上 下
71 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

35.神子の戦乙女と、守護獣⑩

しおりを挟む

 名付けって、小説や漫画だと、結構な大事おおごとなんだけど、きっとこの場もそうよね?

 名前、どうしよう。少女の形の精霊を見つめながら考えていると、なにかを感じたのか、私の膝の上にちょんと正座するような形に収まる。

「可愛い……」
「どことなくシオリに似てるかな?」
 そうかしら。こんなに幼い? 私。
 アウトラインがぼんやりして、子供向けアニメのようなディフォルメされた形でも、小学生高学年か中学生になったばかりの年頃の女の子ように見えるんだけど。

「シオリの感情や、シオリを通じて大地から吸収したマナを核にしてるからもあるだろうし、形をとるのに見本にしてるだろうからね」

 カインハウザー様は、さっきこの子の事、こんな可愛らしい少女のようでも、

 風の気まぐれと攻撃性

 光の整合性と鮮烈さと数多あまたを照らして暖かく包み込む内包性

 水の、時に潤し時に奪い柔らかく包み込んで保護する力

 それらを併せ持ち、私の、妖精達を助けたい、瘴気をなんとかしたいという気持ちを核に複数の精霊が融合して1つになった存在だと、表現していた。

 どうやったのかなんて覚えてないし、もう一度やれって言われてもきっと出来ない。半覚醒状態というか、トランス状態というか、茫然自失? 意識してやった事じゃないから。

 カインハウザー様の精霊を視たり働きかけたりする力を強引に自分に繋げて、瘴気を祓い闇落ち魔獣を攻撃して、残った穢れを縫い留めるとか、殆ど暴走状態としか言いようがない。

 女の子の姿なのは、私の中の精霊に対するイメージと、私の感情を核に形づくる見本にしてるから。
 攻撃性と整合性と鮮烈でいて暖かく内包力と防御力……なんだか複雑な性質。
 ふと湧いたイメージは守護精霊スプリガンとか戦乙女の精霊ヴァルキュリアみたいな?
 ずっと前に、お母さんの具合がよくなくて、お父さんの機嫌が最悪で、逃げるように家を出て、時間つぶしに入った漫画喫茶で見た漫画を思い出す。

「アリアン……アリアンロッド?」
 ケルト神話で、力と再生を司り、時の象徴でもあることから出産なんかも関与してて、銀の車輪・円盤を意味する言葉で、生命と豊穣の地母神ダーナの娘で月の女神……だったかしら。

 そんなちょっとオタク知識っぽい事をつらつらと思い出していたら、ディフォルメされた輪郭が、眩しくて目を開けていられない程に強く銀色に輝く。少し目の奥が痛くなった。

 光が収まると、私の膝の上に正座していた《アリアンロッド》は、その思い出した漫画の主人公に似た姿をした、銀色の燐光を散らした半透明の美少女(ちょっと成長した?)になっていた。

「特異性と個性を持ち、名を得た事で力が安定したのだろう、存在が固定されたようだね。
 ……本当に、シオリは凄いね。わたしには出来ない事だよ。いや、他にも、誰も、こんな事が出来るなんて聞いた事がない……
 これは益々…… あ、いや、本当に、シオリは凄いね」
 よほど驚いたのか、カインハウザー様は少し興奮気味だったように思う。あまり見ない様子だ。

「こうなるって解ってて、名前をつけろって仰ったんじゃないんですか?」
「名前は、力だったり契約だったり、鍵だったり、存在値だったり、とても大切なんだ。
 こうなる、と知っていたわけではないが、必要な事だとは思っていたよ」

 深くゆっくりと長く呼吸をしてから、カインハウザー様はおもむろに立ち上がり、私の手を取る。

「おいで。見せたいものがある」


 *****


 カインハウザー様は、私の手を引きながら、丘を下り、屋敷もまだ見えるし花畑も近い位置に建つ、小さなログハウスの前に案内してくれた。

「可愛い小屋ですね。ハイジとか住んでそう」
「ハイジ?」
「あ、私の学校の図書室にあった、児童書の主人公です。親を亡くして、おじいさんの山小屋に引き取られて、山羊や犬と暮らす少女のお話なんです」
「そう。シオリと同じだね。おじいさんは住んでないけど。
 ここはね、以前、リリティスが成人したころに、自立心を養うために、軍に入るまでひとり暮らししていた場所なんだ。
 今は誰も使っていないんだけど、ちゃんと手は入れさせてあるし、すぐにでも使えるように、家財道具なんかも揃えてあるよ」

 リリティスさんの、青春のひとり暮らしの場所なんだ。

 は、いいけど、それが? どうして、私にわざわざ見せてくれるんだろう。

「この秋で、シオリは15歳になるんだよね? この国では、15歳になると一人前として扱われるんだ。シオリの国がどうかは聞いてなかったけど、秋になれば、シオリは成人した娘と見なされる」
「そうなんですね」

 秋から、大人の仲間入りなんだ。子供扱いされる事も、大目にみてもらえる事もなくなる?

 カインハウザー様は、優しい眼をして微笑んで、爽やかに訊ねた。

「どうだろう? ここで、ひとり暮らしをしてみるかい?」



🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯

次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 36.成人したら、みんなひとり暮らし?
しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~

黒色の猫
ファンタジー
 両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。 冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。 最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。 それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった… そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。 小説家になろう様でも投稿しています。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
 宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています

真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。 なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。 更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!  変態が大変だ! いや大変な変態だ! お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~! しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~! 身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。 操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

処理中です...