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誰の手を取ればいいの
18.打診と希望と計画と
しおりを挟む一度は、オルギュストへの贈り物を処分することを態々断りを入れるとは律儀なファヴィアンらしいと納得したが、馬車の中で思い返してみると、手紙でも構わないのでは? という気にもなってくる。
そこを敢えて口頭で詫びるのがファヴィアンだといえばそうとも思える。
たいした問題でもないので、気にしたのはそこまでだった。
帰宅すると、珍しくロイエルドが居て、執事とあれこれ執務をしていた。
「ああ、帰ったのか。お帰り、システィアーナ。ユーフェミア殿下との政務は順調かね?」
「ええ。ただ今戻りました。今度から、アルメルティア殿下も交えてお勉強させる事になりました」
「うむ。今年の社交シーズンにデビュタントなさるから、良い頃合いだろう」
今シーズンはそろそろ終わり、初夏を迎える頃、領地が遠い貴族達はマナーハウスへ帰り、避暑地へ行ったり領地管理に励む季節だ。
晩夏から秋口に掛けての収穫祭が済むと、収支報告と納税がてら、殆どの貴族が王都に集まる。社交シーズンの始まりだ。
その、最初の王家主催の舞踏会で、15歳になったアルメルティアが成人の社交デビューである。
そのすぐ後に、システィアーナも17歳になる。
「元々の予定では、17歳になってすぐに婿を迎え入れて、次期当主の勉強を本格的に始める筈だったのだが⋯⋯」
オルギュストの婚約破棄宣言でそれもなくなった。
「はい。残念です。ですが、お勉強は予定通り始めますわ」
元々、資産運用の得意な執事に習って、幾らかは手伝っていたのだ。
「助かるよ。ソニアリーナはまだ10歳で、将来のことは⋯⋯」
「大丈夫ですわ。リーナが成人する頃には、子供の一人二人も産んで、領地管理も手慣れて、お父さまにご安心していただけますよう精進いたしますわ」
「その、システィアーナ、大丈夫なのか?」
ソニアリーナが成人、デビュタントまで4~5年しかないのだ。
それまでに子供を2人産むとなれば、今年か来年には結婚していなければならない。
「一応、婿に入れると打診されている殿方はいますし、なんとなく考えている方も⋯⋯」
「誰だ?」
ロイエルドの柔和な整った顔が、やや険しい表情になり目が光ったような気がする。
「打診があったのは⋯⋯」
言い淀むシスティアーナ。ロイエルドには話は通っていなかったのだろうか?
「デュバルディオ殿下です」
「殿下が?」
「隣国より嫁がれたクリスティーナ妃様のお子には、王位継承権はありませんから、妥当な臣籍降下先だとお考えなのでしょう。お父さまは宰相ですし」
「ふむ。そうかもしれんな。で? それとなく考えている相手とは?」
ロイエルドからすれば、デュバルディオよりそちらこそ本命であった。
向こうからの申し入れにシスティアーナが熟考するのは当然として、システィアーナ本人が考える相手にこそ、多少なりとも情を持ってよき夫婦になれる可能性がある。
可能ならば、子供達には自分達のように恋愛結婚をして欲しかった。王命が下ってオルギュストとの婚姻契約が結ばれたゆえに口には出来なかったが。
「エル従兄さまですが、フレキシヴァルト殿下の補佐官を正式にお引き受けられましたら、こちらの領地管理に携わる訳にはいかないでしょうね」
「エルネスト、は難しいかもしれないよ。私と陛下で止めているが、幾つか縁談が来ている」
エル従兄さまに縁談が?
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