3 / 294
Ⅰ.納得がいきません
3.ここはどこ? 親切なようでいて強引だよね?
しおりを挟む聖女と崇められ、ちやほやされて、美弥子達はすっかりその気になって話を聞いていた。
ぐぐ~っ
ここで、美弥子のお腹が鳴った。
私と顔を合わさずに先に家を出るためだろう、トースト一枚とコーヒーだけで朝食を済ませたと聞いている。緊張感がなくなっても、鳴ってしまうのは仕方ないだろう。
「も、もお~」
顔を赤くして、隣の子の肩をたたく。誤魔化せたとは思わないが……
「おお、お連れ様もお疲れの様子、気が利きませなんだ、どうぞこちらへ。温かい食事など用意させましょう」
なぜか、神官達は、美弥子ではなく、2人のどちらかが鳴らしたと思い込んだらしい。
2人は一瞬不服そうにしたが、淡い色の羽衣みたいなのを肩からかけられると、頰を染めて手触りを楽しむ。
「わあ、綺麗な布! ……シルク?」
「オーガンシーみたいに透けてるのに、柔らかくて滑らかで、暖かい」
「この祭壇の外は、冷たい石造りの廊下ですからな、冷えるので、しっかりと巻いてくだされ」
にこやかに、しかし逆らえない迫力で、3人を祭壇の右手の扉の奥、確かに寒そうな、石造りの廊下に導いていく。
「あの、私も一緒に行っていいですか?」
胡散臭さ爆裂級だけど、1人で置いて行かれるのも厭だ。
「詩桜里さん……? え…… あなたも?」
美弥子が、困惑した顔でこちらを見る。
どうやら今初めて、私も巻き添えを喰った事を知ったようだ。
「美弥子さん、お知り合い?」
「……殆ど他人みたいな親戚の子。今日、転校してきたでしょ」
「ああ、そう言えば。……自己紹介をしていただく所で、こちらへ呼び出されたんでしたかしら?」
濃い栗色のストレートヘアのセミロングの子は、ややおっとりめで物言いも穏やかでお上品な感じ。上の下くらいのいいとこの子なんかな。
短めのふわふわの茶髪を揺らして、もう1人の美弥子の友人が振り返る。可愛い。可愛い系の正統派美少女って感じ? やや垂れ目なのがまた愛らしさを強調しているようにも見える。
この二人が着てると、同じ制服も高級なブランドのブレザーに見えてくるね?
「美弥ちゃんの親戚なら、あの子も巫女さんとか聖女様とかなの?」
「まさかっ!」
──まさかって何?
まさか、そんなはずが無い? それとも、まさかあの子まで? どちらにせよ、好意的な色は皆無みたいだね。
私は、ため息を吐いて、美弥子を見つめた。
「おやおや、聖女様のご親戚でしたか。血が近いと誤回収してしまうこともありましてな、たいへん申し訳ないですが、これもご縁、こちらへどうぞご一緒くだされ」
誤回収って……私は手荷物レベルなんかい。美弥子以外に対しては失礼な人達だな。
お爺ちゃんはそそくさと近寄って来て、今の今まで無視してたクセに、目を細めて笑いかけ、廊下の方へ促してくる。
女性神官の1人がにこやかに、私にも羽衣みたいなのを肩からかけて、立ち上がるのを手伝ってくれた。
「あ、どうも……」
廊下はあまり広くなく、壁に囲まれて窓も無く、神官達の持つ小さい松明がなければ真っ暗闇になりそうな寒い空間だった。
「神殿に満ちております神気を逃がさないよう、扉や通路は狭く出来ております。足元に気をつけてくだされ」
「どこに行くの?」
周りをキョロキョロ見まわしながらついて歩く美少女達も狭そうに肩を寄せ合っている。
不安そうな2人と違い、「聖女様」の美弥子は堂々としていた。
「まずは、禊ぎを行っていただき、温かい食事を召し上がって戴きながら話の続きをいたしましょう」
禊ぎってアレよね? 禊ぎ祓えとかって、聖水や海なんかに入って身を清めるってやつよね?
ようは水浴びやん。やっぱりお水なんかな。この寒さだと風邪ひきそうなんだけど……
*****
「あんた達、覗かないでしょうね?」
地下にある泉に案内され、制服の上着を脱ぎながら、出口付近で立っている神官達に、美弥子が訊ねた。
「聖女様と巫女達が禊ぎを行っている間は、ここに衝立を立てて目隠しをしておきますぢゃ。急な不審者の乱入や下級妖魔の侵入に備えて警護に2人は残しておきますのでな」
そう言い置いて、大神官と大賢者とお付きの人達は泉の間を立ち去っていった。
美弥子達は安心して、用意された籠に制服を脱いでいき、先程かけて貰った羽衣を纏って泉に足をつけた。
側に控えてる女性達の話だと、この羽衣は聖なる力を持っていて、水の中に入っても身に纏いついたりしないし、動いても水圧の抵抗もなく、水の冷たさに身が凍えるのも守ってくれて、水から出たらすぐに乾くらしい。
私は、護衛の神官2人が気になって中々脱げないでいる。
護衛とは言うけれど、まだこの人達を信用しきれない私には、美弥子達を逃がさないための見張りにしか思えなかった。
私は聖女様じゃないんだったらもういいよね? 先に日本に帰してくれないかな……
🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯
次回
4.ここはどこ? 神殿の中って閉鎖空間なの?
10
お気に入りに追加
2,706
あなたにおすすめの小説
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
小説家になろう様でも投稿しています。
隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!
咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。
家族はチート級に強いのに…
私は魔力ゼロ!?
今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?
優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます!
もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語
異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!
コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。
何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。
本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。
何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉
何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼
※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。
#更新は不定期になりそう
#一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……)
#感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?)
#頑張るので、暖かく見守ってください笑
#誤字脱字があれば指摘お願いします!
#いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃)
#チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる