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小さな嵐の吹くところ

48.女子会と冬薔薇

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 王家と一部の王族しか立ち入らない王城の奥宮の庭園に、不審者が入り込むことは滅多にないと思われたが、フレキシヴァルトの指示通りに、近衛騎士隊からアスヴェルとエルネストがテーブル席脇に、四阿あずまやの周囲に数人護衛を配置して、女子会が始められる。

 正直、マリアンナと話したい事などないが、あのままでは、アレクサンドルの近くにマリアンナが勝手に自分の席を設けようとしたり、ユーンフェイル殿下の率直な質問にエルネストが傷ついて行くだけなのではないかと思えたのだ。

 ユーフェミアは、ドレスと共布で作られた扇を広げて口元を隠しながら、ため息をついた。

「お姉さま、私もため息をつきたいわ」

 アルメルティアもマリアンナから目を逸らした。


 今は早春、まだ王宮裏の風致林や山には雪も残っている。

 ──にも拘わらず

「王宮の薔薇園なのに、寂しいわね? 大輪の白百合はないの? カサブランカだったかしら?」

 元々、薔薇は春から夏に咲くものである。
 つる性ではなく木立こだち性の薔薇に四季咲き • • • • のものがあるが、それとで春から秋に咲くもの。寒さに当てると薔薇は開花出来ないのである。

 それゆえの温室だ。百合も然り。

 シーファークの別邸には多く咲いていたので、そういうものだと思っているのかもしれないが、南の温暖な気候の町だからこそである。

 庭園を管理する職人が丁寧に、剪定・追肥・植え替え根の整理など手入れを行っているからこそ、王都の庭園でも僅かに残った蕾が、陽光の当たる晴れた暖かい日に咲いているのだ。
 それを静かに眺めるのが、五代前の女王ブランカの忙しい中の楽しみであったという。

花の旬一般常識も知らないの? この方は、令嬢達のお茶会や、王宮での夜会などで話題に困らないのかしら?)

 ユーフェミアとアルメルティアは黙って目を合わせ、心の中で肩をすくめる。

冬薔薇ふゆそうびという言葉をご存知?」

 アナファリテが、キク科の蕾を扱った花茶の香りを嗅ぎながら、ひと言放つ。

「冬バラの事でしょ?」
「勿論そうですが、では、冬バラとはどういったものを言うのかもご存知なのかしら?」
「? 冬に咲くから冬バラなんじゃないの?」

 ああ、やはり知らないのか。リングバルド側の人間以外、同じ事を思う。

 マリアンナの専属侍女が、こっそりとお茶のおかわりを注ぎながら顔を寄せ、声を潜めて、秋の開花期を過ぎた後も残った蕾が咲いたものを言うのだと耳打ちする。立ち枯れさせずに蕾を残し、冬でも開花させるのは庭師の腕がものを言うのだとも。

 おそらくは、暗に庭師の腕を労うように庭園を褒めろという助言めいた囁きなのであったのだろうが、マリアンナには正しくは伝わらなかったようだ。

(あの侍女、惜しいわね。それなりに教養もあるみたいだし、おそらくはリングバルドの上位貴族の令嬢なのだろうに、あんな主人を持ったばかりに)

 う、うるさいわね、それくらい知ってるわよ。
 明らかに知らない様子だったが、侍女から口を曲げて顔を背け、誤魔化すようにお茶を飲み干すマリアンナ。 

 茶器をテーブルに戻し立ち上がると、迷路状になった薔薇園を散策したいと言い出し、伯爵家の次男で近衛騎士の美青年をエスコート役に指名し、アスヴェルを背後につけて歩き出した。





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