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小さな嵐はやがて⋯⋯
26.裏側
しおりを挟むマリアンナの指示は──
ハルヴァルヴィア侯爵令嬢が席を外そうとしたら引き留めること
可能なら侯爵令嬢に、無理なら彼女の責に見えるよう同席者に、事故を装って茶を浴びせること
他にも何かチャンスがあれば、侯爵令嬢がドジを踏んだように見せること
それらを実行して侯爵令嬢に恥をかかせることが出来たら、マリアンナが上手く場を収めるという筋書きであった。
マリアンナの側仕えの上級侍女は、国に帰れば陛下にも覚えられている侯爵家の三女で、教養も高く、令嬢としても王家に仕える侍女としても誇りを持っており、このような謀に与するはずもなく、伯爵家四女の自分に命ぜられた。
マリアンナは以前からこの国に足を運び、従弟君の第三王子デュバルディオ殿下や王太子アレクサンドル殿下に気を向けていた。
今回は使節団の代表者をリングバルド国王陛下より拝命し、コンスタンティノーヴェル側からも世話役をつけられて、特使としてもクリスティーナ妃の姪としてももてなされているのだが、その世話役としてつけられた侯爵令嬢ととことん合わないらしく、部屋に戻ると開口一番、彼女への苦情と悪口が飛び出すのである。
令嬢には悪いとは思ったが、一度そうする事で王女が溜飲を下げれば今後は少し大人しくなるだろうと、協力する(させられる)事になったのだが。
それが、まさかコンスタンティノーヴェル国王が出て来る騒ぎになるとは。
コンスタンティノーヴェル王エスタヴィオは、即位してからまだ日は浅いが、慧眼と才知でもって治世を敷く若き賢王であると聞く。
自分達の謀や嘘は見抜かれるのではないかと、侍女は生きた心地がしなかった。
「ハルヴァルヴィア侯爵令嬢システィアーナ。
見た限り、蒼白になっている女官の用意した茶がマリアンナ王女にかかったようだね。そこで這い蹲っている侍女が、自分の失態だと申し立てているが?」
「直接的には。ですが、その侍女が転んで女官に倒れ込んだ原因は、わたくしが不意に動いたせいかと存じます」
カーテシーから顔を伏したまま、システィアーナが答える。
エスタヴィオが視線をエルネストに向け、その唇を噛み締めた不満げな表情から、それがすべてではないと察した。
「自らの失態を認めるか」
「はい」
システィアーナが認めた事で、気を良くしたマリアンナが、これまでの不満を一気に吐き出す。
要約すると。
侯爵令嬢のくせに王女のやることに口を出す不敬者である。
自分を嫌っているがために、わざと意地悪をする。
自分の行動を阻害するのは、王子妃を狙っているのではないか。
等々、聞けば聞くほど聞くに堪えない言いがかりではある。
エスタヴィオは、顔色ひとつ変えず、ただ黙ってすべて聴いていた。
それが、エルネストには更に不満であった。
なぜ、言いがかりもいいような悪口雑言を遮らず、ただ聴いているのか。
周りの人達も、眉を顰めている。
そして、唯一のマリアンナのストッパーだと言うユーンフェルト王子はどこに行ったのか。
マリアンナはここぞとばかりに得意げに不満を並べ立てていた。
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