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小さな嵐の吹くところ
22.人質
しおりを挟むシスティアーナの背後の男を報せる声に反応したエルネストは、身を反らして躱し、心の中で謝りつつ、手負いの男を蹴り飛ばした。
今度こそ、うめき声を上げ動かなくなった。
「エルネスト、大活躍だな」
「代わって、くださっても、いいんです、よっ、と」
「あ、僕、荒事苦手なんで、お任せします」
王宮騎士団に所属し、小隊の士官として従軍はしているが兵役のためであり、殆ど外交に時間を費やしていて国内にいることが少なく、実際には実戦経験はないディオ。
エルネストも、王立学校でも騎士コースを取っておらず、兵役特例措置で訓練に参加していただけなのでまだ、従騎士になってから数回王城背後の森の野犬討伐と、日常的なフレックの身辺警護くらいしか、出兵経験はない。
対人ともなれば、これが初めてである。
剣術の型がいいとか才能があるとかだけでは、まだ負担が大きかった。特に精神面で。
犯罪者になってしまったものの家族を思う、やむにやまれぬ事情を聞かされ、僅かに同情心も生まれてしまっているのが大きいようだった。
襲撃者たちの一人が林の中に逃げ出したが、騎士もエルネストも、ユーフェミアとディオの警護を優先し深追いはしなかった。
現場に残った漁夫達を纏めて座らせ、武器を取り上げる。
ユーフェミアの護衛の女性騎士が一人、馬を駆って報せに行った。
「彼らをどうします?」
「別荘地から降りて来た王族の誰かとして捕らえようとしたのであって、ユーフェミア様やデュバルディオ様と知っての事ではないようですし⋯⋯」
王家に対する反逆罪とまではいかないのではないのか? エルネストが訊ねようとした時──
「きゃああ!? シス!!」
ユーフェミアの悲鳴に振り返ると、先程逃げたはずの一人が、システィアーナを背後から羽交い締めにしていた。
「オマエ、さっき、港町を作った王族のコトヲ『お祖父さま』と言ったナ? オマエ、王女か?」
王女はユーフェミアだが、それは今、彼らには関係ないだろう。
自分達の生活を一変させた怨むべき王族、先々代王弟ドゥウェルヴィア公爵の孫娘。
最高の人質が居るではないか。
「賠償金請求シテ謝罪させるのに、これ以上の人質はナイ」
動揺するユーフェミアを支えながら下がり、護衛騎士のそばに寄るデュバルディオ。
エルネストも、ユーフェミアよりも動揺していた。
自分がついていながら、システィアーナを危険に晒している。
「賠償金ヲもらっても、謝罪させても、海も生活も元に戻らない。オマエを傷つけて溜飲を下げるのもイイカ」
──システィアーナを傷つける?
エルネストの動揺は怒りに変わり、感情が爆発した。
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