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誰の手を取ればいいの
44.霜の精霊のような
しおりを挟む真冬の雪山に現れるという霜の精霊が実在すればこんな感じかと思うような、青銀の長い髪とシルバーグレーの睥睨する瞳の長身痩躯の王太子付き執務室主任から発せられる低く冷たい声が、エルネストを貫く。
「あ、いや、そんなんじゃ⋯⋯」
勿論、そんな艶めいたシーンでもないし、ファヴィアンとて本当にそういう場面に立ち合ったと思って言っている訳ではない。
ただ、己の主に見せたくないモノが、奥宮の王族プライベートゾーンの廊下のど真ん中にあるから排除したいだけだ。
普段は色味の薄いヘーゼルの瞳なのに今は血の気が引いているのか、シルバーグレーに見えるのがより冷たい印象になる。
エルネストとて決して低くは無い身長なのに、一九〇㎝を超える長身で見下ろされると、同じ王族でも長男と次男、王太子付き執務室主任と第二王子付き私設秘書兼護衛官(但し従騎士で見習い)、22歳と17歳という序列の差もあって、気後れがする。
唯一、勝てるところがあるとするなら、互いの父親が、降爵寸前の平凡貴族やや才覚無しで王家に覚え悪しという事と、自領の貿易をより盛んにするために当主自ら国内外を飛び回り、王宮内の地位より商売が好きという変わり者だがエスタヴィオと仲良しさん、という、父親の出来不出来くらいであろうか。
控えろと言われるような、抱き合ってるとか抱き寄せてるとかではないが、又従妹が心を落ち着かせるために甘えて胸に身を寄せ、その両肩に手を添えて支えているだけでも、第三者から見れば他家や公共の場で推奨される行為ではないように見えることも事実。
いっそ本当にラブシーンだったなら、控えろと叱られてもまだ受け入れられるのに。
「あっ、あの、ファー違うの。わたくしが色々と、その、落ち着かなくて、エル従兄さまに甘えてただけで、エル従兄さまは悪くないの。ホントよ」
ファヴィアンの冷たい声に身を縮こませながら、エルネストの背後に回り、顔を半分出して講義するシスティアーナ。
エルネストに甘えて気が緩んでいるからか、いつもの令嬢らしい物言いではなく、むしろやや幼くなっている。
「⋯⋯解らないでもないですが、廊下では人目につきます。サロンに戻るなり今ならフレキシヴァルト殿下の執務室も無人でしょう」
「いや、何処かに身を隠してする方が却って疚しいみたいでどうかと⋯⋯」
「なら、そういうことです。人目のあるところでする行為ではないのでしょう」
正論だが、どこか冷たい意見だ。
エルネストはため息をついてシスティアーナの肩を抱き寄せ、廊下の端に引き下がる。
「殿下の通行の妨げになったのは申し訳ありませんでした。自分めはこのままフレキシヴァルト殿下に報告がありますので。
シス。帰るのなら少し待ってくれたら送るよ」
「ううん。フレックのお仕事が大変でしょう? わたくしは侯爵家の馬車にメリアと従者が待ってるから大丈夫よ」
廊下の端に寄ったとはいえ、一度頭を下げたもののすぐに身内の会話に入ったエルネストに、ファヴィアンが眉を顰める。
「エル! ちょうど良かった。話が⋯⋯何? なんか、空気が緊張してるようだけど、なんかあった?」
爽やかに微笑む王家の顔と呼ばれるフレキシヴァルトがサロンから出て来て、重たくなりかけた雰囲気を和らげた。
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