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誰の手を取ればいいの
32.王太子と第三王子の⋯⋯
しおりを挟むアナファリテと共に第二王子夫妻の居室を出、定期的に衛士の立つ廊下を進む。
「今の時間なら、みんなサロンに居るはずよ。この後すぐフローリアナ殿下は同年代の令嬢達とお茶会の予定だけれど、トーマストル殿下はいらっしゃるわ。お約束があるのでしょう?」
「アナ、ご存知なの?」
「ええ。フレックに聞いたわ。可愛らしいゆびきりをなさったそうね?」
「ふふふ。そうなの。これからどんどん男性らしくなっていかれるから、今が一番中性的でお可愛らしい頃ね」
「ホント、可愛いもの、美しいもの好きねぇ」
いわゆる面喰いとは少々違うのだが、とにかく愛らしいもの美しいものを愛でるのが好きなシスティアーナ。王女達の公務や勉学、父侯爵の補佐を務め忙しい中での、密かな楽しみと言えた。
幼馴染みでもあるアナファリテはそのことをよく知っていて、莫迦にするでもなく、また共に楽しむでもないが、その姿が年相応らしくて、本人こそが可愛いと思っている。
サロンのある階下へ向かう階段にさしかかると、ちょうど同じ階段を降りるために反対方向の廊下を来るアスヴェルとエルネストに会う。
アスヴェルは護衛騎士としての装備だけであったが、エルネストはフレキシヴァルトの秘書官を兼ねているだけに幾らか書類を脇に抱えていた。
アナファリテもシスティアーナも、軽く会釈だけで階段を譲る。
アスヴェルは主人である王子の妃アナファリテを優先させようとしたが、「私は急ぎませんから、お務めを優先させてくださいな」と言われれば従うしかない。
仕える主人の妻もまた、優先すべき主人でもあるからだ。
エルネスト達が階段を下り、アナファリテが数段下りたところで、システィアーナもと一歩踏み出した時、目の端に金と銀の絹糸のような髪が目に留まる。
銀糸は長身のファヴィアン。金糸はその主アレクサンドルとデュバルディオだった。
「シス?」
プライベート空間を出るとティア呼びからシス呼びに変わるアナファリテが階上を振り返るが、システィアーナは返事をしなかった。
デュバルディオがアレクサンドルに何かを言い、二人から二歩下がったところでファヴィアンが控えている。アレクサンドルは、また、具合が良くなさそうだった。
「だから、ちゃんと寝てるの?って訊いてんだよ。兄上は色白で繊細な外見だから、貧血気味だとマジで具合悪そうに見えるんだって! お祖父様が生まれつき障害をお持ちだったから、そんなんじゃ兄上までどこか欠陥があるんじゃないかって臣下に疑われるんだよ? それは、誰もが望まないことだろう?」
「⋯⋯そうだね。だけど、最悪の場合でもフレックが⋯⋯」
「兄上!? そんな事考えてたの?」
「デュバルディオ殿下、声を抑えてください」
「そういうことは一度もないよ。だから、最悪の場合、だよ」
「気弱になるなんて許さないからね。僕たちの旗印は兄上じゃなきゃ⋯⋯」
そこで、システィアーナが階段口に居て、そちらを見ていることに気がついたデュバルディオが、決まり悪そうに横を通り過ぎ、階段を下りていく。
「また、眠れない日が続いていらっしゃるのですか?」
「まあ、ね。眠れないのは夜だけで、昼間の仮眠はとっているよ」
「日照時間と活動時間がずれるのは、あまり身体によくないのでは⋯⋯」
「システィアーナ嬢、もっと言ってきかせてください。王系尊属としてのあなたの言葉ならば、王太子殿下でも、少しは聞いてくださるでしょうから」
自分はそんなに偉い人間ではないし、王太子に説教など出来ないが、心配である事を告げて、休みを取るよう願うことは出来る。
「そうだね。また、神経の尖った部分を和らげて眠る気になれる香草茶を淹れてくれて、眠って起きるまで以前のように安眠枕になってくれたり、手を繋いで傍にいてくれるなら、眠れるかもしれないね。ティア?」
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