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小さな嵐の吹くところ
19.農園と牧場の視察の後に
しおりを挟む農園で出された食事は、果物を主に使った料理ではあったが、充分主食、副食にたえるものであった。
「とても美味でしたわ。品質も良くて、皆活き活きと働かれているのがこの視察でよく解りました。これからも精進なさってね」
「ありがたきお言葉、肝に銘じます」
ユーフェミアの言葉に、従業員も嬉しげに返し、新鮮な果物を献上するというのを丁重に断りを入れ、次の牧場へ向かう。
農園は斜面を利用して作物が良く陽に当たるように広がっていたが、牧場は多少の丘を利用しつつも、基本平地を横に広げられていた。
坂を下り、草地に高い木の柵が広がる牧場には、軍馬に向いた逞しい馬がたくさん駆け回っていた。
その奥にも、羊が群れる山裾の斜面と、砂地に小型の山豚が飼育されていて、ここでも家鶏がそこらを自由に歩きまわっていた。
「メインは軍馬の飼育みたいですけど、羊や豚は食肉用でしょうか?」
「羊は羊毛も獲るのかも」
牧場主は、町の昔からの地主で、馬主と養豚業者、羊毛・食肉業者が共同経営で、三人で代表者なのだという。
町の食肉を満たすために始めた事だが、味と品質が評判を呼び、他の街からも取り寄せられないかと問い合わせが来るようになっているのだという。
「ありがたい事に、ここだけでは供給が追いつかなくなってきたので、近々、隣町の高原地帯に豚と羊を拡張するつもりなんです」
民家もない高原に、程よい牧場に向いた土地があると言うので、近々手を広げるらしい。
ここでも羊や鶏に好かれる能力を発揮したエルネストにほっこりしながら、4人は農園を後にする。
「今夜は、新型の客船で一泊よ」
既に、宿泊に必要なものは、従者や侍女によって用意され、船着き場に届けられている。
ユーフェミアによれば、客船の中は上流階級向けの高級宿のような内装と設備で、目的地まで快適に過ごせるように設計されているらしい。
林道を抜けた町外れから、王家の馬車で港へ向かう予定であるが、エルネストがまわりを気にしながら歩くのが、システィアーナには不安に感じた。
「エル従兄さま、どうかなさって?」
「⋯⋯うん、さっきから、護衛騎士とは別の歩調でついてくる人が何人か居るんだ」
「え?」
「怪しいのかい?」
エルネストの言葉に顔色も変えず、振り返らずに、ディオが訊ねる。
「左右の足を踏み込む音に違和感があるから、帯剣してるんじゃないかな。別荘地からもうすぐ町に着く林道で、自警団でもないだろうし⋯⋯」
牧場からの私道を抜ける少し前辺りから、つかず離れずでこちらに合わせてついて来ているらしい。
「例え彼らが襲って来ても、その後ろにいる護衛騎士が制圧するだろうとは思うけど、飛び道具を持ってないとは限らない」
振り返って確かめた訳ではなく、砂利や土を踏む音から帯剣していると想像しているだけである。
「もしかしたら、牧場の関係者の可能性もあるし。夜間の家畜泥棒とかへの用心棒とか」
そうならいいが、不審人物だった場合、エルネスト一人ならまだなんとかなるが、兵役軽減措置で王立騎士団に所属し、訓練に付き合う程度のディオや、観戦以外まったく戦闘になれていない王女と令嬢がいるのだ。
4人は物騒な事にはなって欲しくないと願った。
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