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Ⅰ.納得がいきません
15.ここどこ? 人里に潜入します⑦
しおりを挟む「私が保護された山の上の神殿の奥で目覚めた時、神官の人がたくさんいて、忙しそうでした。
神殿の中で過ごすためと言われて、地下の泉に連れて行かれ、そこで沐浴させられました。
その時に、このストールを掛けてもらいました」
肩からかけている、妖精の羽衣をそっと握る。
「そこには、私と同じくらいの歳の女の子が3人いました。
3人とも、不思議な言葉で会話してて、それぞれ金茶と青緑と薄桃の髪をしていたのがとても印象的でした」
よし、嘘じゃないぞ? 精霊さん、本当のことですからね。
「彼女達の階位や能力を確認するついでに、神殿に置いてもらうなら役に立つ能力がないか調べるのだと、彼女達に続いて私も探索水晶球に触らされました。名前と年齢を唱えると、先の3人は金色や若草色に輝いたりしていたのに、わた……私、は……色んな色が、スライムみたいにうごうごして混ざり合ったら汚い灰色になって……小さくなって消えて。
……事故の時に、に、けが……穢れたって、言われて、グッ、ふ……ン、棄、棄てられ……」
もう、思い出したら悔しくて、悲しくて、涙が溢れてくる。
好きで、巻き込まれ召喚されたわけじゃない。あの人達の術の精度が悪かったせいじゃないか……
穢れってなんなの。もしそうだとしても、私のせいじゃない。
日本から連れ出さなきゃ起こらなかった事でしょう。
どんどん気持ちが沈んできて、涙が止まらなかった。
リリティスさんに頭を抱き締めてもらって、しばらく泣き続けた。
*****
「ご、ごめんなさい。ご迷惑おかけしました」
「いいのよ、まだ14歳の女の子に大人げない対応の神殿が悪いんだから、気にしないで?」
深々と頭を下げる。薄ぼんやりした刷り込まれた知識では、ここの人達も、目上に謝罪するときは頭を下げるみたいだから。
「まったくだ。なんの根拠もない言いがかりで、何も持たせず子供を1人で放り出すなんて、正気の沙汰とは思えない」
カインハウザー様もお怒りのご様子。
「……でも。大神官と大賢者の立ち会いで確認したのに、属性も階位も能力も判らないなんて、気持ち悪いでしょう? 正体不明の穢れた……」
「あの者らの戯れ言など、気にする必要はない!
第一、大神官と名乗ってはいるが、大神殿の中で一番年寄りだと言うだけで、神通力が抜きん出ているという訳ではない。むしろ、年相応に衰えて、その辺の大司教よりも通力はない。
大賢者も、王立学舎の賢人達の中で最年長で口伝も多く知っているというが、あの年でその記憶力はたいしたものだが、如何せん、本人が世間知らずの愚か者だ。学舎の中で本や口伝の知識を蓄えて悦に入るだけの活きた知識ではない」
う……わぁ。カインハウザー様、お怒りのせいもあるんだろうけど、悪口全開。本当に、あの人達が嫌いなんだな。
それとも、私を慰めるために、わざとああいう言い方したのかな。
「精霊や妖精に好かれて離れない姿を見れば、君が穢れに染まっているとはとても思えない。あの者らの無能さが判ると言うものだ」
「精霊や妖精に好かれてるんですか? 私……」
なんにも見えないし、そんな実感ないけど。
「最初に、わたしが声をかけた理由は、まさにそれなんだよ」
カインハウザー様は、お母様が精霊使いの才能をお持ちだったとかで、ご本人も見ることは出来るのだそう。
妖精の羽衣を被った、一見巡礼者のような格好の子供が独りでふらふら歩いていて、保護者や伴がいる風はない。だが、それを補ってもあまりあるくらい不自然なほど精霊がたくさん付き纏っている様子が、こんな子供に?と不思議で、実は異国の巫女なのではないかと思って、農民を装って声をかけたのだそう。
「農民のフリとはいっても、今はそう変わらないんだよ? 王都での軍人は退役して、無職の領主だからね。せっかくの余った時間を無駄に過ごすのもなんだから、ご先祖様が残した畑を有効活用してみようと思ってね? 夏野菜に挑戦中なんだ」
爽やか~な笑顔で無職だからねと返す。そんな笑顔で言える事だろうか?
「領主様なのに、無職……なんですか?」
「領主は役職名。わたしはこの地を国に任されて管理してるだけ。この国はね、すべての土地が国有地なんだよ。個人で所有してる土地はないんだ。譬え大貴族の公爵様でもね」
共産主義とか国家主義なのかな? 社会主義? でも、王様がいるんだから、君主制? 立憲君主制とかで、王様はいるだけだったり?
う~ん、社会科はイマイチ苦手なんだよなぁ。
「だから、爵位も、陛下や議会から与えられた役職を全うするために、ある程度の権利を許されてるかどうかの目安でしかないんだ。
国を良くするためには、個人の不都合は無視される傾向にある。
嫌な感じだよね。お国が守られるために、その国を支える大切な国民の権利が奪われるんだ。だいたいあいつらは……」
ハッとして、急に口を噤むカインハウザー様。
「すまなかった。まだ未成年の、君に話すようなことじゃなかったね」
困った顔で謝る姿が、少しだけ疲れてる風にも見えた。私には解らないような、大人の事情でいろいろな事があったんだろう。
コホンと咳払いをひとつ。
「とにかく。君は、それだけ精霊に好かれているんだから、穢れているはずがないよ。それだけは確かに言える事だよ」
「私には見えないんですけど……」
「君が、精霊使いの能力を持っているかどうかは関係ないからね。ただ、精霊に好かれやすい体質なんだろう。時々いるんだよ。自分では何も働きかけることは出来なくても、多くの精霊に好かれてて、時折こっそり手助けして貰える、見えないものからすれば妙に運のいい人がね」
見えないし、何もしてあげられないのに、向こうは私を好いてて、こっそり手助けしてくれる? そんな都合のいい事があるの?
「勿論、多少の魔力があれば、自身の霊気を研ぎ澄まして、訓練次第で精霊や妖精達を見ることは出来るようになるよ。なんなら、明日からでも、鍛練してみるかい?」
「お、教えてくださるんですか?」
「先程も言ったとおり、無職の閑人な【オジサン】だからね」
また、無駄なほど華麗にウインクをキメる。
「とにかく今日は歩きづめで、先程も泣いたのも体力使っただろうし、昨夜もゆっくりとは休めてないだろう?
君のご希望の湯に浸かって、今夜はとりあえずもう休みなさい。
話はまた明日にしよう」
え? 湯に浸かる? 浸かるって言った? 盥にお湯張って拭くだけじゃなくて?
「お、お風呂に入れるんですか?」
「勿論。暇囲ってる無職の田舎領主だけど、それなりのお屋敷の【旦那さま】だからね。裏の庭が見える露天風呂と、客人用に、個室に浴用を置いてあるのと、好きな方に入っていいよ」
「ろ、露天風呂があるんですか?」
「おや、露天風呂が好きなのかい? 若い娘さんは躊躇するかと思ったけど」
「私が育った土地では、温泉施設が人気なんです。岩風呂や檜風呂が特に人気で……」
ハッと口を噤む。喋りすぎたかな。この地に実際にない土地のことを話しちゃほころびが出るかも。
「ハハハ。お風呂が好きな民族なのかい? 温泉じゃなく、冷泉を温め直してるもので悪いけれど、よければ楽しんでくれ」
「はい! ありがとうございます」
神殿の地下にあった冷泉と似た泉質かしら。
あれ、ちょっと浸かっただけなのにお肌がつるつるで、冷たかったけど、妖精の羽衣を纏ってればまた入りたいくらいよかったのよね。
気温が低いからか、もともと熱々にしてなかったのか、程よくぬるめで、心地よく、ため息が出るくらい素敵な岩風呂だった。
久しぶりのお風呂。羽衣をぐるぐる巻きにして、深夜までゆったりしたのは言うまでもない。
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次回、Ⅰ.納得がいきません
16.ここどこ? 人里に潜入します⑧
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