもリボンをしめる時がとてつもなく恥ずかしいけど、日本で売ってるような下着はないのだから仕方がない。
もちろん、ブラもない。編み上げ紐で調節する、ビスチェみたいな胴衣で胸の下を支えるだけだ。
まあ、まだ、そんなに、下着からこぼれるほども育ってないけど。これからまだ育つかな?
メリッサさんお手製のフリルが可愛いエプロンドレスを着て、ベッド脇の衝立から顔を出す。
カインハウザー様はもう、お仕事に出て居なかった。
昨日みせていただいたログハウスで暮らすようになれば、カインハウザー様を起こすかもとか、持ち帰ったお仕事のお邪魔になるかもって心配もなくなる。
バスルームに入って、水霊達に挨拶をして、顔を洗ったり歯を磨いたり。
先日目が覚めてから、私は、精霊がよく視えるようになっていた。
カインハウザー様の精霊を視る眼と、霊的に繋げた時から、自分でも視るコツを摑んだらしい。いつの間にか、精霊達がそこかしこに漂っているのが自然な景色になっていた。
「シオリ、おはよう」
「おはようございます」
お屋敷の一階では、使用人達がすでに忙しく働いていた。まだ、夜明けすぐくらいなんだけど。
私の腕時計は、毎朝、窓から見える日時計を見て合わせる。ここの一日は25時間だから。
リサイクルショップで買った古いものだけど、毎日リューズを巻くので、電池切れの心配がないのがいい。この世界にボタン電池なんてないだろうし、もし壊れたら、直せる人はいないだろう。
カインハウザー様とリリティスさんは、お庭の見える明るいお部屋で、街の各種組合の代表者と話し合いをしていた。何時から起きてるんだろう。
「とにかく、私の畑の向こう、「スイデン」より奥には、誰も入れないように徹底してくれ」
「今は活動を抑えられているけど、いつまでもあのままかは解らないわ」
「嬢ちゃんはどうなんだ? 訓練したら、祓ったり浄化したり出来そうなのか?」
ドキッとした。私が、議題にあがってるの?
この声は、ドルトスさん。カインハウザー様のお父上のご友人で、その分、気軽さがある。
「なんとも。わたしが昨年の大討伐で見た、巫女の技とは違ったように思う」
「まあ、巫女の技を使えるような素質の子供がいれば、大神殿や国家が黙ってないだろうがな……」
ソファに深々と沈む音を立てて、ドルトスさんはそれっきり、言葉を発しなくなった。
ど、どうしよう、聞いてちゃダメな気がする。
でも、私の事を話してるのよね?
「大神殿は、まだ、神官ひとり寄越してくれないんですよ?」
「瘴気の恐ろしさは、大神殿はもとより、神職になくても子供だって解ってることだ。放置するなんてあり得ない!」
「この街を見捨てる気か!?」
「あり得なくはないな。あいつらは、自分達が一番で、国民をなんだと思ってるのだか」
組合長達は、鼻息も荒く『神殿』に腹を立てていた。
私が眠っていた三日間と、起きてからの今日まででまだ、神殿から音沙汰がないだなんて……
「でも、活動を抑えられるとは、女神の祝福や精霊の加護を持った巫女なのでは?」
「わたしと同じく精霊に好かれるようなので、身を守るために無意識に助けを求めて、それに応えた精霊が好意で行ったことで、訓練をするとかそういうのではないように思う」
「だが、セル坊には出来ないんだろう?」
「今の所、戦乙女を呼びつけたり使役したりなんて高等技術は、なし得てませんね」
「嬢ちゃんに、その才能がある可能性は?」
「さて」
「お前さんの見立てはどうなんだ? 訓練させる価値があるかどうか、解らねぇか?」
みんなの役に立ちたいとは思ってるけど、でも、巫女と同じ事を出来るのかって言われても……
なんだか、このまま聞いていていいはずないし、カインハウザー様が領民のために怖いことを言い出すんじゃないかって、どんどん背中や頭の中が冷たくなってくる気がする。
これ以上、聞いていられない。
「訓練させるとして、どのように? 手本となる巫女はいないんですよ?」
リリティスさんは、どちら側の意見として言っているんだろう。
「そりゃあ、王城神殿に預けるか、王都の精霊術士に……師事……」
大神殿と関係がよくないこの街から、才能があるかもしれない子供を預ける愚かさという、取り上げられて終わりのような図式が浮かんだのだろう、食品流通組合長さんは、言葉を続けず、椅子に座り込んでしまった。
「そもそも、王城神殿の神官達や、この国唯一の精霊術士も、あれらを抑えたり祓ったりは出来ないんですよ? この半年で、幾つの街が、畑が森が、闇に落ちたと思うんです?」
「神殿に預ける意味はないように思われるね」
「でも、可能性がっ。穢れを祓い、闇落ちと瘴気溜まりを地に縫い留めて活動を抑えられるなら、その才能を磨けば、巫女になれる可能性が……」
「そうして、自分達の身を守るために、未成年のか弱い少女を、戦場の最前線に送るのか?」
カインハウザー様の冷たい声が、私の心臓を摑んで爪を立て、どんどん冷やしていくような感じがして、平衡感覚を保てず、ふらふらと、玄関口の方に歩き出した。
「おや、シオリ。今日はスイデンに行くのかい? 大丈夫かね?」
メイドの一人が、気を利かせて、私のお弁当を厨房から持ってきてくれる。
ちゃんと礼を言えたかどうか、ふらふらとバスケットを手に、屋敷を出た。
──自分達の身を守るために、未成年の少女を、戦場の最前線に送るのか?
私が、精霊に働きかけて瘴気を祓えるようになったとしたら、この街にいて、この街の危機に働くだけじゃなくて、この国のために、常に瘴気を祓い、闇落ちを浄化して歩く事になるのか。
……正直、そこまで考えてなかった。
街中を歩いても、声をかけてくれる人々に、力なく返事をして、ロイスさんに見守られながら、街を出た。
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
38.恩人への、初めての隠し事②
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