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小さな嵐の吹くところ
23.解放
しおりを挟むそれまでは向こうにも事情があるのだと、同情心も持って剣を振るうことを躊躇っていたが、システィアーナが捕らえられているのを見て、頭の中で複雑に絡んでいた考えがすべて消え、ひとつになった。
「シスを離せ」
殆ど足音を立てずに滑るように進み、システィアーナを背後から捕らえている男の左肩に向かい剣を振り抜く。
「え?」
気の抜けた声を漏らしたのはユーフェミア。
ユーフェミアの肩を支えていたデュバルディオと護衛騎士達は声も出さず、ただ見ていた。
刃毀れの酷い古びた剣をシスティアーナに押しつけるようにして捕らえていた男の、彼女の帽子を剥いで投げ捨てた左腕の上腕から先がなくなっていた。
二呼吸ほどの空白の後、聞くに耐えない男の悲鳴が上がり、解放されたシスティアーナは、幸いにも赤い飛沫を被ることなくエルネストの腕の中に収まっていた。
「え⋯⋯る、従兄さま」
「シス、怪我はないか? 痛むところは?」
「だ、いじょ、ぶです。エル従兄さまこそ、お怪我は?」
「大事ない。⋯⋯シス。無事でよかった」
きゅ
ワンピースの生地が絞られるような、僅かな布ズレの音と共に、エルネストに抱き締められていた。
とくとくとく
自分も、恐怖と驚きと、祖父と漁夫達との確執の哀しみと不安に胸が苦しかったが、エルネストの鼓動もそれ以上に速かった。
熱いほどに温かく、息遣いも先程までの立ち回りで荒かったが、それでも、胸が騒ぐのに、エルネストの腕の中は安心感から次第に落ち着けた。
「赤味の差した淡い金髪⋯⋯ 本当に先々代王弟の血縁者カ」
「宝石のようナ紅色の金髪。憎き金紅色の王族、忘れるモノカ」
「王女を捕らえられナカッタ。もうお終いダ」
「せめテ、家族だけは許してクレ。島のみんなも関係ナイ。我々の独断ダ」
武器(古剣と漁銛)を取り上げられ、強打されて痺れた手足を投げ出して座らされている漁夫達は、帽子を脱がされたシスティアーナを見て、目の敵にしているドゥウェルヴィア公爵の血縁であることを確認し、悔しがった。
「エルネスト。気持ちはわかるが、そろそろ⋯⋯」
遠慮がちなディオの声に我に返り、そっとシスティアーナを放して、男たちに向き直る。
本当の王家──デュバルディオ第三王子とユーフェミア第一王女──がいるにもかかわらず、漁夫達はシスティアーナしか見ていなかった。
五代前の女王ブランカほど赤味は濃くないが、艶のある赤毛のドゥウェルヴィア公爵。
ローズピンクの艶めく髪の母エルティーネ。
父ロイエルドのプラチナブロンドを受け継いで淡い金髪だが、薄紅の艶を持つシスティアーナ。
漁夫達には、システィアーナが王女であった。
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