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小さな嵐の吹くところ
38.王家傍流のお茶会の裏側
しおりを挟むアレクサンドルは、基本、アルカイックスマイルを崩さない。
それは、令嬢達が近寄れない、目に見えない防壁でもあるかのようだった。
ダンスこそないものの、会話を楽しみ交流が目的の格式張らないお茶会なのに、近寄ることが出来ない。
元々、王家主催の夜会でもアレクサンドルは踊らないのでダンスの相手は諦めているが、こんな時くらい話してみたい。あわよくば覚えてもらって、近しくなりたい。
叶わぬ夢に、歯がみする令嬢達。
立食形式のお茶会を装った、次世代を担う貴族子息の査定会。
要職に取り立てるか、頭角を現すまで静観するか、当主を継ぐ時に降爵させるかを見極めるためのものである為、既に側で働いているファヴィアンやエルネスト、こちらから声をかけているユーヴェルフィオは招かれていない。
なるべく多くの子息達と話すように、アレクサンドルはいつもより移動を多めにしていた。
現王弟の子息──従弟達は、人は善いが凡庸であったり、王族であることにあぐらをかいた俗物であったり、嘆かわしくて普段は付き合いがない。
彼らから公務を請け負いたいと声をかけてくることもなければ、政策に意見したり協力してくることもない。
叔父達は、さすがに父と同じ王家の者としての教育を受けていただけの働きはそこそこ熟すが、権力集中を回避する名目で、大臣や監督官には就いていない。
エスタヴィオの弟妹とは思えないほど人がよくて、こちらが目を光らせないと騙されたり体よく担がれたりしそうなのだ。
従兄弟達には、成人間近になれば兵役だけは務めてもらうつもりだが、早々に王族の務めを果たそうとしない彼らの事は、エスタヴィオもアレクサンドルも、今更査定するまでもなく斬り捨てていた。
ので、彼らの集団には軽い挨拶だけで、すぐに別の子息達の集まったテーブルに向かう。
そうして、数人ごとに見極めていくのだ。
アレクサンドルはこれを年数回行っていた。
「王太子殿下。殿下は、15の時と17歳の頃に、短期間限定で外遊をなさっていましたね?」
「ええ。他国の学舎に通い学んだり見識を深めたことは、私という人間に厚みを持たせるよい経験でした」
声をかけてきたのは、数世代ごとに王妹が降嫁してきたり王弟を婿養子に迎え入れたりして公爵位を保ってきた、王家傍流の古い家系の子息。
そういう本人も、昨年西の大国への留学から戻り、治水課に籍を置き学んだことを活かしているので、アレクサンドルにもエスタヴィオにも及第点の内申を得ている。
こうした、公爵位を保つ努力をしている家ばかりではないのが実状で、王家傍流でも公爵位を保てるのは数世代まで、見合う功績がなければ降爵すべしという法を定めた先祖を誉め称えたい。
「実は、私の妹も、北の隣国で学んでいて、先月戻ったばかりなのですよ。──フレイラ」
兄に呼ばれ、頰をうっすらと染めて、金の巻き毛が目をひく可憐といってもいい美少女が、アレクサンドル達のテーブルに近寄ってきた。
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