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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
1.やってみよう、稲作農家①
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©hake様 https://mobile.twitter.com/hake_choco
カインハウザー様とリリティスさんは領主としてのお仕事に忙しく、ここしばらくは一人で行動していた。
もうすぐ夏季で、収穫の近い畑の見回りをしたあと、例の狼犬の気配を感じながらお花畑で妖精さんとお喋りして、お昼に街に帰ったらお屋敷の皆さんとお食事して、メリッサさんやグレイスさんとお菓子作りをしたり、お使いに行ったり。
元々住んでいた日本の町より空気もよく、1日動くから、私は前より健康的になったと思う。
今日も、午前中の用を済ませ、お屋敷で、砂糖と蜂蜜で出来上がりの違う焼き菓子の出来栄えにガッカリしていると、精霊達の気配が急に濃くなって、館の主がお戻りなのだと解る。
まだ意識を集中しないとよく見えない精霊が騒がしくなるのだ。気配と声は解るので、つい笑いがもれると、
「おやおや、お屋形様のお戻りなのかい?」
グレイスさんが調理器具の片付けを始めながら笑いかけてくれる。
「はい。精霊さん達が賑やかになったので、お戻りなんだと思います」
「便利だねぇ?」
グレイスさんは精霊が見えない人だ。でも、竃の火の精霊に凄く愛されてる。
きっと、お料理の際、竃を大切にしてるし火加減を見ながら見えないなりに話しかけたり感謝してるから、心は通じるのだろう。
だから、きっと、このお屋敷では、グレイスさんは大抵の事では火傷を負うことはない。竃の精霊が加護を与えているから。火に炙られても、「熱いっ」くらいで済む。
精霊の気配が濃くなって、カインハウザー様とリリティスさんの登場である。
「シオリ、ついに手に入ったよ。さあ、始めよう」
「え? なんですか?」
とても面白い玩具を手に入れた少年のような顔をして、カインハウザー様が私の肩を抱えるように、扉の方へ促す。
「おや? お菓子を作ったのかい? ……美味しそうだ。食べても?」
「勿論です。お仕事を頑張っているお二人のために焼いたんですから。
……でも、蜂蜜ではお砂糖と勝手が違って、小麦粉との配合の加減が解らなくて、あまり甘くしたくなかったのもあって、綺麗に膨らみませんでした。ぺしょっとしてて、ふわふわ感ないです」
「これはこれで美味しいよ? 味はね。
砂糖か…… 砂糖の方がうまく作れるのなら使っていいのに」
私の作ったマドレーヌにならなかったものを囓りながら、カインハウザー様は笑ってくれる。
「あたしもそう言ったんだけどね?
前にお使いを頼んだ時、砂糖がびっくりするくらい高かったと言ってね。
本来は蜂蜜の方が希少なんだけど、シオリは妖精の蜂蜜が手に入るからね」
そう。妖精さん達と仲良くしていると、効率よく蜂蜜が手に入るのだ。
どこそこの蜜蜂が巣分かれする、どこそこの蜂の巣が大きくなりすぎたから処分してくれって、あちこちの妖精達から情報が寄せられる。
妖精だって、花から生まれて花を守る子達ばかりじゃない。
土の中で宝石の原石を守っている子や、動物と共同作業して発酵酒を作る子、人間の家のどこかに間借りして、お手伝いをしながらミルクを分けてもらってる子もいるのだ。
で、お屋敷の庭師や街の自警団の人達と、蜂の巣狩りに行く。
しかも、ついてきて見守っている妖精達が、お礼と称して蜂蜜に祝福してくれるので、ただの蜂蜜より高い栄養価がある。
病後で体力の落ちていた人が一口舐めたらたちまち元気になったとか、この蜂蜜を使った料理を食べて働くといつもより能率が高いとか、哀しくて悲しくて自殺しそうなほど落ち込んでいた人が前を向く気になれたとか……
あっという間に噂になって 『フィオちゃんの美味しい 妖精の蜂蜜』って名前で、南の街で売り出されるほどに。
勿論、工場で生産するようにはたくさん取れる訳じゃないので、一度にはたくさん売れないし、希少価値を高める意味でも、かなり高く売られているらしい。
よくは知らない。お二人に販売流通量や商品としての管理は任せているから。
ただ、えげつない価格設定や変な商売っ気は出さないようにお願いしてあるし、このお二人がそんな事をするとは思ってないので、詳しく知ろうとも思わない。
「ちゃんと、フィオの妖精の蜂蜜の売上金はシオリの将来のために貯金してあるからね。帳簿もつけてあるよ? いつでも見せてあげるからね」
「いいえ。お二人を信用してますから」
「あぁ、なんて可愛いの? シオリは」
リリティスさんが飛びついてきて、抱き締めてくる。
ふわっと柔らかくて弾力のある温かいお胸に顔が埋まって息苦しいけど、力は加減してくれているので、むしろ幸せな気分だ。
売上金の一部で、蜂の巣狩りに参加した人達の経費を支払っているのは知っているし当然だと思う。
それでも、原料の蜂蜜に費用が一切かかっていないのだ。
養蜂している訳でも、買い付けている訳でもないのだから。
売上金は結構貯まっていそう……
