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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
10.知っている事と黙っている事③
しおりを挟む「ツラい目にあったね。今日のところは、我が家でゆっくりしなさい。こちらにどうぞ」
基本的に世慣れしていない子供だ。
親切なオニイサンを演じたら、頰を紅潮させて着いてきた。本当に身寄りもアテもないなら、わたしの申し出は渡りに船だったに違いない。
彼女がわたし達の後をついて町に近づく度に、山や野畑の精霊達が集まってくる。
《セルティック? その子誰? いい匂いするわ》
《セルティック~、その子紹介してよ。綺麗じゃないの》
《セルティック! その可愛い子ちゃん、君の? 違うんだったら、ボクに護らせてよ》
《ネェ、その綺麗な子、あんたの? 欲しいわ。譲って?》
煩いほどに上級精霊達が集まってくる。
彼らは長い年月「魔法」を営み続けながら多くの知識を得、個性を持ち、個性が定着して「個」としての姿を得た高次の存在で、一番年若い個体でも、千年以上は存在している。
少女の霊気、魔力、艶のある黒髪は、精霊達の興味を惹いて、世慣れしていないゆえの汚れのない魂が、まるで女王蜂のフェロモンのように精霊を惹きつける。
城塞都市に似た構造に作られた国境近くの砦町なので、城門は大きく、壁も高い。
少女は篝火や門番の長槍を見て、口を開けて見上げたり感嘆の声をあげたりしていた。
そういえば今日の門番は、件の気のいいオニイサンのお手本、ロイスだった。
領主たるわたしは検問の必要もなく、当番を労うべく微笑みかけて片手を上げるだけで通過する。それにリリティスと少女も続く。
常に精霊に纏いつかれるわたしの偽者がそうそう存在する筈もなく、誰も疑ったり止めたりしない。
そのわたしの同行者も、扱いは同じだ。
「今日も1日いい風と光に恵まれて良かったね。明日も良い風を」
「良い風を。小さな巡礼さんもこんにちは。いい風を連れて来たようでありがとう。明日もいい風と共にありますように」
彼女の魂の輝きと匂いに惹かれて、特に足の速い光と風の精霊が彼女の周りを回って離れない。その様子を、ロイスは喜んだのだろう。
自然の恵みを称え合うのが、精霊に好かれる体質のわたしの領地ならではの習慣だ。
その様子を見ていた少女が、少し思案した後、習ってロイスに返した。
が、ああ、力の加減を、使い方を識らないから、解放しっぱなしで、やらかしてしまった。
「えと、ありがとう、あなたにもいい風が吹きますように」
言った途端、爽やかなマナと霊気をたっぷり含んだ風が吹き抜け、門から集落の街道に流れる。
その途中、ロイスの髪がそよと揺れたのだが、
「良き香りと風をもたらす巫女さま、お恵みをありがとうございます」
涙を流して両手を合わせ、拝むように膝をつく。
「え? え? なに? たまたま風が流れただけなんじゃないの?」
びっくりしてこちらを振り返る少女。
お調子者のロイスが、目を瞑って掌を擦りながら感激したまま動かない。
こんな一面があるとは驚いた。
ロイスの感激ぶりに動揺した少女に耳打ちする。
「いいから、ここは巫女になりきって、彼の頭を撫でてあげなさい」
……このままでも面白いが、あまりにも人目をひいてしまう。神殿の者や間者が見ていたらどうするんだ。まったく。
いつまでもこのままでは埒があかないと思ったのだろう、少女は恐る恐る、地べたに膝をついたロイスの頭に、羽衣をおさえてない方の手を沿えた。
「あなたに風の恵みがありますように」
と言われるやいなや、地に蹲り、叩頭拝礼するのかってくらいのひれ伏し具合で感激していた。
「あの、あの人、感激家なんですか?」
確かに、彼をよく知るわたし達でさえ驚くほどの大袈裟な反応だ。
「たぶん、君が挨拶した瞬間に精霊の加護がある風が吹いたので、巡礼の、精霊の巫女だと思ったのだろう」
わたしの言った適当だが遠からずだろう言い訳に一度は納得した様子だったが、ピタリと動きを止め、わたしの袖に縋り付かんばかりに慌てだした。
「そっ、それって! 身分詐称なんじゃ?」
「別に君が巫女だと名乗ったわけじゃないし、挨拶に挨拶を返しただけだろう? 問題ないさ」
「巡礼の巫女さんが訪問したって神殿に、それらしい噂がまわったりしないの?」
さっきもそうだったが、どうも神殿での扱いがよほど酷かったのだろうか、奴らの目にとまることを異様に気にする。怯えていると言ってもいい。
一度神殿の動向を調べた方がいいのかもしれないな。
──まさか、アレを本当に実行した?
「うちの領地の者達は軽々しく噂話を他所ではしないよ。特に政治や宗教の話はね」
「政治と宗教が1番、ややこしい事になりそうですもんね。お互いにひかないって言うか……」
「そうそう。それを無駄に言い争いする馬鹿は、この領地内にはいないんだよ」
わたしの砦町の住民なら、わたしの退役理由も、わたしが神殿を嫌っている理由もそれとなく知っているだろうから、父の代からの者や精霊信仰の篤い者は、神殿の信者や関係者を快く思っていないし、彼らに利する事は避ける。
わたしがこの子供を客人として招き入れた以上、神殿がなにか言ってきても知らぬ存ぜぬを貫くだろうし、普段から神殿の息のかかった間者らしき人物がいれば排斥して来た。
わたしと同じ、しかもわたしより強力な精霊の加護を持つ子供を、わたしが伴っていた時点で、町の者達はこの子を「身内」として受け入れるだろう。
もしこの子供に不自然な興味を持つ者がいればすぐに解るし、自警団の者が処理してくれる。
やはり、この子は利口なようだ。詳細は解らずとも、わたしが神殿との関係がよくない事を察したようで、深くは訊いてこず、わたしの笑みに頷いて微笑むにとどめた。
その判断に、これはいい拾いものをしたのだと確信を持ち、つい口元がほころんだ。
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
11.知っている事と、黙っている事④
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