216 / 263
誰の手を取ればいいの
27.社交界のシーズンオフのご予定は?
しおりを挟むユーフェミアやアルメルティアが、公務の合間に寛ぐサンルームを訪ねてみると、予想通り、ふたりで本をたくさん開いて何かを語り合っていた。
どうやら、ふたりが現在ハマっているシリーズものの英雄譚についてらしい。
物語に興味はないのか、アナファリテがあくびをかみ殺しながら、刺繍をしていた。
「アナもいたのね」
「シス。……なんか、いい匂いがする?」
「ええ。みんなにマフィンを焼いてきましたの」
初心者でも失敗しにくい定番の焼き菓子である。
システィアーナは、これらにナッツを入れたり、紅茶葉を刻んで入れたり、ドライフルーツを入れたりするのが好きで、いつも何種類も焼く。
「さすがね! いただいてもいいかしら?」
「勿論よ。そのために持って来たのだもの」
部屋の隅に待機していたメイドが、ワゴンに茶器を人数分乗せて来る。
控え室の流し台で湯を沸かして来て、茶の用意を始めるメイドに、ここでもシスティアーナが彼女らから仕事を取り上げるかのように制止し、自ら4人分淹れる。
「この、シスのブレンド、真似できないわ」
「アナはお菓子作りとかお茶をブレンドして淹れるとか、元々上手くないじゃない」
「メルティ。一般的な令嬢は、お菓子を作ったり、お茶を自分で淹れたりしないものよ?」
確かに。メイドや侍女がするものだろう。庭のハーブを摘んで茶を淹れる趣味があっても、厨房に入って、料理したり菓子を焼いたりする令嬢はかなり少ない。或いは、やっていたとしても、家の外には作った物も作るという話も持ち出さない。
「わたくしは、気分転換に時々焼くのだけれど、そんなに恥ずかしいことだとは思わないわ。メルティだって、やりたかったらいくらでも教えるし、もちろん厨房に立って一緒にやるわ。でも、やれない、出来ないからって、それもまた恥ずかしい事でもないのよ」
「ん~、私はいいわ。奥宮のパティスリーのお菓子が美味しいし、お茶も侍女が入れるので満足だもの。態々自分でマズいものを作る気はないもの」
「マズい前提なのね」
「お姉様だって、刺繍はお上手でも、きっとお菓子は作れないわよ。少なくともシスより美味しくない出来映えに決まってるわ」
「年期が違うわよ。私だって、やろうと思えば……」
喧嘩ではないが言い合いになる姉妹を置いて、アナファリテがシスティアーナに向き直る。
「ねえ、シス。次の社交シーズンまでの夏の間、どう過ごすの?」
「特には予定はないから、いつもの通り、ミアを手伝いながら、偶に外務省で通訳に駆り出されるんじゃないかしら?
それに、社交界はオフシーズンでも、だからこそ時間も作りやすいと思うから、いつもは中々会えない、侯爵家の令嬢達と非公開で内輪のお茶会するのもいいかしら?」
「そう。……その、ミアの手伝いを減らすとか、通訳を断るとか、纏まった時間は作れないかしら?」
「出来ない事もないと思うけれど…… 何かあるの?」
「う⋯⋯ん。まだ決まった訳じゃないんだけど、ちょっと考えてる事があって」
珍しく歯切れの悪い物言いをするアナファリテ。
「あら、いいんじゃない? 私の方は大丈夫よ? 婦人活動法人もだいたい軌道に乗ったんだし、公務で手が足りなければメルティを使うわ」
「お姉さま?」
「ああ、ごめんなさい。使うという言い方は悪かったわね。メルティだって、公務をこなせる歳よ? 私の手伝いから慣れていくのもいいと思うの」
「ああ、そう言うこと。なら、仕方ないわね。お姉さまやシスが私の歳には、立派に大人に混じって公務をこなされていたのだもの、文句は言えないわ」
「ほら、メルティもそう言ってるから、こちらは気にしないで、アナに付き合ってあげたら?」
これまでやって来た公務を休んでもいい?
ユーフェミアもアナファリテも、何か裏に隠された含みがあるのではないだろうか? システィアーナは不安が募り、曖昧に頷いた。
1
お気に入りに追加
5,597
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄が嬉しかったのでおもわず笑ってしまったら、それを見た元婚約者様が怯え始めたようです
柚木ゆず
恋愛
自分勝手で我が儘で、女癖が悪い婚約者オラース。娘は自分達が幸せになるための道具と考えていて、問題の多い侯爵家の嫡男と無理やり婚約をさせた両親。
そんな人間に囲まれ将来を不安視していた子爵令嬢ノエルは、2年前から家を出て新たな人生を歩む準備を進めていました。
そしてそれが可能となる最後の条件が、『オラースが興味を失くすこと』。けれどオラースはノエルに夢中で達成は困難だと思われていましたが、ある日そんなオラースは心変わり。現在の最愛の人・男爵令嬢ロゼッタと円滑に結婚できるよう、ロゼッタへの嫌がらせなどを捏造された上で婚約破棄を宣言されてしまったのでした。
「オラース様。私は全てを認め、罰として貴族籍を手放し『家』を去ります」
その罪を認めれば様々な問題が発生してしまいますが、今あるものを全部捨てるつもりだったノエルにはノーダメージなもの。むしろ最後の条件を満たしてくれたため嬉しい出来事で、それによってノエルはつい「ふふふふふ」と笑みを零しながら、その場を去ったのでした。
そうして婚約者や家族と縁を切り新たな人生を歩み始めたノエルは、まだ知りません。
その笑みによってオラースは様々な勘違いを行い、次々と自滅してゆくことになることを――。
自身にはやがて、とある出会いが待っていることを――。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる