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誰の手を取ればいいの
64.ユーフェミアのお目当ての方は?
しおりを挟む一日領内を廻り、王子妃になって初めての帰郷とその地の視察旅行の初日が終わった。
里帰りではなく、公務の一環として、侍女や護衛官、騎士団の小部隊も共に、侯爵邸へ入る。
王子妃とその侍女や従者、護衛官や騎士団部隊も纏めて泊める事が出来るのは、たいていが領主館、或いはその邸宅敷地内にある迎賓館などの別邸くらいだからだ。
侍女や護衛官はアナファリテと共に侯爵邸のマナーハウス本館に、道中の安全のための騎士団の小部隊は、本館にほど近い別邸に詰めて入ることになった。
システィアーナは、王子妃の侍女や女官、公務補佐などの役員としてではなく、客人の侯爵令嬢として遇された。
晩餐は、サレズィオス領の特産品を調理され、アナファリテ、システィアーナだけでなく、随行者全員が舌鼓を打った。
「ねぇ、アナ」
「なあに?」
王家に嫁いだアナファリテの部屋はそのまま残されていたが、システィアーナと二人部屋の客室を利用した。
湯浴みも済み、侍女に濡れ髪の水分を柔らかい布で丁寧に吸い取らせながら、鏡台の前に仲良く並んでいるふたり。
「アナは、フレックも、お互い初恋なの?よね?」
「そうね。私は、そうよ。フレックはどうかしら? 王子として勉強に公務に忙しかったみたいだけど、その分、美しい令嬢や異国の美姫にお会いする機会は多かったでしょうし」
「見た目で決めたりしないと思うけど」
アナファリテはもちろん、美女である。
システィアーナのひとつ上、今年の夏に18になる。美少女だったアナファリテは、17になってすぐフレキシヴァルトと婚姻を結び、美少女から大人の女性へと花開いた。
昔馴染みのエルネスト、アスヴェル達近衛騎士や護衛官達も、ふとした時にドキリとして目を逸らすほどに。
「気がつかなかったけど、ミアやメルティにも、気になる殿方が居るみたいだし」
「そう? よく騎士の訓練を覗きに行ったり、お目当ての方が通ったら目で追ってたりしてたわよ?」
「だから、気がつかなかったのよ。騎士の訓練を覗きに行ってたのは、騎士物語もよく読んでたし単にああいう感じが好きで、誰かの剣を振るう姿に憧れでもあるのかと」
「それが、恋心に変わらないと、どうして思うの? ドキドキしながらいつも見守っていたら、憧れから恋に変わるのはそう時間はかからないんじゃないかしら? 王女ともなれば、気軽に殿方と会う機会はそうそうないでしょうし」
「⋯⋯全然気づかなかった。というよりも、そんな事思いも寄らなかったから、ミアのこと、よく見てなかったのかもしれないわ」
「そうね」
「アナ、そのお目当ての方って、ご存知なの?」
システィアーナのよく知る人だと言おうか迷ったが、アナファリテは
「これから、ミアのことをよく見ておくといいわ」
とだけ言うに留めた。
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