145 / 263
小さな嵐の吹くところ
42.闖入者は王子さま
しおりを挟む波打つ黄金色の髪は肩にかかる程度に梳いて揃えられ、柔らかな前髪は秀でた額を半分隠してサイドに流されているのが清潔感が感じられ、その整った相貌を損ねることはない。
ロイヤルブルーの瞳が、システィアーナの薄紅の髪をとらえる。
「女王ブランカ陛下のお血筋の姫君とお見受け致します。コンスタンティノーヴェルにとっても友好国であるリングバルド王太子が第二子ユーンフェイル・スカイアと申します。以後、お見知りおきを」
跪いてシスティアーナの手を取り、白く柔らかな甲にそっと口づける。
「お兄さま!! その娘はただの侯爵令嬢ですわ! 従妹のアルメルティアは隣の花刺繍のドレスよ」
マリアンナが苛立ちに上気して怒鳴り立てる。
「おや、そうなのかい? 一度も直接会ったことがないとはいえ、さすがにアルメルティア殿下を間違えはしないさ。クリスティーナ叔母上の面影があるしね。
赤毛とも微妙に違う、美しい薔薇色の髪をしていたというブランカ陛下を思わせる薄紅の髪と稀少なパパラチアサファイアの瞳が、王家の血筋だと思ったのだけどなぁ」
「祖母が、ブランカ陛下の王妹殿下の興した女公爵家の者です。髪はそのせいでしょう」
ほら、やっぱり。五代も前の王家の傍流なんじゃない。それも祖母が。
マリアンナは内心、ホッとした。周りが彼女を丁寧に扱うので、臣籍降下した王家の娘である可能性も危惧していたのだ。
ユーンフェイルは、アルメルティアにも同様に丁寧に挨拶をする。
「直接会うのは初めまして、だね? 叔母上の自慢のゴールドブロンドと我がリングバルドのロイヤルブルーの瞳が美しく、薔薇色の頰と唇がとても愛らしい。今に求婚者が列を成すね」
「ありがとうございます。そんなこと言われたの初めてです」
はにかみ、俯きたくなるのを堪え、礼を述べるメルティ。
「ちょっと。突然やって来て、流れるようにうちの妹を口説かないでくれる?」
「やあ、ディオ。ひと月ぶり。君が帰国して、我が国の美姫達は皆気落ちしているよ」
「人を色事師みたいに言わないでよね。僕が外ではユンフェみたいに美女を見たら誉め称えたりしてると、妹達が誤解したらどうするのさ」
「「あら、違いますの?」」「違うのかい?」
メルティの疑問の声に、それまで静観していたフレック夫妻の声が重なる。
「フレック兄さんまで疑うの?」
「これはこれは。順番が前後して申し訳ない。非公式訪問と言うことで、初回のみお見逃しください。
初にお目にかかります、リングバルド王太子が第二子ユーンフェイル・スカイアにございます。
フレキシヴァルト殿下夫妻にはご機嫌麗しく⋯⋯」
上質だが装飾もないシンプルな衣装で礼をとるユーンフェイル。
王族らしい華美な服装でないからこそ、その熟れた正しいスマートな姿勢がよく解る。
「それで、用向きは、妹君を迎えに来ただけかな?」
柔和に微笑むフレックと懐っこい笑みを浮かべ姿勢を正すユーンフェイル。
友好的かつ妃を迎え入れた外戚でもある隣国の王子同士ながら、これが初顔合わせであった。
0
お気に入りに追加
5,597
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄が嬉しかったのでおもわず笑ってしまったら、それを見た元婚約者様が怯え始めたようです
柚木ゆず
恋愛
自分勝手で我が儘で、女癖が悪い婚約者オラース。娘は自分達が幸せになるための道具と考えていて、問題の多い侯爵家の嫡男と無理やり婚約をさせた両親。
そんな人間に囲まれ将来を不安視していた子爵令嬢ノエルは、2年前から家を出て新たな人生を歩む準備を進めていました。
そしてそれが可能となる最後の条件が、『オラースが興味を失くすこと』。けれどオラースはノエルに夢中で達成は困難だと思われていましたが、ある日そんなオラースは心変わり。現在の最愛の人・男爵令嬢ロゼッタと円滑に結婚できるよう、ロゼッタへの嫌がらせなどを捏造された上で婚約破棄を宣言されてしまったのでした。
「オラース様。私は全てを認め、罰として貴族籍を手放し『家』を去ります」
その罪を認めれば様々な問題が発生してしまいますが、今あるものを全部捨てるつもりだったノエルにはノーダメージなもの。むしろ最後の条件を満たしてくれたため嬉しい出来事で、それによってノエルはつい「ふふふふふ」と笑みを零しながら、その場を去ったのでした。
そうして婚約者や家族と縁を切り新たな人生を歩み始めたノエルは、まだ知りません。
その笑みによってオラースは様々な勘違いを行い、次々と自滅してゆくことになることを――。
自身にはやがて、とある出会いが待っていることを――。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
待ち遠しかった卒業パーティー
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。
しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。
それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う
jun
恋愛
相思相愛の婚約者と後半年で結婚という時、彼の浮気発覚。そして浮気相手が妊娠…。
婚約は破棄され、私は今日もいきつけの店で一人静かにお酒を飲む。
少し離れた席で、似たような酒の飲み方をする男。
そのうち話すようになり、徐々に距離が縮まる二人。
しかし、男には家庭があった…。
2024/02/03 短編から長編に変更しました。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる