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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
35.神子の戦乙女と、守護獣⑩
しおりを挟む名付けって、小説や漫画だと、結構な大事なんだけど、きっとこの場もそうよね?
名前、どうしよう。少女の形の精霊を見つめながら考えていると、なにかを感じたのか、私の膝の上にちょんと正座するような形に収まる。
「可愛い……」
「どことなくシオリに似てるかな?」
そうかしら。こんなに幼い? 私。
アウトラインがぼんやりして、子供向けアニメのようなディフォルメされた形でも、小学生高学年か中学生になったばかりの年頃の女の子ように見えるんだけど。
「シオリの感情や、シオリを通じて大地から吸収したマナを核にしてるからもあるだろうし、形をとるのに見本にしてるだろうからね」
カインハウザー様は、さっきこの子の事、こんな可愛らしい少女のようでも、
風の気まぐれと攻撃性
光の整合性と鮮烈さと数多を照らして暖かく包み込む内包性
水の、時に潤し時に奪い柔らかく包み込んで保護する力
それらを併せ持ち、私の、妖精達を助けたい、瘴気をなんとかしたいという気持ちを核に複数の精霊が融合して1つになった存在だと、表現していた。
どうやったのかなんて覚えてないし、もう一度やれって言われてもきっと出来ない。半覚醒状態というか、トランス状態というか、茫然自失? 意識してやった事じゃないから。
カインハウザー様の精霊を視たり働きかけたりする力を強引に自分に繋げて、瘴気を祓い闇落ち魔獣を攻撃して、残った穢れを縫い留めるとか、殆ど暴走状態としか言いようがない。
女の子の姿なのは、私の中の精霊に対するイメージと、私の感情を核に形づくる見本にしてるから。
攻撃性と整合性と鮮烈でいて暖かく内包力と防御力……なんだか複雑な性質。
ふと湧いたイメージは守護精霊とか戦乙女の精霊みたいな?
ずっと前に、お母さんの具合がよくなくて、お父さんの機嫌が最悪で、逃げるように家を出て、時間つぶしに入った漫画喫茶で見た漫画を思い出す。
「アリアン……アリアンロッド?」
ケルト神話で、力と再生を司り、時の象徴でもあることから出産なんかも関与してて、銀の車輪・円盤を意味する言葉で、生命と豊穣の地母神ダーナの娘で月の女神……だったかしら。
そんなちょっとオタク知識っぽい事をつらつらと思い出していたら、ディフォルメされた輪郭が、眩しくて目を開けていられない程に強く銀色に輝く。少し目の奥が痛くなった。
光が収まると、私の膝の上に正座していた《アリアンロッド》は、その思い出した漫画の主人公に似た姿をした、銀色の燐光を散らした半透明の美少女(ちょっと成長した?)になっていた。
「特異性と個性を持ち、名を得た事で力が安定したのだろう、存在が固定されたようだね。
……本当に、シオリは凄いね。わたしには出来ない事だよ。いや、他にも、誰も、こんな事が出来るなんて聞いた事がない……
これは益々…… あ、いや、本当に、シオリは凄いね」
よほど驚いたのか、カインハウザー様は少し興奮気味だったように思う。あまり見ない様子だ。
「こうなるって解ってて、名前をつけろって仰ったんじゃないんですか?」
「名前は、力だったり契約だったり、鍵だったり、存在値だったり、とても大切なんだ。
こうなる、と知っていたわけではないが、必要な事だとは思っていたよ」
深くゆっくりと長く呼吸をしてから、カインハウザー様はおもむろに立ち上がり、私の手を取る。
「おいで。見せたいものがある」
*****
カインハウザー様は、私の手を引きながら、丘を下り、屋敷もまだ見えるし花畑も近い位置に建つ、小さなログハウスの前に案内してくれた。
「可愛い小屋ですね。ハイジとか住んでそう」
「ハイジ?」
「あ、私の学校の図書室にあった、児童書の主人公です。親を亡くして、おじいさんの山小屋に引き取られて、山羊や犬と暮らす少女のお話なんです」
「そう。シオリと同じだね。おじいさんは住んでないけど。
ここはね、以前、リリティスが成人したころに、自立心を養うために、軍に入るまでひとり暮らししていた場所なんだ。
今は誰も使っていないんだけど、ちゃんと手は入れさせてあるし、すぐにでも使えるように、家財道具なんかも揃えてあるよ」
リリティスさんの、青春のひとり暮らしの場所なんだ。
は、いいけど、それが? どうして、私にわざわざ見せてくれるんだろう。
「この秋で、シオリは15歳になるんだよね? この国では、15歳になると一人前として扱われるんだ。シオリの国がどうかは聞いてなかったけど、秋になれば、シオリは成人した娘と見なされる」
「そうなんですね」
秋から、大人の仲間入りなんだ。子供扱いされる事も、大目にみてもらえる事もなくなる?
カインハウザー様は、優しい眼をして微笑んで、爽やかに訊ねた。
「どうだろう? ここで、ひとり暮らしをしてみるかい?」
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
36.成人したら、みんなひとり暮らし?
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