異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

23.冥い寒い病んだ霊気の恐怖

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 リリティスの腕にいる二鈴ジリーンは沈黙したままで、わたしが霊気をこめて訊ね、強制的に一鈴ヘンリーンに答えさせる。

《本当にわからないの。ただ、すごく怯えてて、悲鳴がひどくて……》
「シオリやヒラス達、人間は無事なのか?」
《……わか……ない。でも、シオリはまだ生きてると思う》
「……まだ?」
 リリティスが眉を顰める。精霊が見えない彼女にも、魔術を使う者ゆえに、妖精くらいは見る事が出来る。勿論、会話も可能だが、向こうが友好的とは限らない。リリティスの腕の花飾りに棲まうと約束した二鈴ジリーン以外は、さほど愛想よくはなかった。

 一鈴ヘンリーンは、チラチラとドルトスを気にしていたが、それを察したドルトスは
「お嬢さん、ジロジロ見て失礼したね」
と言って部隊長達を促し、部屋の隅へ集めて小声で談合を始める。
 父の古い友人で、わたしが精霊を視る事も知っているし、彼自身、魔術は行わないが視る人間だ。

「詳細は解らずとも、かなりの危険度で緊急性のある事態なんだな?」
 最低限それは確認しておかない訳にはいかない。

《……あっ あっああ……》
 一鈴ヘンリーンが声をあげて震えだし、二鈴ジリーンも、目に見えて震えながら、白絹草が萎れていく。

一鈴ヘンリーンしっかりしろ」
《イヤッ ヤメテ! 散ラサナイデ!》
 二鈴ジリーンが硝子細工を叩きつけ割れるような音を立てて悲鳴をあげた。
 あまりの騒音に、この部屋にいる人間総ての脳に響き渡る。魔力の弱い者にも聴こえるほどだ。

「散る? お前達の親花が枯れているのか?」
《あう……う、くらい……冥い寒い……病んだ霊気が、友達をコロシてイク……》

 くらい寒い病んだ霊気……瘴気かっ!?

 それだけを聞くと、書斎机に立てかけてあったかつての愛剣を佩き、
「ドルトス! 警戒レベル3、南門を閉めろ!!
 二隊は通常通り北門を警戒!
 三隊と五隊は南門防御態勢!
 四隊と予備隊員は街中を警戒!」
指示を飛ばして部屋を出る。

 厩舎へまわって、伝令早馬用に準備してある馬を一頭、借り受ける。
「緊急事態だ! 他の馬も、場合によっては使うかもしれん、いつでも出せるように!」

 馬番の返事も待たずに駆り出した。
あるじ!!」
 リリティスが屋敷から飛び出してくる。

「闇落ちの魔獣が畑を荒らしているらしい。シオリを保護しに行く!
 お前は、五隊のハルカスと後から来い。
 同行者は精霊の加護のあるやつだけにしろ。聖霊術、妖精術はダメだ。出来れば上級精霊を」
 当然、今度もリリティスの返事を待たず、南門へ向かった。後から文句を言われるだろうが、迎撃準備をしてる間に、シオリが襲われていたら取り返しがつかない。


 南門に着いたとき、大扉はすでに閉じられ、小扉が半開きだった。
 リリティスが伝令を出していたのだろう。

「カインハウザー様、近場の農民はすでに帰還してます。非番でしたが、ベーリングが待機してます。お連れください!」
「すまん、感謝する。他の者は、警戒レベル3、迎撃準備を。わたしも通りかがりに見かけた農民に声をかけるから、戻ったら保護しろ」

 扉をくぐり街の外に出ると、すでに馬上で長槍を構えたベーリングが待機していた。
 ベーリングは非公式だが、生まれながらに片目に聖霊を飼っている。代々受け継がれるものらしく、その聖霊の能力スキルで、槍に精霊の槍と似た効果を出せるのだ。霊力付与エンチャントの一種だろう。
「ベーリングを借りると、ここの防御が手薄になるが……」
「大丈夫です。元々彼は今日は非番です。ロイスとドルトスさんがいれば、なんとかなります」

 ナイゲルの言葉も最後まで聞かず、花畑に向かって走り出した。

 最短距離をとるため、畑と畑の間の畝や用水路をも馬で飛び越えながら、直線的に走った。
 途中、農民を飛び越える。
 ただの馬では難しいかもしれないが、伝令用に脚腰の強い体力のある馬で、ついでに風の精霊の力を借りて、少し飛ぶように一歩一歩を通常の何倍も稼ぐ。
 戦場ではいつもこうしていた。精霊達は面白がって、馬が怯えるくらいに脚力を伸ばしてくれた。
 段々ベーリングが遅れだしたが、待っていられない。こうしている間にも、シオリが傷ついているかもしれないのだ。

 スイデンに着くと、ヒラス達は土手に腰をかけて休んでいた。

「シオッ……フィオは!?」
「籾ッコ達と、川向こうの花畑へ行ったが。そろそろ戻る頃じゃろうが、まだじゃな」
 爺さん達はのんびりと川の方を見た。
 ヒラスが顔色を悪くして立ち上がる。

「カインハウザー様、さっきから、なんか気分が悪くて、こんないい天気なのに、真冬に手足がかじかむような、悪酔いで吐き気がこみ上げるような……疲労か風邪かと思ったんですが、これは……もしかして」
「お前達は、周りに気をつけながら街に戻れ。警戒レベル3で全隊が迎撃準備をしているはずだ」
「やっぱり!? お嬢ちゃんは……!?」
「わたしが迎えに行く。お前達は構わず先に戻れ」
 ヒラスは具合悪そうにしていたがシャキッと背筋を伸ばし、駆け寄ってきた。

「わたしもお連れください。兵役経験と、瘴気や闇落ちの気配は分かります。歩哨に!」
「それは知っている。だから、爺さん達を街まで警護しろ。爺さん達になにかあれば家族は勿論、フィオも悲しむ。まして、自分を助けに来たヒラスがいなかったせいで、闇落ちを回避できなかったとなれば更にな。ここは大丈夫だから、街に戻れ」

 ベーリングが追いついてきたのを目の端に捉えながら、馬首を川の方へ向けた。

 用水路に、血まみれの子リスが流れてきた。
 腹の柔らかい部分だけ食いちぎられている。

 川が見えてくると、向こう岸に、妖精の塊が見えた。本当に、塊としか言えない。蚊柱のように群生して飛び回っているのだ。

 川面を、人型をとれる大きな、風と光の精霊が乱れ飛び、川から水霊も顔を出す。
 
《セルティック、シオリが! シオリが……眼を覚まさないの!!》
 この女性の姿をした風の精霊は、特にシオリを可愛がっていた。彼女に気づかれずとも、常にそばを離れなかった。

「怪我をしているのか?」
《たぶん、血が流れるような傷はないの。でも、眼を覚まさないの! あの、冥い狼のせいで!》
 他の精霊達も、泣き顔で訴えてくる。
 妖精達の悲鳴は、怨嗟のように、辺りに低く響いている。

 川を飛び越え、馬から降りる。妖精達が一気に飛び散り、その中心から、倒れて動かない少女が現れた。

「……シオリ!!」

 青ざめた顔。
 呼吸に上下しない華奢な胸元。
 地に投げ出された白い手足。
 草花の上に広がり波打つ暗褐色の髪。


 ──わたしはまた、間に合わなかったのか!?



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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 24.神子の戦乙女と、守護獣
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