上 下
91 / 263
婚約破棄後の立ち位置と晴れない心

18.婚姻の条件

しおりを挟む


 羊皮紙に飾り文字で書かれた家名は、王家コンスタンティノスの王女ふたり、エステール女公爵の伴侶の姪である侯爵令嬢、その他にも、王宮で行儀見習をしている侯爵家や伯爵家の令嬢の名もあった。

 それとは別紙に、まだ、公爵家や侯爵家の令嬢の名が連ねていたが、羊皮紙に書かれた名しか読み上げなかったのは、エスタヴィオの中では、エルネストの伴侶に許可する気がないのだろう。

「どうだい? 思ったより、多くの女性の指名を受けているだろう?」
「⋯⋯ええ、まあ、こんなにあるとは」
「うん、システィアーナしか見てなかったんだろうね、君は」

 改めてそう言われると、羞恥心が涌いてくる。
 そんなにわかりやすかっただろうか?

「そうだね。恐らく気がついてないのは、システィアーナ本人くらいじゃないか?
 ソニアリーナは、君がシスティアーナばかり見ていることは判っているだろうが、それがどの程度想っているのか解ってな⋯⋯いや、あの子も女性だし、きっと解っているだろうね」

 気がついてないのはシスティアーナ本人くらい⋯⋯ それはそれで寂しいものがある。

「君は、巷の若い娘さんのように恋にしか価値観を見いだせないという事もないだろうが、恐らく、貴族として生きるには、システィアーナを愛しすぎているだろう」

 勿論、悪いことではないが、政治を動かず地位にいる高位貴族には、生きにくいだろうね。

 自ら淹れ直した紅茶を飲み干すとエスタヴィオは、口元は笑みに端を上げ、目元は悲しげにエルネストを見る。

「だからね。可哀想だけれど、決定権は、システィアーナにある」
「システィアーナに?」
「そう。期限は君が兵役に出るまで⋯⋯は短すぎてさすがに可哀想か。兵役から戻ってどの役職に就くかを決めるまで。ちなみに、戻って来てから探すのは無しだよ。時間を無駄にしたくないからね。
 兵役に就いている間も足掻くことは許そうかな。ただし、自分から結婚してくれと言うのは無し。
 あくまでも、システィアーナが、自分が侯爵家を継ぐ時に、隣にいるのはエルネストでなければだめだと申し出たら、彼女との結婚は許してもいい」
「え⋯⋯」

 エルネストはわかりやすく頰を染めて顔を上げ、エスタヴィオと目を合わせる。

「ただし、君が兵役から戻って就くポストが決まった段階で、システィアーナが君を望まなかったらこの話は無しだ。
 勿論、彼女が別の男性を選んでも無し。
 君の公爵家次男としての将来の身の振り方が決まった時に、システィアーナが誰も選んでいなくても同じ事だよ。
 あくまでも、期限内に、君から愛を乞わずに、システィアーナが君を選んだ時のみ許可を出すよ」

「その、システィアーナが別の人を選ぶか、誰も選ばなかった場合、自分は⋯⋯」
「この三人の中から娶りたい人を選んでもらおうか。ただし、ユーフェミアとエステール公爵家傍系の侯爵令嬢を選んだ場合は、君は、当主の配偶者──入り婿という形になるがね?」

 どうせ、今の自分にとっては、システィアーナでなければ、誰でもそうは変わらない。また、元々次男で家督を継ぐ予定はなかったので、システィアーナの配偶者になっても、別の女当主の配偶者になっても、同じ事だ。

「そうだねぇ。兵役の期間はともかく、遠方に着任したら、システィアーナの傍にいられないのは不利だよね?」

「はぁ⋯⋯」

 それこそ、無理を言えないのではないか。実力や経験など配属の都合もあるだろう。
 そもそも、今、エスタヴィオが遠方は不利だよねと言い出したところで、個人の都合で勝手に変更できる訳もない。が、

「⋯⋯ああ、心配しないで。エルネストは、今、師事している近衛騎士の従騎士スクワイアを三年間やることになってるから」

 手元の書類を確認して、言い放つエスタヴィオ。
 エルネストは、内容が脳に染みなかったのか、国王に対して訊き返してしまった。

「は? 陛下、今、なんと?」
「だから、今、フレキシヴァルトの私設秘書と近衛騎士の従者と兼任してるでしょ? それを正式に従騎士スクワイアを三年間務めることで兵役と見做すから。
 何、普通の人より一年長いけど、アレクサンドルやフレキシヴァルトも務めたんだから、大丈夫だよね?」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄が嬉しかったのでおもわず笑ってしまったら、それを見た元婚約者様が怯え始めたようです

柚木ゆず
恋愛
 自分勝手で我が儘で、女癖が悪い婚約者オラース。娘は自分達が幸せになるための道具と考えていて、問題の多い侯爵家の嫡男と無理やり婚約をさせた両親。  そんな人間に囲まれ将来を不安視していた子爵令嬢ノエルは、2年前から家を出て新たな人生を歩む準備を進めていました。  そしてそれが可能となる最後の条件が、『オラースが興味を失くすこと』。けれどオラースはノエルに夢中で達成は困難だと思われていましたが、ある日そんなオラースは心変わり。現在の最愛の人・男爵令嬢ロゼッタと円滑に結婚できるよう、ロゼッタへの嫌がらせなどを捏造された上で婚約破棄を宣言されてしまったのでした。 「オラース様。私は全てを認め、罰として貴族籍を手放し『家』を去ります」  その罪を認めれば様々な問題が発生してしまいますが、今あるものを全部捨てるつもりだったノエルにはノーダメージなもの。むしろ最後の条件を満たしてくれたため嬉しい出来事で、それによってノエルはつい「ふふふふふ」と笑みを零しながら、その場を去ったのでした。  そうして婚約者や家族と縁を切り新たな人生を歩み始めたノエルは、まだ知りません。  その笑みによってオラースは様々な勘違いを行い、次々と自滅してゆくことになることを――。  自身にはやがて、とある出会いが待っていることを――。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

信じないだろうが、愛しているのはお前だけだと貴方は言う

jun
恋愛
相思相愛の婚約者と後半年で結婚という時、彼の浮気発覚。そして浮気相手が妊娠…。 婚約は破棄され、私は今日もいきつけの店で一人静かにお酒を飲む。 少し離れた席で、似たような酒の飲み方をする男。 そのうち話すようになり、徐々に距離が縮まる二人。 しかし、男には家庭があった…。 2024/02/03 短編から長編に変更しました。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

処理中です...