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誰の手を取ればいいの
42.くだらなくて楽しいこと
しおりを挟む「そんなの、見てれば誰だって解るわ。私が訊いたのは、何があったのかご存知なのかと⋯⋯」
眉を顰めるユーフェミアに、デュバルディオは面白くもなさそうに、吐き捨てるように答える。
「知らないね。知りたくもない。どうせ、僕が兄上の首を絞めてやりたくなるような、くだらなくて、シスには顔を合わせるのが恥ずかしくて、かつ兄上には楽しい事なんだ」
「それも、見たままね」
すっかり刺繍への集中力をなくしたアルメルティアが、刺繍枠を填めた布地を放り出した。
「だけど、この場合、第三者にはくだらない事だろうって所が重要なのさ」
「どーゆー事?」
アルメルティアは、刺繍糸の入った籠も脇にやり、本を片手にソファに沈み込むデュバルディオの方へ身を乗り出した。
「兄上には、シスの様子を見て楽しむ余裕がある」
「うん」
「だけど、シスは、顔を合わせられなくて必死で隠れたくて布を頭から被ってみたり、ありもしない捜し物を探す振りをしてしゃがみ込んで身を縮めたくなるような、恥ずかしくて逃げ出すような事なんだ」
「そうみたいね」
「解んない?」
「ぜんぜん」
「メルティには、まだ早かったかな。とにかく、シスの婿入りを目指す僕には面白くなくて歓迎できない、兄上にはハッピーな出来事があったってことさ」
「アレク兄さま、楽しそうだったね」
「こりゃ、うかうかしてられないな」
せっかく持って来た本には目もくれず、親指の爪を噛んで考え込むデュバルディオ。
「え、何? デュー兄さま、シスのお婿さんになるって話、本気だったの?」
「嘘や冗談で、こんな事言える訳ないだろ? ちゃんと、父上や公爵にも根回しはしてあるんだ」
「えっ、そんなに本格的に話は進んでいるの?」
「⋯⋯肝心の、シス本人とロイエルドには話は通ってないけどね」
「なぁんだ、まだまだじゃないの」
「フレック?」
これまでひと言も言葉を発していない夫に、アナファリテが目配せを送る。
「どういう事なのか、把握なさってるの?」
「⋯⋯いや。ディオの根回しはどこまでかはハッキリとは訊いてないが、まだ慌てる段階じゃない、と思う。けど、兄上のはたぶん、アナにはいい知らせになるかもしれないね」
「そう。ちゃんと把握しておいてちょうだいね?」
「ああ」
目を閉じて深く息を吐き出し、フレキシヴァルトは立ち上がると、みんながシスティアーナの奇行と楽しげなアレクサンドルについて話し合うサロンを後にした。
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