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誰の手を取ればいいの

41.奇行

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「シス? 何してるの?」
「別に?」
「そう? なんだか、差しかけの刺繍を中断して、南の砂漠地方の民族衣装ごっこをしてるみたいに見えるけど、気のせいなのね?」
「針、大丈夫?」
「ええ。刺繍針は先がそんなに尖ってないし、ちゃんと端に留めてあるわ。⋯⋯格好に関しては、気にしないで、くださる、と、ありがたいのだけれど」

 勿論、社交デビューも済んだ適齢期の侯爵令嬢のする格好ではないが、ツッコむ事をやんわりと拒否された以上、アルメルティアもユーフェミアも黙るしかない。

 が。

「それ、隠れ切れてないと思うし、意味はない行為だと思うわよ、ティア」

 アナファリテは堂々と指摘した。

「こんにちは、ティア?」
「それ、砂漠の民 ベドウィン の真似事、じゃないよね? シス。差しかけの刺繍糸垂らして、何してんの? そもそも、クーフィーヤは男性のかぶり物だし?」

 アレクサンドルは普通に挨拶してくるし、デュバルディオは平気で訊いてきた。

 つい今しがたまで刺していた刺繍の手を止め、刺繍枠のついたままの白い布を頭から被り、ソファの下の何かを探すような姿勢でしゃがみ込むシスティアーナ。

 滅多に見られる奇行ではないので、みな声をかけずにはいられない。

「あ、ああ、ありましたわ! よかったです。これを探しておりましたの!!」

 そう言って、縫い針を使うときに指に通す指貫を親指と人指し指で摘まんで立ち上がり、
「大変、もうこんな時間ですわ。皆様、ごきげんよう」
と叫んで、刺繍道具を籠に投げ入れるように詰め、その籠を抱えて、王女達が刺繍をしていたサロンを飛び出していく。

「何あれ」

 デュバルディオはポカンと、らしくもなく駆けだして行ったシスティアーナを見送っていたが、理由がわかるアレクサンドルは、肩を揺らして喉の奥で笑っていた。

「まったく可愛らしい反応をしてくれるね、彼女は」
「何。兄上、なんかやらしい笑いだね? シスとなんかあった?」
「さあ?」

 勿論、こんな楽しいこと、人に話すなんて勿体ないとばかりに、アレクサンドルはとぼけて肩をすくめるだけだ。

「お兄さま、顔を隠したりシスが逃げ出すような、酷いことをなさったの?」
「まさか。僕は • • 、何もしてないよ」

 ヘンな笑いだなんて、心外だなぁ?と、楽しそうに、サロンを後にするアレクサンドル。

「僕は、変な笑いなんて言ってない。やらしい笑いだねって言ったんだけどなぁ?」
「なぁに? デュー兄さま、なにか心当たりあるの?」
「心当たりって言うか、まんまでしょ? 兄上が姿を現した途端、シスが焦りだして刺しかけの刺繍の布に隠れて何もないのに床を探す振りをして、挙げ句、あたかも探していた物が見つかったかのように振る舞って、この場を逃げ出したんだよ?」




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