「その信頼を裏切るようで悪いんだけどね?」
「はい?」
「蜂蜜の売上金で、ちょっと大きな買い物しちゃったんで、見て欲しいんだ」
とっても爽やかで綺麗な、楽しそうな笑顔で、カインハウザー様が宣った。
カインハウザー様とリリティスさんは領主としてのお仕事に忙しく、ここしばらくは一人で行動していた。
もうすぐ夏季で、収穫の近い畑の見回りをしたあと、例の狼犬の気配を感じながらお花畑で妖精さんとお喋りして、お昼に街に帰ったらお屋敷の皆さんとお食事して、メリッサさんやグレイスさんとお菓子作りをしたり、お使いに行ったり。
元々住んでいた日本の町より空気もよく、1日動くから、私は前より健康的になったと思う。
今日も、午前中の用を済ませ、お屋敷で、砂糖と蜂蜜で出来上がりの違う焼き菓子の出来栄えにガッカリしていると、精霊達の気配が急に濃くなって、館の主がお戻りなのだと解る。
まだ意識を集中しないとよく見えない精霊が騒がしくなるのだ。気配と声は解るので、つい笑いがもれると、
「おやおや、お屋形様のお戻りなのかい?」
グレイスさんが調理器具の片付けを始めながら笑いかけてくれる。
「はい。精霊さん達が賑やかになったので、お戻りなんだと思います」
「便利だねぇ?」
グレイスさんは精霊が見えない人だ。でも、竃の火の精霊に凄く愛されてる。
きっと、お料理の際、竃を大切にしてるし火加減を見ながら見えないなりに話しかけたり感謝してるから、心は通じるのだろう。
だから、きっと、このお屋敷では、グレイスさんは大抵の事では火傷を負うことはない。竃の精霊が加護を与えているから。火に炙られても、「熱いっ」くらいで済む。
精霊の気配が濃くなって、カインハウザー様とリリティスさんの登場である。
「シオリ、ついに手に入ったよ。さあ、始めよう」
「え? なんですか?」
とても面白い玩具を手に入れた少年のような顔をして、カインハウザー様が私の肩を抱えるように、扉の方へ促す。
「おや? お菓子を作ったのかい? ……美味しそうだ。食べても?」
「勿論です。お仕事を頑張っているお二人のために焼いたんですから。
……でも、蜂蜜ではお砂糖と勝手が違って、小麦粉との配合の加減が解らなくて、あまり甘くしたくなかったのもあって、綺麗に膨らみませんでした。ぺしょっとしてて、ふわふわ感ないです」
「これはこれで美味しいよ? 味はね。
砂糖か…… 砂糖の方がうまく作れるのなら使っていいのに」
私の作ったマドレーヌにならなかったものを囓りながら、カインハウザー様は笑ってくれる。
「あたしもそう言ったんだけどね?
前にお使いを頼んだ時、砂糖がびっくりするくらい高かったと言ってね。
本来は蜂蜜の方が希少なんだけど、シオリは妖精の蜂蜜が手に入るからね」
そう。妖精さん達と仲良くしていると、効率よく蜂蜜が手に入るのだ。
どこそこの蜜蜂が巣分かれする、どこそこの蜂の巣が大きくなりすぎたから処分してくれって、あちこちの妖精達から情報が寄せられる。
妖精だって、花から生まれて花を守る子達ばかりじゃない。
土の中で宝石の原石を守っている子や、動物と共同作業して発酵酒を作る子、人間の家のどこかに間借りして、お手伝いをしながらミルクを分けてもらってる子もいるのだ。
で、お屋敷の庭師や街の自警団の人達と、蜂の巣狩りに行く。
しかも、ついてきて見守っている妖精達が、お礼と称して蜂蜜に祝福してくれるので、ただの蜂蜜より高い栄養価がある。
病後で体力の落ちていた人が一口舐めたらたちまち元気になったとか、この蜂蜜を使った料理を食べて働くといつもより能率が高いとか、哀しくて悲しくて自殺しそうなほど落ち込んでいた人が前を向く気になれたとか……
あっという間に噂になって 『フィオちゃんの美味しい 妖精の蜂蜜』って名前で、南の街で売り出されるほどに。
勿論、工場で生産するようにはたくさん取れる訳じゃないので、一度にはたくさん売れないし、希少価値を高める意味でも、かなり高く売られているらしい。
よくは知らない。お二人に販売流通量や商品としての管理は任せているから。
ただ、えげつない価格設定や変な商売っ気は出さないようにお願いしてあるし、このお二人がそんな事をするとは思ってないので、詳しく知ろうとも思わない。
「ちゃんと、フィオの妖精の蜂蜜の売上金はシオリの将来のために貯金してあるからね。帳簿もつけてあるよ? いつでも見せてあげるからね」
「いいえ。お二人を信用してますから」
「あぁ、なんて可愛いの? シオリは」
リリティスさんが飛びついてきて、抱き締めてくる。
ふわっと柔らかくて弾力のある温かいお胸に顔が埋まって息苦しいけど、力は加減してくれているので、むしろ幸せな気分だ。
売上金の一部で、蜂の巣狩りに参加した人達の経費を支払っているのは知っているし当然だと思う。
それでも、原料の蜂蜜に費用が一切かかっていないのだ。
養蜂している訳でも、買い付けている訳でもないのだから。
売上金は結構貯まっていそう……
「その信頼を裏切るようで悪いんだけどね?」
「はい?」
「蜂蜜の売上金で、ちょっと大きな買い物しちゃったんで、見て欲しいんだ」
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