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小さな嵐の吹くところ

45.アレクサンドルの太陽の髪  

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 爽やかに微笑んで、アレクサンドルの眼を覗き込むユーンフェイル。

「な⋯⋯にを」
「いやさ、普通、上位貴族や王族で、成人した跡継ぎが、婚約者もなく、恋人もなく、かと言って浮き名を流し続けるでもなく、なんてあまりないでしょ? 或いはそういう種類の人物って事もあるかもなんてね」
「ユンフェ、いくらなんでも、さすがにそれは、たぶん、ないよ」
「いや、ディオ、そこはきっちり否定しておこうよ」

 今まで言われたこともない意外な言葉に固まって即座に否定できないアレクサンドルと、代わりに否定しておくデュバルディオに苦笑するフレキシヴァルト。

「言われたことない?」
「ええ。初めてですよ」
「兄上に素気ない態度で袖にされた異国の大使夫人などが、自分の矜恃を保つために苦し紛れに疑うような言い方をする事はあったけど、誰も頷かなかったかな」
「大勢の前で人妻が、気のある素振りで寄ってくるのが悪いよ、僕だってつれなくするよ」

 誰に対しても、特別な存在だと誤解されるような態度はとらないのはフレックやディオも同じであるが、アレクサンドルは徹底していた。

「王太子となってからは特に、私の伴侶になる女性は未来の王妃となる訳ですから、曖昧な態度はとらないようにしています。ですが、かと言って男性と特別親しくしている訳でもありませんから、まだそう言う噂は聞きませんね」
「このまま中年になるまで一人だったら、疑われるかもしれないけどねぇ? 兄上」
「莫迦なことを」
「未来の王妃を慎重に選んでいるというところですか」
「まあ、そうとっていただいても」

 マリアンナの眼が、次兄ユーンフェイルとアレクサンドルの間を往き来する。

 さっき、クリスティーナ妃が嫁して来ているから更にリングバルド国王から妃を取る気はないという話を聴かされたばかりなのに、まだ期待しているのか。

 アルメルティアとユーフェミアが目を合わせて呆れる。


「その手入れの効いた艶やかな髪も、伸ばしていると扱いが大変だろうに、切ろうとは思わないの?」

 フレックは耳も出して首筋に少しかかる程度に切り揃えられている。
 ディオも肩にかかるくらいで、アレクサンドルのように肩甲骨を覆うほどではない。

「一度、フレックが兵役に就く時点で今の長さに切った時、私も切ろうかとは思ったのですが、そう言えばなぜ切らなかったのかな⋯⋯ そもそも、なぜ伸ばして⋯⋯」

 アレクサンドルが首を傾げ、左上をぼんやりと見て考え込む。自分でも解っていないのか。

「だいたい、予想はつくけどね。兄上、自分で解らないの?」
「伸ばしているきっかけが思い出せないな?」
「どこかのお姫さまが、きらきら王子さま素敵とか言ってたからじゃないの?」
「⋯⋯きらきら?」

 王太子になる前は、太陽の笑顔と称えられるほど爛漫に笑っていたアレクサンドル。艶のある真っ直ぐな金髪は、陽光を浴びて煌々しく輝く。

 初めて出会った幼いシスティアーナはまだ少し舌っ足らずで、自分のことをアーナと呼び、アレクサンドルの事をサンディと呼んで、しかも最初は女子だと誤解していた。

 その事を思い出すと、頰に熱がのぼった。





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