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Ⅰ.納得がいきません

29.目立たないって難しい⑭

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《何してるのかしら?》
《花を見てるみたい》
《私の花よ! やっぱり、私の花が1番綺麗なんだわ》
《まだ、私の花が咲いてる所まで来てないわ。見たら、私のが1番よ》
《何言ってるの? あの子はさっきから、薄藤色の花ばかり摘んでるわ! きっと蒼系の花が好きなのよ! あなたのは真っ赤じゃない》

 騒がしいくらい、妖精さんのお喋りが聴こえる。

 精霊は静かに、魔法を営んでいる。風が花粉を運び、湿気を運んだり集めて草木を湿らせたり、大地が水を抱いて地下を流れ、花は咲き乱れる。
 光が燦々と花や草木の生長に力を分け与え、陰に涼しげな安らぎの闇を生む。

 鈴が転がる音にも、陶器のようなだったり、硝子のようだったり金属製のようだったり。高い音低い音、透き通った音、くぐもった音。
 みんな少しづつ違う。そして、耳から脳に到達すると、鈴のではなく少女や幼女のお喋り声に変わる。
 妖精達は、みな自分の世話してる花が自慢のようだった。

 私は、花を楽しむ方法として、適量摘んで、編むことにした。

 笑顔が爽やかなカインハウザー様は蒼や藤色の、才女で優しいお姉さんなリリティスさんには、情熱的な赤を基本に可愛らしいピンクや黄色でお茶目な所も表現。

 編み上がった花冠をふたつ抱え、2人の方へ駆け寄る。

「カインハウザー様、しゃがんでください」
 意図は通じたのか、素直に膝に手をついて、頭に手が届くように、前傾姿勢になってくださる。
 たとえまねごとでもまさか本当に出来る訳もないので、カインハウザー様の頰や額ではなく出来上がった花冠に口づけをして、恥ずかしくて直視できなかったけど、頭に載せる。

「光が恵みと成長を助けるように幸運を、花の美しさが心を豊かにするように、香りが心身を安らげるように、カインハウザー様の行く先が良いものでありますように」

 祈りを捧げると、摘みたてとはいえ茎から根から切り離されて僅かにクタッとしていた花がシャンとして、淡く光り出した。

「あ、あれ? すこし光ってる?」
「シオリが祈ってくれたのが、ただの言葉だけじゃなく本気だったから、精霊達が祝福を分けてくれたんだね。きっと、これを身につけている間は、怪我をしにくく前向きに元気でいられて、他の人より少しだけ運がいいかも知れないね」

 え? また、やっちゃった?

「まあ、悪い事じゃないからいいんじゃない?」
 リリティスさんも微笑みながら、屈んでくれる。

「光が恵みを闇が安らぎを、花のように気高く美しく、匂い立つ才能と英知に幸運をもたらしますように」
あるじとは、違う祈りなのね」
「……なんでしょう? 適当とは言いませんが、出来上がった花冠とリリティスさんのイメージで浮かんでくる言葉、なのかな。口をついて出て来るというか、自然に飛び出す言葉というか」
「あら、私、そんな感じなの?」

 淡く光り出した、赤を基調にピンクや赤紫で可愛らしく、所々に黄色の差し色を織り込んだ花冠を頭に載せる。

「やはり、シオリは、意図しない時に力を発揮するんだね」
「自分の分はないの?」
「私は、いいです」

 実は、花冠を編むのは好きだけど、いざ自分の頭に載せるのは恥ずかしい。……自分が恥ずかしいことを、他人にさせるのもどうかと思うけど。

「お二人とも似合いますね。とても素敵です」
「「ありがとう。シオリも仲間入りする?」といいよ」
にっこり微笑んだお二人に手をひかれ、お花畑の中に進む。

「さて、どうやって編むのかな?」

 2人の微笑んでるけどどことなく威圧感ある雰囲気に押され、仕方なく、子供の頃初めてシロツメクサを編んだときの覚えた手順を教えていく。

「こう、なるべく茎を長めにとってください。短いと編めないので」
 最初に2~3本揃えて持ち、摘んだ花をずらして重ね、茎を1周させて持ち直す。
 これを繰り返して、頭の大きさに合わせて最後を束に押し込んで纏める。

 手軽にブレスレットサイズに作って、お花に口づけて、リリティスさんの魔法の助けになりますように、と呟いて、リリティスさんの左手首に通す。
「あら、素敵。花も冠とお揃いで、ブレスレットとして見えるように、アクセントを持たせたデザインにしてくれたのね」

 そう、花冠はどこでも正面に出来るよう、均等に花を盛り、数カ所アクセントになる大輪を飾ったけれど、ブレスレットは、手首につけるので、内側にゴワッとならないよう、全体を小振りな花で構成して、手首から手の甲に向かって、綺麗な花が飾りのようになるよう作ってみた。

「リリティスは2つも貰えていいなぁ」
 そ、そんな事言われても……

 青い花と薄紅色の花と、黄色の可愛らしい花とで小さめのコサージュを造り、同じく、カインハウザー様の助けになりますように、と呟いて胸ポケットに挿す。

「ふむ。リリティスのブレスレットは魔術の強化補助、わたしのは防御守護の加護がかかっているようだね」
「そうなんですか?」
「わたしは魔術は使えないけど、視る眼は持ってるからね」

 魔術は使えない? 初めて会ったとき、真実の精霊を降ろしたって言ってたけど……?
 でも、精霊に対しても誰に対しても、嘘は言わないと仰ってたので、そうなんだろう。

「ほら、シオリの分が出来たわ。シオリは、髪が殆ど黒に近い栗色で、濃い色の花より、明るい色が似合うわ」
 リリティスさんの手に、黄色を基調に、淡いピンクや白の花が編まれた花冠がある。とろろどころ、桔梗のような形の薄蒼色の花が差し込まれていた。

「リリティスさんと、カインハウザー様も一緒にいるみたい」
「シオリが作ってくれたコサージュも、シオリとリリティスが寄り添ってくれてるようだよ」

 綺麗にウインクして、リリティスさんの方に向き直り、花冠を受け取ると、私と同じように口づけて祈ってくれた。

「この先、シオリに幸せがたくさん訪れるだろう。君達も見守ってくれるんだろう?」
 この『君達』は、この辺りにいる精霊達の事だろう。リリティスさんの作ってくれた花冠が淡く蛍火のように光り、所々チカチカと明滅していた。よく見るとそこには、小さな小さな、小指の爪に座れるくらいの女の子がいて、笑って手を振ってくれた。

「可愛い♡ 親指姫ならぬ小指姫ね」

 これからは、ちょっとした感想でもひとり言でも、よく吟味して発言しよう……

 だって、興味を持ったカインハウザー様に、親指姫から入って、かぐや姫や人魚姫など、お伽話のお姫さまのことを、知るかぎり、夕刻の鐘が聴こえるまで話させられたんだもん。



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 次回、Ⅰ.納得がいきません

30.ここはどこ? 目立たないって難しい⑮
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